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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第120話 廃墟での出会いと別れ



「子ども達二人以外に、何か別の気配がある」


 ソルにそう言われた。ティエラに緊張が走る。

 別の気配とは何だろうか、動物か、魔物か、それとも人か。

 ティエラが、少しだけ身構えていると、奥で何かが蠢く気配を感じた。

 いつもは、剣を構えているソルが何もしない。

 ティエラは、少しだけ疑問を感じたが、その答えはすぐに分かった。

 気配が近づいてくる。中から現れたのは――。


「グレーテル!」


「あれ~~?姫様じゃないですか~~?」


 ソルの付き人のグレーテルだった。

 後ろから、子どもが二人ついてきている。女の子と男とで、一人は依然会ったエガタだった。彼らはニニョの姿を確認すると、走り出し、三人で抱き合って泣き始める。

 そんな彼らの姿を見た後に、ティエラはグレーテルを見た。


「グレーテル、ここがよく分かったわね。二人を見つけてくれて、ありがとう」


 ティエラが、グレーテルに労いの言葉を伝える。グレーテルは満面の笑みを浮かべて喜んだ。

 ソルが、グレーテルに問いかける。


「どうやってここが分かった?」


「ソル様、それがですね、アルクダさんに連れてきてもらったんですよ~~」


 グレーテルがアルクダの名を出したため、廃墟の奥の方に目を見やる。しかしながら。彼の姿は見えなかった。


「連れて来ていただいたのは良いんです~~なぜかアルクダさん、途中で、またいなくなっちゃったんですよ」


 彼女は不満げに、ティエラにそう教えてくれた。

 ソルがグレーテルに話しかける。


「あいつが突然いなくなるのなんて、いつもの事だろうが。宝って聞いて、探してるんじゃないか?」


「そうかもしれませんけど。それにしたって、真っ暗闇だったんですよ~~嫌になっちゃいます~~宝物とかもないです~~」


 いつもよりも、グレーテルとしては、アルクダに対して思うところがあるようだ。

 彼女の、頭の左右で二つに結っている髪には埃がつき、いつもよりも乱れている。アルクダへの文句を言いつつ、彼女は頭からごみを払い落としていた。


 子供たちは、彼等だけで会話を繰り広げていた。


「ペディ、エガタ、ごめんな。俺が変な話を持ち掛けたから」


 ニニョが謝ると、二人は「「そんなことないよ」」と彼に声を掛ける。

 ペディに至っては、「暗闇でわりと楽しかった」とまで言っている。ちなみにペディは女の事である。肝が据わっているようだ。

 エガタについては、年長者ら二人に会えて、にこやかに笑っている。

 そんな彼らに、ソルが話しかけた。


「お前たち三人に一応聞いておくが、街の中で宝物について教えてきたという男は、青銅色の髪をした男か?」


 それに対し、ニニョ、ペディ、エガタが、年齢順に答える。


「オレの記憶では、青銅色?ではなかったはず」


「アタシも違ったと思う」


「僕は、二人が話しかけられたっていう時は、祭りの出し物を眺めてたから、よくわからない」


 あまり、男に関する情報は得られなかった。

 結局、宝も本当にあるのかさえ分からない。暗いため、今日これ以上探すのは難しいだろう。

 そこに、ペディが「あ!」と言って声を出した。


「その人、とっても目が細かったよ!」


 ソルとグレーテルが目を見合わせた。


「まあ、とにかく、ネロに気づかれる前に、一旦街に帰ってから、色々考えるか」


 そう言って、全員でその場を後にしようとしたのだが――。


 

 歩き出そうとした瞬間、ソルが立ち止まり、また無言になる。瞼を閉じて、何かに集中し始めた。

 ゆっくりと眼を開ける。


「馬の蹄の音がする」


 彼が一言そういう。

 ティエラは、先ほど緊張から解き放たれたばかりだったというのに、また何かあるのかと再び備えないといけなかった。


「しかも、わりと数がある」


 ネロを追いかけてきたのだろうか、それとも自分達か。

 単純に子どもがいなくなったからと、騎士が多数で押しかけてくることはないはずだ。


 罠。



 そんな言葉が、ティエラの脳裏に閃いたのだった。





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