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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第5部 炎陽・剣の章(正史)

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第135話 語られる真実4


 セリニは、改めてフロースに話すつもりだったのだが、もっと早くに話しておくべきだったかと後悔していた。

 彼女は剣の一族を嫌っているので、イリョスの元には来ないだろうと高をくくっていた。


 顔面蒼白のまま震えるフロースは、声を絞り出すように話した。


「妾も、あの子に優しくしようとはしてきた。でも、どうしてもあの御方が、妾を裏切ったのだという思いが強く、モニカに全てを任せてしまった」


 彼女は、地面に座り込んだ。隣でアリスもしゃがみ、彼女を支えた。 


「今更、母親のようにふるまうこともできぬ……」


 フロースの瞳からは涙が溢れてくる。

 彼女の元へセリニが向かい、膝をついた。


「セリニ、あの子達は二人、城に連れて行かれて、これからどうなるのじゃ……?」


「竜の考えも、ルーナの考えもはっきりとはしないので、まだ何とも」


 はっきりしているのは、このままだとティエラ姫が竜に喰われることだけだ。

 セリニの考えだと、ティエラ姫が喰われないようにするために、ルーナがエガタの身体を利用する可能性はあるだろう。

 セリニは、フロースに何と言葉を掛けて良いのかが分からなかった。


 彼は、彼女の事をまだ若い頃、それこそ大公プラティエスに彼女が嫁ぐ前から知っている。大公に師事していたこともあり、彼女と交流する機会はさらに増えた。そのため、彼女の古風な話口調が移ってしまった。

 彼女が、一度子どもが出来て流れてしまった事や、子どもが出来ないことで悩んでいた事も、自分の子とは知らずにエガタに複雑な感情を抱いていた事も、彼はずっと知っている。


 フロースを支えるアリスに声を掛けて、一旦セリニは退室することにした。




※※※


 


「戦は?」


「戦に関しては、ルーナ殿と姫様の婚儀が終わってからだ。お前は特に気にしなくても良い」


 

 フロースがいなくなり、部屋にはイリョスとソルの二人きりになった。

 ソルは、フロースの様子も気になったが、鏡の一族にまだ男がいたことで焦りを感じていた。


「ある一定までは宝玉の力でないと龍の体力を削ることはできない。だが、現状、神剣でしか、人の器から竜を出すことはできない」


 イリョスは続ける。


「今、竜は国王陛下に乗り移っているのだろう? お前に出来そうか?」


 お前に出来そうかというのは、お前に陛下の身体に乗り移った竜を倒せそうかという意味だろう。

 ソルはそう問われ、押し黙った。

 見たこともない空間に飛ばされた時、竜に乗り移られた国王陛下の遺体を見た。

 今目の前にいる実の父親よりも、ソルに優しく接してくれたのが陛下だった。

 あの時、ソルが遺体を刺せなかった事について、ルーナからはなじられている。

 竜の言動などから、完全に別人だと言うことも分かっているが、あの時はどうしてもできなかった。


 だが――。


「あれはもう陛下ではない。今度こそ俺が、止めを刺してみせる」


 ソルの碧の瞳に宿る決意に、イリョスは「そうか」とだけ答えた。


「陛下のご遺体を解放してからが、勝負だがな」


 イリョスにそう釘を刺された。

 ソルが問いかける。


「どういうことだ?」


「これまで鏡の一族のご遺体から解放された竜は、その場にいた鏡の一族の男に乗り移っている。だからこそ、最後まで戦うことが出来ていない」


 イリョスは続けた。


「だが、今回、神器の使い手は女性であるティエラ様だ。竜を遺体から出しても、女性の彼女に竜がとりつくことはできない――はずだ。あの空間から、竜が我々のいる外に出る危険性はあるだろう」


「外に?」

 

「断定はできない」


 これまで出来た者達がいなかったのだから仕方ないだろう。


「神剣としての力は取り戻している。後は、元通りにできるかどうかだ。急げ」


「ああ」


 ソルは力強く頷いて部屋から出て行った。彼の碧色の瞳には、以前ルーナに剣を折られた時とは違い、光が宿っていたように思う。



「私と言うよりも、ヘリオスによく似てしまったな」




 今は亡き弟のことをイリョスは思い出し、窓から空にかかる月を見る。

 そうして、彼は深いため息をついた。




※※※




 一方、王都にある城のティエラの部屋にて。


 ティエラは、エガタが自身の血縁者だったことにはそこまで驚いてはいなかった。

 なんとなくだが、懐かしいような感覚を以前から抱いていたから、そうだと言われて納得できるところがあった。


「竜は、貴女が成人すれば、喰らいにやってきます。その際に片をつけたい。」


 そのようなことが、本当にできるのだろうか?

 ティエラは一抹の不安を抱いた。


「待って、剣の神器がなくても大丈夫なの?」


「剣の神器がなくても、どうにかしないと、私の目的が達成できません」


 ルーナの蒼い瞳は陰りを帯びる。


「目的は、国を滅ぼすということ?」


「神器に頼る国を欲していないだけです」


 一度、ルーナが瞳を閉じる。また、すぐに開いてティエラの金の瞳を見やる。


「竜がいる場所に向かうには、貴女様の持つ鏡の神器の力が必要です」


 竜が閉じ込められているあの空間のことだろう。

 神器の力によって、見知らぬ空間に飛ばされ、ティエラとルーナは二人で歩いた。

 そこで、父親の遺体に乗り移った竜を見たのだった。


 ティエラは、ルーナの竜に付けられた傷を見ていると、なんとなく頭の中に記憶が浮上してくる感覚があった。


「もっと昔、私と貴方で、あそこに入ったことがあったわよね」


 そうティエラが言うと、ルーナの瞳が揺れた。




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