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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第12話 月への嘘と罪悪感

6/3文章を見直しました。




 ティエラの部屋は、元の静けさを取り戻した。

 扉が勢いよく開かれる。


 部屋の中に入ってきたのは、数名の騎士を連れたルーナだった。

 ティエラの姿を見ると、彼は安堵した表情を浮かべる。だが、涙を流したままのティエラに気づくと、彼は表情を曇らせた。

 ルーナは、部屋の周囲を確認しながら、ティエラの近くまで歩み寄ってくる。そして、彼女の肩に手を置いた。


「姫様、申し訳ございませんでした。この部屋で魔力の揺れを感知したので、直ちにこちらに馳せ参じましたが、遅くなってしまいました」


 今日は、月が隠れているからだろうか?

 いつもは月明かりで輝くルーナの蒼い瞳に、光が宿っていなかった。


「姫様の御身に、何か変わったことはございませんでしたか?」


 いつものように、ルーナはティエラに対し気遣いの言葉を並べる。そして、彼女に優しく微笑みかけた。


 ふと、先程まで話をしていたソルの姿がティエラの脳裏をよぎる。


 剣の守護者であるソルが父王を殺したと、ルーナは話していた。


 ソルは、ティエラを裏切っていないし、国王も殺していないと訴えていた。


 二人の話には矛盾がある。


 ソルの言い分をティエラが信用しなければ良いのだろう。だが、彼のティエラに語りかける様子は真剣そのものだった。

 全くの嘘だと決めつけるものよくないだろう。


 ルーナも知らない何かが、父の殺害現場では起きていたのだろうか――?


 ソルが国王を殺した犯人だと、誰かがルーナに嘘の報告をしていた可能性もある。もちろん、例えばの話だが。


 玉の一族と剣の一族は、権力闘争をしていると聞いた。


 一族同士の仲をさらに悪化させて、得をする誰かがいてもおかしくはない。


 それとも――。


 そこまで考えて、ティエラは首を横に振った。


「何もありませんでした」


 ティエラはルーナにそうとだけ告げる。

 

(……嘘をついてしまった……)


 本当は、鏡越しにティエラはソルと会話をしていた。

 なのに、ルーナに真実を伝えることが出来なかった――。


「そうですか」


 ルーナは少しだけ寂しそうに呟いた。


 ――気付けば、ティエラの部屋から、他の騎士達は退室している。


 部屋の中には、ルーナとティエラの二人きりだ。


 ティエラの肩に置いてあったルーナの手が、ティエラの亜麻色の髪へ移る。彼女の髪を、彼は優しく撫でてくる。

 そうして、ルーナの指がティエラの輪郭をなぞった後、ティエラの唇に触れる。

 そのまま顎を持ち上げられ、ルーナに唇をついばまれた。

 いつもは、ルーナの行為に恥ずかしがっていたティエラだが、今日はルーナに嘘をついた罪悪感もあり、なすがままになる。

 何度か軽い口づけを経て、深い口づけがおとずれた。


 その時――。


『ティエラ、――には気をつけろ』


――ソルの顔が浮かんだ。


 咄嗟にルーナの唇から離れてしまう。

 離れるときに、ティエラがルーナの唇を噛んでしまったのか――。


――お互いの唇に、少しだけ血が滲んでいた。


「ごめんなさい、急に……」


「良いのですよ。このままだと、私も姫様に何をするか分からなかったので」


 血が滲むティエラの口の端に、ルーナは口唇を寄せる。


 一瞬だけ見えたルーナの瞳が、なぜだか暗い光を宿していたような気がした。


 ルーナはティエラを一度抱き寄せた後、部屋を出ていった――。



 彼女は、一人になった。


 どうしてだろうと考える。


 どうして、ルーナに嘘をついてしまったのだろう、と。

 



 どうして、ルーナと口づけている時に――、



――ソルの顔が浮かんできたのだろう、と。




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