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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
過去編

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【正史】0-4 月と太陽の輪舞曲1 

2分割になってしまいました、大変申し訳ございません。

ヘイトのためすぎは良くないので、早く払拭できるように頑張ります。


「――ということでした。以上で報告は終わりです」


「ありがとうルーナ。すぐに手配を」


 国王は、すぐに近くにいた斥候に声をかける。

 ルーナに微笑み返した後、国王は、ルーナの隣に立つ青年に声を掛けた。


「ノワ、すまないね、君の祝いの場だと言うのに」


「いえ、滅相もございません」


 国王の隣に立つプラティエスは、三人のやり取りをみて、ぽつりとつぶやいた。


「あとは、間に合えば良いんだがな」


 


※※※




「祝いの場とか、面倒だから嫌なんだよな」


 紅い髪をした少年が、ティエラにそう声をかけてきた。彼は、ティエラの部屋にある寝椅子の上に転がっている。


「ソル、騎士学校の制服、しわになっちゃうわよ」


 ティエラが、寝転がるソルに不満を告げる。

 彼女は、先ほど祝いの場のために準備してもらっていた、桃色のドレスへと着替え終わったばかりだ。

 次に、お世話係の女性に髪を結ってもらっている。お世話係の女性は、ややつった瞳、蠱惑的なふっくらとした唇を持ち、黒髪を頭頂部で一本結びにしている女性だ。理知的な雰囲気が漂っている。お世話係が着る黒いドレスに、フリルのあしらわれた白いエプロンを着用している。彼女の、ティエラの長い髪に装飾をする手際は、とても手慣れたものである。


「ヘンゼル、もしかして出来上がりそうなの? オルドーも早かったけれど、貴女はもっと早いわ」


 ティエラが、背後で髪を整えてくれている女性にそう声を掛けた。


「あともう少しです。どうかお待ちを。グレーテル、花を」


 ヘンゼルと呼ばれた女性は、脇に立つ彼女によく似た少女グレーテルにそう声を掛ける。グレーテルは、年のころはティエラに近く、まだ十になるかどうかだ。ヘンゼルと同じ衣装の子どもが着用するものを着ている。黒髪を二つ結びにしている。

 ヘンゼルとグレーテルは姉妹である。ソルの姉であるオルドーが以前はお世話係を勤めてくれていたが、出産のために城を出たため、代わりにお世話係になってくれている。ティエラがルーナに頼んだところ、二人を男爵家の養子にした上で城に上げてくれた。


「はい、ヘンゼルお姉さま~~」


 グレーテルは、そう言いながら、手に持っていたピンク色をした花を、姉のヘンゼルへと手渡した。

 そうして、彼女から花を受け取って、ティエラの頭に花を挿す。


「姫様、できました」


 ほとんど表情を変えないヘンゼルだが、少しだけ口元を緩めた。


「ありがとう、ヘンゼル」


 ティエラは、ヘンゼルに礼を言うと、「いえ」とだけ返って来た。

 それに重なるように、グレーテルがティエラに声を掛けた。


「姫様、絵本の中のお姫さまみたいですよ~~かわいいです~~ソル様もそう思いますよね~~」


 そう言って彼女は、寝転がっていたはずのソルの方に視線をやる。

 ティエラも彼の方を見ると、もう起き上がってこちら側を見ていた。


「……悪くはない」


「もう、ソル様、なんでそこでカワイイって言えないんですか~~?」


 グレーテルにそう言われたソルは、「うるせぇな」とぶつぶつ言っていた。


 ティエラは鏡の前に立ち、特別なドレスを着ている自分を見た。

 ソルも悪くないと言ったように、わりと似合っていると思う。


「そちら、ルーナ様がお選びになったんですよ~~。お姉さま、教えたらいいのに~~」


 無邪気な様子で、グレーテルがティエラにそう説明する。

 グレーテルは黙ったままだ。相変わらず、グレーテルとは違い、彼女が何を考えているのか、ティエラには分からない。


「ルーナが……」


 そう言われて、昨日の彼の事を思い出した。

 彼は、あの女性の元に会いに行ったのだろうか。


(とっても美人なお姉さんだったわ……)


 ヘンゼルも美人だが、あの貴族の女性もとても綺麗だった。

 それに比べて、まだティエラはとても幼い。

 鏡の前でため息をつく。


(婚約者だと言っても、せいぜいが妹にしか見えないわ……)


 ティエラが、鏡の前で落ち込んでいると、扉を叩く音がした。

 ルーナが部屋に入って来た。嬉しい気持ちと、少しだけ寂しい気持ちが同時に襲ってくる。

 彼女に気づいたルーナが、ティエラの元に向かってくる。


「とても愛らしい。貴女の隣を歩けて光栄です」


 ルーナはティエラの前に跪き、彼女の手をとり、手の甲に口づける。


「でも本当は、周りの皆には見せずに、この部屋に閉じ込めておきたいくらいです」


 ティエラは、一連のルーナの動きに顔が真っ赤になってしまっていた。


 それを見てソルは「やっぱり、この男、変態だ……」とぼやいている。

 グレーテルは、「わあ、なんだか嫌な気持ちがします~~」と、言葉とは対照的に目を輝かせていた。ヘンゼルは、ティエラとルーナからは視線を外している。

 ティエラに視線を合わせるルーナを見て、ティエラがどきどきしていると――。


「あの~~。申し訳ございませんが、行きませんか~~?」


 そう扉の方から声が聞こえたので見てみると、そこには黒髪長髪を首元で一本に結び、単眼をかけた男が立っていた。


「ウムブラ」


 ルーナがいつもより低い声で、青年の名を呼んだ気がする。ティエラの気のせいかもしれない。


「怖い怖い、邪魔をしてすみませんでした」


 ウムブラはおどけた調子で、ルーナにそう答えた。

 ルーナは、ウムブラを一瞥した後、ティエラに声を掛けた。


「では、参りましょうか、姫様」


 そう言って手を差し伸べてくるルーナに、ティエラは自身の手をそっと重ねた。




※※※



 

 ノワ・セレーネの宰相就任の祝いのための場。


 ティエラとルーナが隣に並んで歩いてくる姿を見た騎士達が、広間に続く天井まで届く扉を開いた。

 二人が横になった後ろにソルが控えた状態で、そのままたくさんの人たちがひしめき合う中へと進んでいく。ウムブラ達は、扉の近くでそのまま待機した。

 人の波が開き、三人が通るための道を作る。

 そのまま、王族達の控える場所へと歩む。


 貴族たちがひしめき合っている中。

 人々からは、色々な声が聞こえる。

 ティエラに媚びるような声もあれば、非難の声も聞こえる。


 彼女が幼いから分かっていないと思っているのだろうか?

 ルーナは自身の婚約者について、同じ年の少女達に比べて聡いと思っている。

 人が気づかないことにも気づくことができる人だ。

 まだ幼いからと言って、侮っている人物たちに関しては覚えておこうと、耳を澄ませながら歩いた。


 そうして、国王テラノの前に到着した。近くには、大公プラティエス、大公の妻であるフロースもいる。さらにその近くに、宰相となった、ルーナの義兄・ノワが控えている。

 国王陛下に挨拶をした後に、ティエラと共にノワの元へ向かった。

 ノワは少しおどおどした様子で、ティエラの前に立って挨拶をしてくる。


「ひ、姫様! この度は、僕の就任をお祝いしていただいて! 本当にありがとうございます」


 彼は、たどたどしく口にした。

 ノワは、玉の一族の当主として生まれた。魔術に長けた一族である玉の一族だが、なぜか跡継ぎのノワにその才能が引き継がれなかった。本来は、彼が玉の神器の守護者にならないといけなかったが、宝玉に選ばれることはなかった。しかし、宰相の座に関しては彼が受け継ぐことになった。

 ノワは、はにかみながらこう話を続ける。


「その、義弟のルーナは優秀だけど……その……」


 ティエラは、ノワの話を真剣に聞いているようだった。


「……僕は何も出来ないです。だけど、次期宰相として、将来の姫様の義兄として、貴女様に誠心誠意尽していきたいと思います」


 そう言い切ったノワに、ティエラが微笑んだ。


「ノワ様が、義兄様になるのを楽しみにしています」


 そう言うと、ノワの緊張もほぐれた様子だった。

 和やかな空気が流れる。

 そんな彼の脚に、何かがぶつかった。

 ルーナも、そちらに視線をやる。

 ノワがぶつかった何かに声を掛ける。


「ステラ」


 そこには、まだとても小さな少年がそこには立っていた。


「おとうさ」


 そう言ってノワに声をかける幼児は、白金色の髪をしていた。子ども用の夜会用の服を着ていた。

 ノワの膝の裏に隠れながら、ルーナとティエラをきょろきょろと見ている。


「可愛い」


 そう言って、ティエラが少年に近づく。彼は、ノワの背後にさらに下がってしまった。


「姫様、申し訳ございません。人見知りが激しくて……」


 ノワが、ティエラに対して申し訳なさそうにしている。

 ティエラは頭を振った。


「いいえ、まだ小さいもの、仕方ないわ」


 そう答える彼女も充分小さい。

 ルーナは自然と笑みがこぼれた。




※※※




 ティエラは、ノワの挨拶が終わった後、しばらく近くにいた叔母のフロースらと歓談していた。ちょうど従兄弟のセリニも来ていたが、特に会話はしなかった。

 その間に、ルーナは色々な人と話を交わしていた。その中には、自分の義母の姿もあった。

 昨日に比べて多少はましだが、まだ気分が優れない。

 それに、今日はノワの宰相就任を祝う以外に、成すべきこともある――。


 気づいたら、貴族の女性たちに取り囲まれていた。

 ルーナは苦笑すると、それだけで、何人もいる女性たちが、きゃあきゃあ騒ぎ始めた。


(こちらは困っているんだが……)


 そう思ったが、こういう女性たちのルーナへの反応にも慣れていた。


 時折、相手にするのが良くないのかもしれない。自分にも原因はあるのだろう。


 ――ただ、やはり煩わしいと思ってしまう。


「ルーナ様」


 そこに、昨晩夜に会った侯爵家の娘――名前が分からない――が、彼の元へと訪れた。




※※※




(ルーナはどこに行ってしまったのかしら?)


 そう思いながら、ティエラはソルを従えて、人の波の中を探す。

 ちょうど、壁際に、女性たちに囲まれて困った様子のルーナを見つけた。

 声を掛けようとしたところに、ちょうど真っ赤なドレスを着た昨日の女性がルーナに話し掛けにいくのが見えた。

 ティエラは少しだけ、歩みを止める。

 そうして、女性がルーナにしなだれかかる。

 ティエラが、ルーナの方を見ていることに、彼も気づいたようだった。

 そうして、ルーナに密着した女性が、明らかにティエラの方を見ながら、彼に告げる。

 

「こんなに小さな婚約者をお相手するなんて……国王が決めたこととは言え、可哀想ですわね、ルーナ様。女性との浮き名を流されるわけですわ。いかがですか? 今夜は私と」


 ティエラは、結局夜に男女が会って何をするのかソルに聞くことはできなかった。

 だが、女性が口にした言葉は、明らかに自分をバカにした発言だと分かった。


(小さいのは本当だもの……我慢しなくちゃ)


 そうは思ったが、悲しくなって涙が潤んできた。

 後ろに控えていたソルが、ティエラをかばうようにして前に立った。




「姫様を馬鹿にするな! 不敬だぞ!」




 ソルが女性に向かって叫んだ。その声で、周囲が騒然となる。


「ソル……」


 ソルの行動に、ティエラは少しだけ胸が熱くなるのを感じる。


 彼の声が大きかったからか、ティエラ達を中心に人垣ができる。

 そして、人々が一気に騒ぎ始め、祝いの場は落ち着きをなくしだした。





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