第117話 街の外へと
おはようございます(^^)
今日も皆さん、寒いですが体調にはお気をつけ下さい。
「見て、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、道の真ん中でくっついてるよ」
母親に手を引かれて歩く子どもが、ティエラとソルを見ながら、大きな声でそう言った。
ソルに抱き寄せられていたティエラは、はたと道の中央にいたのを思い出す。咄嗟に、彼から距離をとる。
(周囲の視線が痛い……)
恥ずかしさが込み上げて来る。頬が紅潮するのを感じた。
「ちょっと良いか?」
ソルが、外れたペンダントを手に持ち、ティエラの首に回す。指が首筋に当たって、なんだかくすぐったい。彼女はますます頬が火照っていくのを感じる。
彼が、ペンダントの留め具をつけてくれた。
「よし、今度は失くすなよ」
そう言われて、ティエラは嬉しくなる。
昔の事を思い出した。
(そう言えば……)
ルーナからの贈り物を取り返してくれた時の続きだ。
贈り物とは、ガラスで出来た薔薇のコサージュだ。
ティエラがひとしきり泣いた後。胸につけるコサージュを、なぜかソルは、ティエラの頭に付けてきた。
そんな昔のことを思い出して、彼女はくすりと笑ってしまう。
ちなみにコサージュは、台座と本体がばらばらになってしまっていた。それを即席でソルが戻してくれてはいたのだが。一応あの後、本職は刀鍛冶だという制作者をわざわざ城に呼んで、修理してくれたのだった。
「ほら、行くぞ」
そう言ってソルに手を差し出されたので、ティエラはいつものように手を引かれながら歩き始める。
なんだかいつもより、切ない気持ちも、ティエラの中に込み上げていた。
※※※
「はぁ? 街の外に出ていく姿を見たって?」
街の入り口付近でのことだ。
部下の騎士から指示を受けていたネロは、疑問を口にする。
「こんな夜にぃ? 子どもたちだけでか?」
ネロに声を掛けられた騎士は、たじろいだ様子を見せた。
「門を守っていた騎士が、そのように申しておりまして……」
それを聞いたネロは唸る。
今日は、街で祭りがあっている。そのため、人の行き来がいつもより激しい。
「普通出すかねぇ。どうすんの? なんかあったら?」
「それは私にはなんとも……」
ますます騎士は、腰がひけた様子になる。
「騎士達も祭りだからって浮かれてんじゃない? まあ、出しちゃったんなら仕方ないか。追い掛けよう」
そう言って青銅色の短髪をかきながら、ネロと騎士は街の外へと続く道を歩いていった。
※※※
しばらく歩いていたら、たまたまネロを見つけた。ティエラとソルの二人は物陰に隠れた。
ソルが、聞き耳を立てる。
彼は、常人より目や耳が良いため、かなり距離はあったが聴こえているようだ。
試しにティエラも耳をすましてみる。でも、彼女の耳では、ネロ達の音声を拾うことは全く出来なかった。
ネロ達が立ち去ると、ティエラはソルにどうだったのか尋ねる。
「子供らは外に出てるみたいだな」
ソルの言葉にティエラは愕然とした。
「こんな暗いのに?」
「ああ。ネロの様子だとな。それよりどうする? 街の外だ。このまま追い掛けるか? 罠の可能性も否定は出来ないぞ」
罠。
ルーナが、という事だろうか。
わざと子どもを外に誘き出して、追い掛けさせると。
ティエラの性格上、見過ごせないのは、ルーナもよく知っているはずだ。
自分はともかく、ソルが城に連れ戻されるのは困る。
「とりあえず、セリニを呼ぶか?」
「どうする?」
そう問われ、ティエラは逡巡した。




