第140話 国王との別れ※R15
※ 物語の都合上、災害の表現がございます。ご了承いただける方のみ、お読みいただけましたら幸いです。そのため、R15にさせていただいております。
「剣と玉を片づけようか。その娘を早く喰いたいからな」
国王の姿をした竜は、ティエラ、ルーナ、ソルの三人に向かってそう言った。
炎が上がり、男が燃え始めた。
父の姿が崩れる。
「うるさい」
ルーナが、すでに竜に魔術を放っていたようだ。
焼ける男を見て、ティエラは複雑な気持ちになる。
ソルが男に駆けよる寸前、炎が消えた。
竜が腕を払うと、煤が舞い散る。
皮膚がただれた様子などは、ない。
男は、ティエラ達を見て言った。
「昔、お前達がここに来たのを思い出していたよ。この前はすっかり忘れていた」
男は、下卑た笑いを浮かべる。
彼の足元に、鋭い氷が生える。
ティエラの方にも冷気が漂ってくる。
ソルが、男に神剣を振り下ろしたが、すぐに姿が消えてしまう。
「剣はやっかいだな」
そう言って男は、足に張り付いていた氷を払いのけている。
「『月の化身』によく似た男よ。その女は、あのような体験をしても、それでもお前と添い遂げてくれるのか? 優しいな」
そう男に言われて、眉を顰める。
「黙れ」
稲妻が竜を襲う。が、払われる。
「女よ、この男は、お前の父の仇であろう? それでも、この男の妻になるのを選ぶのか?」
男は、長い金の髪を揺らしながら、ティエラの方を見て叫んだ。
彼女は、父の姿を借りた竜を睨みつける。
「違う!」
ティエラの叫びに、ソルもルーナも一旦手が止まった。
ルーナは、一旦詠唱を中断し、ティエラに問いかけた。
「姫様?」
「ルーナ、貴方は……!」
ティエラはルーナに声をかけた後、竜に向かって叫ぶ。
「お前は、この人の事を、何も分かっていない! 何をたったあれだけのことで、ルーナの事を分かったつもりでいるの?!」
竜はにやにやとした笑いを浮かべたままだ。
「姫様、まさか……」
ルーナは、ティエラの叫びに反応した。
ソルは、彼女を振り返って叫ぶ。
「ティエラ、どうした?!」
ルーナはそれを遮った。
「ソル! 良いから早く、あれに止めを刺してはくれないか? まだ本体が残っている。ここで時間を割きたくない」
いつの間にか、ルーナは詠唱を再開していた。
彼の詠唱が終わると同時に、雷鳴が周囲に鳴り響いた。
光が、男を捕える。
光の檻に閉じ込められ、王の姿をした竜は動けなくなった。
『ソル、ティエラの事ばかりでなく、自分の事も大事にしないといけないよ』
ソルの脳裏に生前、最後にみた国王の顔が浮かんだ。
厳しいイリョスに代わって、自分に優しく接してくれていた国王陛下。
優しいだけでなく、必要があれば叱られたりもしていた。
時には、魔術が使えない時には、笑いながら指導してくれたりもした。
彼は、父のように思っていた相手の身体を見据える。
今、目の前にいる男は、自分が父のように慕っていた男ではない。
体が同じだけだ。
ソルは、男めがけて神剣を振り下ろした。
男の身体を貫く。
神剣の光と共に、男は四散した。
※※※
「すぐに片付いて良かった。これで、国王様も浮かばれるだろう」
ルーナがそうソルに声をかけていた。
いつの間にか、ティエラ達は元の世界に戻っていた。
以前、ソルとルーナが戦った塔の上に、ティエラ達三人は立っていた。
尖塔は壊れたままだった。まだ修理が出来ていないのだろう。
ティエラは、父親の事を思い出していた。
父の身体でしかなく、中身は別のものだということは分かっている。
そうだと頭で理解していても、目の前で父の身体が消えるのを見て、何も思わないわけがなかった。
せめて遺体だけでも残っていれば。
全てが終わった後に、弔ってあげることが出来たのに。
そう思うと、自然と涙が溢れていた。涙が、白いドレスに跡を作っていく。
ソルが、ティエラに「すまない」と一言だけ、言葉を伝えた。
ティエラは、涙を拭い、ソルに返事をする。
「ソル、貴方は何も悪いことはしてないわ。だから謝らないで。むしろ、お父様を解放してくれて、感謝しないといけない」
ティエラは少しだけ笑んだ。ソルも、ティエラを見てほっとしたようだった。
ソルも父の事を慕っていたのを知っている。
辛いのは、彼もそうなのだろうと思う。
そうして、ティエラはルーナの方に振り向いた。
「ルーナ、あの、実は……」
彼女は、ルーナへと声を掛ける。
「そろそろ、竜の本体が目覚めます。姫様は最後、浄化をお願いいたします」
ティエラは、話を遮られてしまった。
ルーナは、彼女に声を掛けた。
「――話は、全てが終わってから、後でうかがいますので」
「ちゃんと、話を聞いてくれる?」
「もちろんですよ、姫様。いえ、女王陛下」
女王陛下と呼ばれたのは初めてで少し戸惑いはしたものの、ルーナから返事がもらえたことで、ティエラは安堵した。彼の口元も、少しだけ綻んでいる。
ティエラは、ルーナと話し合いさえすれば、どうにかなるのではないかという思いがあった。
「ル――」
ルーナに再度声を掛けようとしたところ。
突然、地面が大きく揺れ始めた。
下から突き上げてくる揺れに、ティエラは耐えられずくずおれる。
「姫様」
「大丈夫か?」
近くに居たルーナと、ソルの二人に、両側から支えられた。
揺れはまだ続いている。
「二人とも、ありがとう」
ティエラは、ルーナとソルを交互に見た。
揺れが収まらない。
轟音が響く。音の方を見やると、城の一部分が崩れていた。
下手をしたら、この塔も崩壊するだろう。
城の皆は大丈夫かしら?
そう問いかけたかったが、今喋ると、舌を噛みそうだった。
ティエラは、城に残っていた者達に思いを馳せた。




