第120話 廃墟での出会いと別れ
「子ども達二人以外に、何か別の気配がある」
ソルにそう言われた。ティエラに緊張が走る。
別の気配とは何だろうか、動物か、魔物か、それとも人か。
ティエラが、少しだけ身構えていると、奥で何かが蠢く気配を感じた。
いつもは、剣を構えているソルが何もしない。
ティエラは、少しだけ疑問を感じたが、その答えはすぐに分かった。
気配が近づいてくる。中から現れたのは――。
「グレーテル!」
「あれ~~?姫様じゃないですか~~?」
ソルの付き人のグレーテルだった。
後ろから、子どもが二人ついてきている。女の子と男とで、一人は依然会ったエガタだった。彼らはニニョの姿を確認すると、走り出し、三人で抱き合って泣き始める。
そんな彼らの姿を見た後に、ティエラはグレーテルを見た。
「グレーテル、ここがよく分かったわね。二人を見つけてくれて、ありがとう」
ティエラが、グレーテルに労いの言葉を伝える。グレーテルは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
ソルが、グレーテルに問いかける。
「どうやってここが分かった?」
「ソル様、それがですね、アルクダさんに連れてきてもらったんですよ~~」
グレーテルがアルクダの名を出したため、廃墟の奥の方に目を見やる。しかしながら。彼の姿は見えなかった。
「連れて来ていただいたのは良いんです~~なぜかアルクダさん、途中で、またいなくなっちゃったんですよ」
彼女は不満げに、ティエラにそう教えてくれた。
ソルがグレーテルに話しかける。
「あいつが突然いなくなるのなんて、いつもの事だろうが。宝って聞いて、探してるんじゃないか?」
「そうかもしれませんけど。それにしたって、真っ暗闇だったんですよ~~嫌になっちゃいます~~宝物とかもないです~~」
いつもよりも、グレーテルとしては、アルクダに対して思うところがあるようだ。
彼女の、頭の左右で二つに結っている髪には埃がつき、いつもよりも乱れている。アルクダへの文句を言いつつ、彼女は頭からごみを払い落としていた。
子供たちは、彼等だけで会話を繰り広げていた。
「ペディ、エガタ、ごめんな。俺が変な話を持ち掛けたから」
ニニョが謝ると、二人は「「そんなことないよ」」と彼に声を掛ける。
ペディに至っては、「暗闇でわりと楽しかった」とまで言っている。ちなみにペディは女の事である。肝が据わっているようだ。
エガタについては、年長者ら二人に会えて、にこやかに笑っている。
そんな彼らに、ソルが話しかけた。
「お前たち三人に一応聞いておくが、街の中で宝物について教えてきたという男は、青銅色の髪をした男か?」
それに対し、ニニョ、ペディ、エガタが、年齢順に答える。
「オレの記憶では、青銅色?ではなかったはず」
「アタシも違ったと思う」
「僕は、二人が話しかけられたっていう時は、祭りの出し物を眺めてたから、よくわからない」
あまり、男に関する情報は得られなかった。
結局、宝も本当にあるのかさえ分からない。暗いため、今日これ以上探すのは難しいだろう。
そこに、ペディが「あ!」と言って声を出した。
「その人、とっても目が細かったよ!」
ソルとグレーテルが目を見合わせた。
「まあ、とにかく、ネロに気づかれる前に、一旦街に帰ってから、色々考えるか」
そう言って、全員でその場を後にしようとしたのだが――。
歩き出そうとした瞬間、ソルが立ち止まり、また無言になる。瞼を閉じて、何かに集中し始めた。
ゆっくりと眼を開ける。
「馬の蹄の音がする」
彼が一言そういう。
ティエラは、先ほど緊張から解き放たれたばかりだったというのに、また何かあるのかと再び備えないといけなかった。
「しかも、わりと数がある」
ネロを追いかけてきたのだろうか、それとも自分達か。
単純に子どもがいなくなったからと、騎士が多数で押しかけてくることはないはずだ。
罠。
そんな言葉が、ティエラの脳裏に閃いたのだった。




