表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第5部 炎陽・剣の章(正史)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

181/289

第140話 国王との別れ※R15

※ 物語の都合上、災害の表現がございます。ご了承いただける方のみ、お読みいただけましたら幸いです。そのため、R15にさせていただいております。


「剣と玉を片づけようか。その娘を早く喰いたいからな」




 国王の姿をした竜は、ティエラ、ルーナ、ソルの三人に向かってそう言った。



 炎が上がり、男が燃え始めた。

 父の姿が崩れる。


「うるさい」


 ルーナが、すでに竜に魔術を放っていたようだ。

 焼ける男を見て、ティエラは複雑な気持ちになる。

 

 ソルが男に駆けよる寸前、炎が消えた。

 竜が腕を払うと、煤が舞い散る。

 皮膚がただれた様子などは、ない。


 男は、ティエラ達を見て言った。



「昔、お前達がここに来たのを思い出していたよ。この前はすっかり忘れていた」



 男は、下卑た笑いを浮かべる。

 彼の足元に、鋭い氷が生える。

 ティエラの方にも冷気が漂ってくる。

 ソルが、男に神剣を振り下ろしたが、すぐに姿が消えてしまう。


「剣はやっかいだな」


 そう言って男は、足に張り付いていた氷を払いのけている。



「『月の化身』によく似た男よ。その女は、あのような体験をしても、それでもお前と添い遂げてくれるのか? 優しいな」


 そう男に言われて、眉を顰める。


「黙れ」


 稲妻が竜を襲う。が、払われる。



「女よ、この男は、お前の父の仇であろう? それでも、この男の妻になるのを選ぶのか?」



 男は、長い金の髪を揺らしながら、ティエラの方を見て叫んだ。

 彼女は、父の姿を借りた竜を睨みつける。



「違う!」



 ティエラの叫びに、ソルもルーナも一旦手が止まった。

 ルーナは、一旦詠唱を中断し、ティエラに問いかけた。



「姫様?」



「ルーナ、貴方は……!」



 ティエラはルーナに声をかけた後、竜に向かって叫ぶ。



「お前は、この人の事を、何も分かっていない! 何をたったあれだけのことで、ルーナの事を分かったつもりでいるの?!」



 竜はにやにやとした笑いを浮かべたままだ。



「姫様、まさか……」



 ルーナは、ティエラの叫びに反応した。

 ソルは、彼女を振り返って叫ぶ。


「ティエラ、どうした?!」


 ルーナはそれを遮った。



「ソル! 良いから早く、あれに止めを刺してはくれないか? まだ本体が残っている。ここで時間を割きたくない」


 

 いつの間にか、ルーナは詠唱を再開していた。

 彼の詠唱が終わると同時に、雷鳴が周囲に鳴り響いた。

 光が、男を捕える。

 光の檻に閉じ込められ、王の姿をした竜は動けなくなった。



『ソル、ティエラの事ばかりでなく、自分の事も大事にしないといけないよ』



 ソルの脳裏に生前、最後にみた国王の顔が浮かんだ。


 厳しいイリョスに代わって、自分に優しく接してくれていた国王陛下。

 優しいだけでなく、必要があれば叱られたりもしていた。

 時には、魔術が使えない時には、笑いながら指導してくれたりもした。


 彼は、父のように思っていた相手の身体を見据える。

 今、目の前にいる男は、自分が父のように慕っていた男ではない。

 体が同じだけだ。




 ソルは、男めがけて神剣を振り下ろした。

 

 

 男の身体を貫く。



 神剣の光と共に、男は四散した。


 



※※※




「すぐに片付いて良かった。これで、国王様も浮かばれるだろう」


 ルーナがそうソルに声をかけていた。


 いつの間にか、ティエラ達は元の世界に戻っていた。


 以前、ソルとルーナが戦った塔の上に、ティエラ達三人は立っていた。

 尖塔は壊れたままだった。まだ修理が出来ていないのだろう。


 ティエラは、父親の事を思い出していた。

 父の身体でしかなく、中身は別のものだということは分かっている。

 そうだと頭で理解していても、目の前で父の身体が消えるのを見て、何も思わないわけがなかった。

 せめて遺体だけでも残っていれば。

 全てが終わった後に、弔ってあげることが出来たのに。

 そう思うと、自然と涙が溢れていた。涙が、白いドレスに跡を作っていく。


 ソルが、ティエラに「すまない」と一言だけ、言葉を伝えた。

 ティエラは、涙を拭い、ソルに返事をする。


「ソル、貴方は何も悪いことはしてないわ。だから謝らないで。むしろ、お父様を解放してくれて、感謝しないといけない」


 ティエラは少しだけ笑んだ。ソルも、ティエラを見てほっとしたようだった。

 ソルも父の事を慕っていたのを知っている。

 辛いのは、彼もそうなのだろうと思う。


 そうして、ティエラはルーナの方に振り向いた。


「ルーナ、あの、実は……」


 彼女は、ルーナへと声を掛ける。


「そろそろ、竜の本体が目覚めます。姫様は最後、浄化をお願いいたします」


 ティエラは、話を遮られてしまった。

 ルーナは、彼女に声を掛けた。


「――話は、全てが終わってから、後でうかがいますので」


「ちゃんと、話を聞いてくれる?」


「もちろんですよ、姫様。いえ、女王陛下」


 女王陛下と呼ばれたのは初めてで少し戸惑いはしたものの、ルーナから返事がもらえたことで、ティエラは安堵した。彼の口元も、少しだけ綻んでいる。

 ティエラは、ルーナと話し合いさえすれば、どうにかなるのではないかという思いがあった。


「ル――」


 

 ルーナに再度声を掛けようとしたところ。



 突然、地面が大きく揺れ始めた。

 下から突き上げてくる揺れに、ティエラは耐えられずくずおれる。


「姫様」


「大丈夫か?」


 近くに居たルーナと、ソルの二人に、両側から支えられた。

 揺れはまだ続いている。


「二人とも、ありがとう」


 ティエラは、ルーナとソルを交互に見た。


 揺れが収まらない。

 轟音が響く。音の方を見やると、城の一部分が崩れていた。

 下手をしたら、この塔も崩壊するだろう。


 城の皆は大丈夫かしら?


 そう問いかけたかったが、今喋ると、舌を噛みそうだった。


 ティエラは、城に残っていた者達に思いを馳せた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ