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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
過去編

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【正史】0-15 太陽は大地と共にある

今回、ティエラとソルのほのぼのエピソードになりました。

ティエラ12歳、ソル17歳。今回22歳のルーナは不在。



 今日のティエラは、自室の寝台に腰かけ、縫物をしていた。


「あんた、また変なこと、思いついてんのな」


 ソルがそう言って、ティエラに声をかける。

 彼は、昔からの定位置である寝椅子に転がっていた。

 近頃、彼は十七となり、成人を迎えた。騎士見習いから、騎士になっている。剣の神器の継承もほとんど済んでいる状態だった。父であるイリョスから剣の守護者を引き継いだソルには、独自の裁量権が与えられている。そのため、成人前後での彼の生活にはほとんど変化がなく、ティエラの近くでいつものように過ごしていた。


「変なことって、何よ」


 ティエラが口をとがらせながら、ソルに訴える。

 寝椅子の上で、彼は身体を起こす。そうして、彼女を指さした。


「それだよ、それ。突然裁縫とか、あんた、一体どうしたんだよ」


「いいじゃない、私が裁縫をはじめたって」


 不満げにティエラは話す。ソルが、彼女の方に歩き始める。


「また、ろくでもないことが起きるんじゃないかって、俺は心配してるんだよ」


 ため息をつく彼に対し、「もう」とティエラは文句を言う。

 彼女は針を扱っていたが、視線をソルに向けた瞬間、手元が狂った。


「いたっ……!」


 ティエラは、針の先で、うっかり左手の人差し指を刺してしまっていた。指先に、ぷくりと朱い珠が出来る。

 癒しの術を使っても良いが、そこまでしなくても大丈夫だろう。何か紙で吸い取ろうと思い、彼女は視線をさまよわせる。


「ほら、言わんこっちゃない」


 ソルが、再度ため息をつきながら、ティエラの近くに跪いた。

 彼女は彼にそっぽを向いた。


「ソルが、声をかけてくるからよ」


 八つ当たりだとは分かっているが、彼の言ったとおりになったのが悔しかったので、ティエラはそう主張した。


――突然、ソルに左手首を掴まれる。


 ティエラは、反射的に彼の方を振り向く。


 彼女の左手の人差し指を、ソルが咥えていた。

 ティエラは、驚いてすぐには言葉が出ない。

 指先に、彼の舌が触れていて、熱い。そのまま血を吸われるのが分かった。思わず声が出てしまう。ティエラは、目を丸くしたままソルを見ていると、しばらくしてから指先から彼の口が離れた。


「あ、悪い……」


 彼女は、すぐに言葉が出なかった。

 次第に、ティエラは自身の頬が紅潮してきたことに気づく。

 左手首は、ソルに掴まれたままだ。


 昔の彼だったら、同じ場面でも、紙を渡して終わりだったと思うのだが……。


 最近のソルの行動が、今までの彼とは違うことが増えてきていて、ティエラは戸惑うことがある。


 ソルも耳が赤くなっている。彼の、照れている時の癖だ。その姿を見て、ますますティエラは恥ずかしくなってしまう。


 なんとか話題を切り替えようと、彼女は声を出した。


「ねえ、スフェラ公国との戦争は、本当に起こるのかしら?」


 ソルも気を取り直した様子だった。


「ああ、それは避けられないんじゃないか?」


「じゃあ、イリョス叔父様から、ソルに守護者の継承が終わっているわけでしょう。戦争になったら、貴方も参加するの?」


 最近、ずっと疑問に思っていることを、ティエラは口に出した。


「分からないな。俺かルーナ、神器の使い手のどちらかは参戦しないといけないだろうな」


 ソルか、ルーナか……。


 どちらもティエラにとっては大切な人だ。


 出来る事なら、戦など起こってほしくはない。


 そうして、ティエラは呟く様に言った。


「私、ソルがそばにいない状況が、全く想像出来ない」


「今までも、時々離れてたろ?」


「でもそれって、一日の間の数時間とか、夜一緒にいないぐらいだったでしょう」


 彼が参戦した場合、数日、下手したら数カ月は離ればなれになるだろう。

 ティエラの表情が少しだけ陰った。

 ソルが、口を開く。


「俺も、あんたと離れるところは、想像しづらいな」


 彼も自分と同じ気持ちだったようだ。


 ティエラは、生まれてすぐに母を失くしている。

 父は代わりに優しく接してくれていたが、国王としての務めと、病弱であることなどがあり、毎日甘えることは許されなかった。


 叔父である大公プラティエスや、その妻であるフロース。夫婦もティエラに優しかったが、ウルブの都の統治などもあり、たまにしか会うことはない。

 

 幼少期から、ティエラのお世話係をしてくれていたソルの姉オルドーも、今は結婚し、城から出て行ってしまっている。


 グレーテルが代わりにお世話係として来てくれたが、毎日一緒なわけではない。


 数年前に出来た婚約者のルーナも、宰相補佐の仕事が忙しくて、毎日会えるわけではない。特に、ここ最近は戦の事やプラティエスの研究を手伝っているという話であり、会う回数はめっきり減ってしまっている。ただ、その分、一度会った時の甘やかしがすごいのだが……。


(これまで十二年近く生きてきて、私と毎日一緒に過ごしてくれていたのは……)


 彼女にとっては、ソルだけだった。


 ソルがいない日々というのが、ティエラには分からなかった。

 

 ティエラは俯いてしまう。


 考えると、なんだか自分が一人きりなような気分になって、胸が苦しくなってしまう。


(なんだろう……とても、怖い)


 彼女の左手首を握るソルの力が強くなった。


 はっとして、ティエラは顔を上げる。

 ソルの碧の瞳と目が合った。


「仮に戦争に向かうことになったとして」


 ソルが、ゆっくりと続ける。


「どれだけ距離が離れていようとも、俺は、あんたのことを毎日思い出すよ」


 ティエラの金の瞳が揺れる。


「あんたも、俺のことを毎日思い出してくれ」


「毎日、思い出す?」


 ソルの言葉に、ティエラは問い返した。

 彼は彼女から目を離すことなく、告げる。


「そうだ。身体はそばにいないかもしれない。だけど、俺の心は、ずっとあんたと一緒にいるよ」


 ティエラは、彼に微笑む。

 

「……ソル、なんだか難しいわ、この話」


 ティエラにそう言われて、ソルは「うまい言い方が見つからないな」とぶつぶつ言っていた。


(ソルが言いたいこと、本当は分かる)

 

 彼女は、目尻が熱くなるのを感じていた。


 まだ実際に、彼が戦に向かうことが決まったわけではない。


 離れていたとしても、ソルとティエラの心は一緒にいる。


 そう考えたら、彼女はなんだか心がぽかぽかしたのだった。



お付き合いくださいましてありがとうございます。

☆評価&新作『蒼星のセレス』をお願いいたします。

こちらは過去編が終わったら(戦争→戦後であと数話かな?)、いよいよルーナのifルートに入りたいと考えています。

新作は、お兄様ラブな水色髪金瞳の少女(11)と不思議くん(二重人格?)な黒髪紅眼の少年(17)の話になります。どちらも毎日更新。興味のある方は、どうぞそちらもよろしくお願いいたします。

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