第134話 語られる真実3※R15
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ご了承いただけた方のみ、お読みいただければと思います。
ご迷惑をおかけします。
砦の中にある騎士団長が滞在する部屋。
そこには、ソル、イリョス、それにセリニの三人が居た。
ソルは、朝から、イリョスが言いかけた話の続きを聞いていた。
セリニが居た方が分かりやすいだろうと言って、イリョスがセリニを呼んでいた。
剣の一族と玉の一族が揃ってはいる。だが、セリニは派閥争いとは関係なしに生きていたので、特段仲が悪いということはなかった。
イリョスとセリニから聞かされた話に、ソルは驚いていた。
「は? あのエガタって子供が、大公殿下の息子? 瞳の色は金色じゃなかったぞ」
ソルは、思考がまだ追いつかなかったので、簡単な疑問から先に口にした。
「私の魔術で、モニカと同じ色に見えるようにしてあるからな」
セリニがそう答えた。
ソルはさらに、問いかけた。
「全然意味が分からない。国王になれるやつは別にいたってことかよ?! それじゃあ、今のままじゃ……」
「確実に姫様の命はない」
セリニが、無情にもそう告げた。
ソルに衝撃が走った。
まだ、混乱する頭で、セリニに質問する。
「フロース様は子どもを作れないんじゃなかったのか? エガタは大公様の隠し子ってことか?」
ソルは、大公プラティエス・オルビス・クラシオンの事を思い出していた。ティエラと同じ亜麻色の髪を短く刈り込んでいて、金色の瞳をした人物だ。体格にも恵まれ、一見すると魔術師には見えない。実際、彼は武芸にも優れており、ソルも何度か手合わせしてもらったことがあった。
急に亡くなったので、何だろうとは思っていたが、戦後で彼の事を考える余裕がなかった。
ソルの記憶の中でのプラティエスは、妻であるフロースを非常に大切にしていたと思う。
他の女性に手を出していたところが、想像が全くつかなかった。
けれども、ソルも自分の意に反して、剣の一族の跡継ぎを作れと言われている。身体の弱い国王ではなく、健康だったプラティエスに別の女性の存在があてがわれていてもおかしくはないかと考え付いた。
ソルの疑問に、セリニが答えた。
「隠し子かと言われると、厳密には違うな。フロース様は、昔、お若い頃に妊娠された。だが、その際に、子は生まれずに胎をとることになってしまった。だが、子を腹の中で育てることが出来なくなっただけで、子が出来ないのではない」
セリニのその答えに、ソルは益々意味が分からなくなった。
セリニは、さらに続けた。
「フロース様は、エガタを、プラティエス様とモニカの妹の子だと思いこまれている。実際には、エガタはプラティエス様とフロース様の御子だ。モニカの妹の胎を借りて生まれたに過ぎない」
途方もない話だと、ソルは思った。
プラティエス様は、確かに優秀な人物だったが、想像も及ばないところまで、研究は進んでいたようだ。
「私が手伝っていた時は、単純に子が成せないフロース様のために研究をおこなっていると思っていた。どうしてこうなってしまったのか、フロース様は理由をお知りにならない。私も竜の話と結びついて合点がいった。しかし、イリョス様もエガタの存在をお知りだったとは……」
セリニは、ソルからイリョスに視線を向けた。
「ああ、知っていた。大公様達は、万が一に備え、血族を絶やしたくなかったようだ。自分の子が勝手に作られているとなれば、フロース様も恐ろしいだろう。だから、情が沸かないように、彼女にはあえて教えていなかった」
イリョスはさらに続けた。
「私は人の道義に反すると、かなり反対したのだが、プラティエス様達は止まらなかった」
低い声に影を落としながら話す。
「実際に生まれた子を見たプラティエス様は、情け深い方だったので、彼自身に情がわいてしまっていた。プラティエス様は、自分の体を使って偽の神器を研究をするようになり、亡くなられた」
セリニは瞼を閉じた。
彼はしばらく前に、竜の話が出た時に、その考えに至っていた。
ソルには、セリニが何を思っているのかはわからなかったが、彼が苦しそうなのが伝わってきた。
「モニカの妹も、十月十日、腹で子を育てたのでエガタに愛情が芽生えたようだった。一旦、ウルブの城にエガタが連れてこられていたのだが、このままエガタが殺されてしまうと恐れた彼女は、赤ん坊のエガタを連れて、ウルブの城の隠し通路から逃げ出してしまった。そして、たまたまそこにいた魔物に殺されてしまっている」
ウルブの城の隠し通路。
ソルは、以前ウルブの城から逃走した際のことを思い出した。「私の子どもはどこ?」と言って、一瞬だけティエラの身体に憑依した霊魂がいたはずだ。まさか、あれがモニカの妹だったのだろうか。
ソルが考え事をしていると、扉の方で何やら音がした。
セリニとイリョスも、扉の方を見やる。
扉の辺りには、アリスに支えられるフロースの姿があった。
「それでは、あの子は……私の……」
白くなる彼女に、セリニが走り寄っていくのをソルは見た。




