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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第5部 炎陽・剣の章(正史)

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月の咆哮4

月の咆哮3の続き。ルーナが二十歳になる前頃の話。ティエラは十歳になる前。




『これまでは家族とは言えなかったかも。でも、これからはちゃんと貴方の家族になってみせるわ!』


 先日そう言ったティエラ姫は、ますます自分に話しかけてくるようになった。

 

 彼女の言う『家族』というものが、どうしても自分にはよく分からない。


 ルーナは、しばらくティエラの家族ごっこに付き合うことにした。

 分からないこともあったからか、いつもと趣向が違うのも悪くないと思ったからか、何にせよ、どうしてそう考えたのか。それは本人にもよく分からなかった。


 ある時、魔術の講義の前の事だ。

 なかなか時間通りに、姫と護衛の少年が現れなかった。

 こちらも、仕事の合間に時間をもらって、姫の相手をしている。なかなか来ない彼女たちに正直苛々していた。

 待っている間、たまたま彼女が書いている日記帳が置いてあるのを見つけた。

 人の書いている中身を覗く趣味は自分にはない。だから、見ないでおこうと思ったのだが、たまたま自分の名前が書いてあったので、目に入ってしまった。

 

 そこには、こう書いてあった。


『ルーナは、どうしてすぐに、わたしにウソをつくのかしら』


「え?」


 ばれていないと思っていたのは、自分だけだったのか。

 たどたどしい字で書かれているので、読むのに少し苦労した。読んではいけないと分かっていたが、つい目で追ってしまった。


『オルドーたちは気づいていない。でもわたしにはわかる。いつもおこっているのに、にこにこしている』


 十も下の子どもにばれてしまう程、自分は演技が下手だったのだろうか。

 いや、そんなはずはない。

 これまで、よほどのことがない限りは、嘘をついているとばれてはこなかった。

 心臓の音がうるさくなってきた。

 彼女は鏡の一族の血を引いている。真実と嘘を見抜く力が他よりも優れていてもおかしくはない。

 これから、どう接していけば、彼女の機嫌をとっていけるだろうか。

 真面目に考えないと、ぼろが出てしまう。

 何に対して焦っているのかは、分からなかったが、何かに急き立てるように考えてしまった。


 考えている間に、部屋の扉が開いた。

 慌てて手にしていた日記帳を元の場所に戻した。


「姫様、遅かったですね――」


 そう言って、ルーナが作り笑いをしながら、振り返る。


 そこにいたのは、泥まみれで誰だかわからない少女の姿だった。

 想定外だったため、ルーナは面食らった。

 彼女の衣服はおろか、亜麻色の髪や顔など至る所に、べったりと汚れがついている。

 彼女はルーナに、手に持った花を差し出してきた。

 その花だけが、白くて目立つ。


「これをルーナにあげるわ」


 顔中泥だらけの顔で、ティエラからそう言われてしまって、ついルーナは笑ってしまった。

 自然と笑んだ自分に、ルーナ自身がはっとして違和感を抱いた。

 家族ごっこに毒されてきたのだろうか。


 自分の変化に、ついていけなかった。



「あ、今のは本当に笑ったわね、ルーナ。いつも作り笑いだから、心配してたのよ」


 ルーナはティエラにそう言われて、本当に戸惑ってしまった。


「どうして、姫様はそのように思われたのでしょうか?」


 顔についた土をぬぐいながら、ティエラはルーナに告げる。


「それは、いつも、貴方を見ているからよ」


 そうして、彼女は胸を張って、ルーナに説教のように話す。


「あまり、振る舞いと胸のうちが異なるのは身体に良くないって、お父様も言ってたわ」


 金色の丸い瞳が輝いている。

 ルーナの蒼い瞳を見て、彼女はまっすぐに伝えてきた。


「せっかく家族になったのだから、正直な貴方がみたいの、私は」


 そうして続ける。


「私は本当の貴方と家族になりたいの」




ルーナの心が、揺れ動いた。




※※※




 それからしばらくした頃に、ティエラから、「鏡の神器をみたい」と言われた。なんでも、「将来何人子どもが生まれているか、神器に占ってもらう」のだそうだ。

 当時、鏡の神器は王族なら入れる宝物庫に飾ってあった。ティエラはいつも「イリョスかソルが近くにいないと近づいてはいけない」と言われているそうなのだが、ルーナとのことを聞きたいから、二人には見られたくないそうだ。

 正直くだらない質問だったのもあり、ルーナは制止したが、なかなかこの姫様は言う事を聞かないところがある。

 仕方なしに彼女の言う事通り、宝物庫に向かうことにした。

 

 以前ほどは、彼女のわがままが、嫌ではなかった。


 そうして、宝物庫にたどりつく。

 二人で、鏡の神器に近づいた時、なぜか光が溢れた。




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