第130話 陽の二人ある父
「駄目だな」
弧を描いて剣が飛ぶ。
ソルの手から離れたのは、もう何十回目だろうか。
正面では、イリョスが大剣を肩に担ぎなおしている。
「神剣の加護がなければこの程度か?」
ソルは唇を噛む。
神剣が折れて、一族への加護もなくなってしまっている。
だが、イリョスもソルも条件は変わらないはずだ。
『私に一太刀でも浴びせることが出来たら、お前の欲しい情報を教えよう』
イリョスにそう告げられてすぐに、この騎士達の修練場に来た。時間はもう夜更けを回ってしまっている。
夕暮れから、現在まで。ソルは、イリョスに挑み続けていた。
「圧倒的にイリョス様が強いなぁ」
ネロがぼやいた。
アリスも、彼の隣で同意している。
「正直、これまで二人が戦うところを目にする機会がなかったが、ここまでとは」
「イリョス様がここまで強いとなると、あの噂は本当なんですかねーー」
アルクダの呟きに、セリニが反応した。
「あの噂とは?」
「ああ、数年前の戦の理由です。ちょうど、イリョス様からソル様に神器の使い手としての力が移行してすぐ起こったじゃないですか? だから敵国は、わざと父親から息子に力が移った頃に、宣戦布告して来たんじゃないかって」
アルクダのその問いに、セリニが無慈悲に応えた。
「その見解で概ね間違いはない」
ネロとアリスの二人も、セリニ達の方を見た。
四人は、離れた場所でソルとイリョスを見守っている。
「あの戦は、イリョス様が前線に立つことが出来ない状況を狙われていた。それをソル本人も知っているからこそ、自責の念が強いのだろう。自分が非力なために、仲間が大勢亡くなったと」
セリニは淡々と話す。
「お前たちも知っている通り、戦場では数多くの命を奪っている。大将の首を取ったのまでは良かったが」
話は続く。
「それが原因で、隣国は弱体化し、帝国からの侵略を受け、国としては機能しなくなった。ソルが間接的な原因となって、戦後も略奪が続き、女子供関係なしに数多くの人の命が犠牲になっている」
セリニの話にアルクダも乗じた。
「帰ってきても、賞賛されるだけじゃなかったですしね」
ネロ達は、ソルが亡くなった騎士の家族らに責められている場面も目にしてきている。
「まだ、十七になったばかりのあれには荷が重いのに、大人たちは責任を押し付けすぎたな」
そう言って、セリニは瞼を閉じた。
※※※
この父と手合わせをするのは、生まれてから初めてかもしれない。
多忙で、会うといつも叱られるだけ。交流もさして多くはなかった。
騎士になってからも、どちらかと言うと、ネロに目をかけていたようにさえ見えていた。
母親からは、「待望の男の子だったから、あの人は気合が入りすぎてる」と言っていたが、よくわからなかった。
尊敬と畏怖。不満。
イリョスに代わって、自分に優しくしてくれたのは国王陛下だ。ティエラの父である彼は、ソルにも優しく接してくれていた。
彼の方が父親であればと、正直な所、いつもそう思っていた。
どれだけ攻撃してもイリョスには掠りもしない。
(だけど、ここで引くわけにはいかない)
(ティエラ)
彼は、彼を奮い立たせることができる女性の名を胸のうちで呼んだ。




