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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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太陽の追憶4

引き続きソル視点の過去編。

数ヶ所ご不快な言い回しがございます。ご了承いただけましたら、先にお進みください。


ティエラ:9~10歳

ソル:14~15歳頃




 物影から呼び止められ、ソルとティエラは声の主へと振り向いた。

 ゆっくりと、陰はこちらに向かってくる。



「お前……」



 ソルが、現れた男に声をかけた。


「ネオ……?」


「違う! ネロだよ、ネロ!」


 青銅色の髪をした男が、ソルにわめいた。


「悪いな」


 そう言うソルに、あまり悪びれた様子はない。

 ティエラは知らない男が現れたので、さっとソルの後ろに隠れた。


「だぁれ、この方? ソルのお知り合い?」


 ティエラは、ソルに疑問をぶつけた。


「ソルは姫様の所に行くから、祭りには行かないって言ってたくせして、こんなとこにいるからつい声をかけたじゃん――って――」


 そう男が話したかと思うや否や、ティエラの真横に彼はいた。すぐにソルは、ネロとティエラの方を振り向く。

 ソルは、ネロの動きの俊敏さに驚かされた。


(速い……)


「その艶めくような長い髪、何かを見通すような金の瞳! 貴女はティエラ様ですね! 近くで見るとこんなに愛らしいなんて!」


 ネロが勢いよくティエラに話し掛けている。

 彼女の方は、ぽかんとしていた。


「ソルも、ルーナ様を差し置いて逢い引きだなんてやるじゃないかぁ」


 ネロの瞳がキラキラしている。


「は? 護衛だから仕方ないだろ」


 ソルがやれやれと言った態度を取っていたら、ティエラがくすくす笑いだした。


「なんだか、面白い人ですね」


 そう彼女が言うと、ネロの表情がぱあっと明るくなった。

 ソルはため息をつく。


「もういいか? 探し物に行くぞ」


 そう言って、ソルはティエラの手を引いて歩きだした。


「ちょっ、ちょっと待ってよ~~」


「まだ何かあんのか?」


「いやぁ、俺、今日忘れてたみたいだけど、夜当番だったみたいでさぁ。落とし物とか集めてるとこあるから、案内しようかなぁって?」


 ネロの話にティエラが飛び付いた。


「本当ですか? ネロさん」


 ネロは大袈裟に頷いた。

 ティエラがソルの方をちらりと見やる。


「あんたが良いなら、それで」


 話がまとまった。

 三人は路地裏から、落とし物の案内をしている場所へと一緒に向かう事にした。




※※※




「届いてないんですか……?」


 落とし物の案内係に尋ねてみたが、薔薇のコサージュはないと言われてしまった。

 がっくりとうなだれるティエラを、ソルは黙って視線を送る。


 以前ティエラが、ヘンゼルとグレーテル姉妹にそばに来てほしいと、ルーナに頼んだことがある。頼まれて、――言い方は悪いが――ルーナが娼館から姉妹を買い取ったのをソルは知っている。


(俺に審美眼はないが、あの変態がティエラに安いものを送るはずがない……)


 宝石のような高値のものならば、裏で高値で取引されたりと言った話も聞く。ティエラの贈り物も、そのような扱いをされていてもおかしくはない。


(あの変態も、ざまぁねぇな……)


 ルーナの贈り物が失くなったという事に、少しだけ悦んでいる自分に気付く。ソルはそんな自分を恥じ入った。

 自身の考えを振りきるように、ティエラに声を掛ける。


「おい、ティエラ――」


 見ると、ティエラの瞳から涙が溢れていた。

 彼女はあの贈り物を、毎日毎日、飽きることなく肌身離さず持っていた。忠告を聞かないのも悪いが、それだけ大切に思っていたという事だろう。

 近くにいたネロは、おろおろしている。


「さっき通った道にもなかったし、もうみつからないわよね……」


 そう言って、ティエラは泣き続ける。


「ああもう」


 ソルは少し呻いた後、ティエラの両肩に手を置き、自身の方に振り返らせる。



「俺が、あんたの大事なもん絶対に探してやるから……諦めんな!」



「ソル……」


 そう宣言され、ティエラの涙が止まった。


「おい、おっさん、二階借りても良いか?」


 案内係にそう声を掛けると了承されたので、ソルはティエラの手を引いて二階に上がる。ネロも慌てて二人を追いかける。

 通りに面した部屋に入り、窓を開く。

 人の群れが眼前に拡がる。

 神経を研ぎ澄ます。

 ソルの視界、数件ある店の先、にやついた男が白銀にきらめく何かを手にして歩いているのが見えた。


「あれか――」


 ソルは、黙ってみていたティエラとネロの二人に告げる。


「部屋から出るなよ。ネロ、ティエラと一緒に居てくれるか?」


 ネロが頷いてるのを確認した。

 ソルは窓から乗り出す。

 屋根の上に出た。

 そのまま男めがけて、屋根づたいに駆け出す――。


 ティエラとネロは、その場に取り残された。

 ネロは何が起きたか分からず、口を開けたまま立ち尽くしていた。

 ティエラは、ソルの名をぽつりと呟いた。




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