第118話 迷子を探しに
「子どもらを見つけるにしよ、そうでないにしろ、ルーナは必ず来るわ」
ティエラの成人の日は近い。
このままティエラが大人になれば、竜に喰われる。そうなれば、国は崩壊する。
だが、国が滅びるのがルーナの希望なら、わざわざ人々の命を奪うような真似はしなかったはずだ。
そうではない何かがあるから、ルーナは今急ごしらえで偽の神器を作り、人の命を奪っている可能性がある。
だからこそルーナは、ティエラを竜には喰われないようにするか、もしくはティエラの成人前に全て片をつけるつもりなのだと思う。
この旅をしていても、他国に逃げようという話にはならない。
国を護る義務や責任感を、ティエラもソルも生まれた時から教え込まれている。ルーナの言う通り、自分達二人は神器に縛られているのかもしれなかった。
(鏡の一族に生まれなかったら、こんなこと考えもしなかったのかしら)
今ルーナは、ティエラの預かり知らぬところで、他国との戦の準備までしている。
戦を始めるにしろ止めるにしろ、捕縛されるにしろ、二人は決断しないといけない。
少しだけ、ソルの表情に陰りが見える。
「ソル、また戦争にはならないようにするわ。私が、ルーナの思惑通りにはさせない」
ティエラの金の瞳には強い光が宿っている。
ソルの碧の瞳が揺れた。
「子ども達を探しに行きましょう」
※※※
ネロの後をつけながら、ソルとティエラはひそひそと話をした。
ソルには一応、先程、昔の記憶が戻ってきた事を伝えた。
「ネロさんって、初めて会った時からすると、あまり変わらない気もするけど、だいぶ変わった気もする」
「そうか? 年も取ったしな」
ネロは、見た目は大人びたと思う。ただ、初めから軽い喋り口で、それは変わっていない。
「あんた、戦後の記憶はどうなんだ?」
「実は、戦後はまだあまり……」
ソルに尋ねられ、ティエラは俯いた。
金の瞳に睫毛がかかり、陰が出来る。
「戦ってる間に、ネロも何か思う事があったんだろ。一緒に行ったアリスもな……。帰ってから、騎士を辞めて、文官目指す奴等もたくさんいた」
彼はそう言って、瞼を閉じた。苦悩が滲んでいるのが見てとれた。
戦場にティエラは行ったことがない。
彼女は彼に、何て声を掛けて良いか分からなかった。
※※※
しばらく歩いただろうか。
平地だったので、そこまで疲れなかったが、わりと開けた場所が多かった。ネロ達に見つからないか、かなり気を遣った。
外れた場所に廃墟が数件見えた。こんなところに人が住んでいたのだろうか? 疑う位、誰かが立ち寄りそうな場所ではない。
ティエラとソルは、ネロにばれないように慎重に追い掛ける。
ゆっくり歩を進めていた時――。
「おい」
二人は背後から呼び止められた。




