第15話 近づく影に警戒する記憶
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ルーナの態度がおかしかった夜の翌朝――。
しばらくティエラの元へは来れないと、手紙でルーナから連絡があった。
以来、数日が経つが、ティエラはルーナの姿を見ていない。
彼と会えない間、記憶の手掛かりになりそうなものが自分の部屋にないか、ティエラは探し続けていた。
だが、やはり何も見付かってはいなかった。
(私がずっと使っていたはずの部屋なのに……手掛かりになるものが何もないなんて、おかしな話ね……)
部屋が、不自然に片付けられすぎているような気もする――。
気を取り直して、ティエラはヘンゼルを呼んだ。
ヘンゼルに動きやすいドレスを用意してもらい、ティエラはそれに着替える。
(疑いたくはない……色々なことを……)
けれど、どうしても色々と違和感をぬぐい去ることが出来なかった。
胸にある嫌な気持ちを解消したくて、ティエラは重い扉を開けて部屋を出た。
部屋を護る騎士には、散歩だと伝えることにした。
そのまましばらく歩いていると――。
ルーナの付き人であるウムブラと、ティエラは出会った。
彼女は、彼に声をかけられる。
(ルーナは一緒じゃないのかしら――?)
今は日中なので、ウムブラはルーナと共にいても良さそうなものだが――。
しかし、ウムブラの近くに、ルーナは見当たらなかった。
『――には気を付けろ』
(あ――)
ふと、ソルの言葉が脳裏によぎった。
彼が、誰に気を付けろと言ったのかは分からなかった。
(もちろん、ソルが本当に私の味方かどうかは分からない――)
だけど、自分の身を守るためにウムブラについても警戒した方が良いかもしれない……。
「ルーナは一緒ではないのですか?」
「いいえ、私には別件がありましてね――」
ウムブラは続ける。
「ご心配はいりませんよ。ルーナ様は、この国で一番高い魔力の持ち主です。正直、このウムブラが付いていてもいなくても、大して変わりはしません」
ティエラに微笑みながら、ウムブラは話してくる。
「そうですか」
(じゃあ、どうしてウムブラさんが一緒にいつもいるのかしら?)
「まぁ、普段私が一緒にいるのは、ルーナ様の雑務をこなすためですよ」
ティエラは心を読まれたのかと、心臓がどきりとした。
彼女の顔を見て、ウムブラはくすりと笑う。そうして彼は、彼女に伝える。
「ルーナ様はお元気でいらっしゃいますよ」
(良かった、ルーナは元気なのね……)
ティエラはルーナの話を聞いてほっとする。
笑みがこぼれる彼女に、ウムブラがそっと近づいた。かと思えば、彼は彼女に耳打ちする。
「折り入ってとまではいきませんが、姫様にお話がございます」
「話?」
「――ルーナ様には内緒の、ね」
(――――!?)
ティエラの、ウムブラへの不信感が高まった。
(だけど、もしかしたら……記憶を失う前のことが分かるかもしれない……)
警戒を崩してはいけない――。
ウムブラを見つめたまま、ティエラはゆっくりと頷いた。




