太陽の追憶3
きらびやかな灯りが、そこかしらに見える。
たくさんの人達の喧騒や嬌声が、あちこちで飛び交う。
人の行き来が激しかった。
ソルは、ティエラの手を握る自分の手に力を入れた。離れたら、彼女が人々の波に飲まれてしまいそうで心配だ。
「うわ~~綺麗ね、ソル」
そんなソルの気苦労を知ってか知らずか、ティエラは嬉しそうにしていた。
時々、色とりどりの魔術が煌めいて、会場内をさらに賑わせている。
(まあ、喜んでるなら良いか)
昔は、飛び出すティエラを追いかけることが多かった。彼女の無茶に付き合っては、大人達によく叱られたものだ。
しかしながら、ティエラの父親である国王は、かなり柔軟である。無断で城から出られるのを嫌うだけで、ちゃんと理由を説明すると外出を許可してくれることが多かった。
(今日は床に臥せっていらしたが、大丈夫だろうか?)
最近の国王様は、また具合が悪いそうだ。
先程、祭りに行っても良いかどうか尋ねに向かったら、彼はなんとかといった様子で身体を起こしていた。
『短時間ならね。今日は街のあちこちに監視がいるから、行ってくると良いよ。何かあれば監視の彼らに言ってね。ただし、妙な輩が増えてもいるから気をつけて』
そう国王から許可をもらい、二人はあまり夜闇が暗くない内に祭りを見学することになった。
歩く中には、他国の者の姿も紛れている。
最近、西からの移民も増えてきていた。あちら側にある国スフェラ公国は最近治安がよくないという。
「あ!」
突然、ティエラが叫んだ。
「どうした?」
ソルは人に当てられて、集中を欠いていたように思う。こういう所をよく父親イリョスには叱られてもいた。
隣にいるティエラは、自身の身体中をぺたぺたと触っている。立ち止まってしまったので、歩行する人々とぶつかってしまった。彼女の身体がよろめいたので、ソルは彼女を全身で受け止める。
「ないの……」
ソルの腕の中で、ティエラは泣きそうな顔を浮かべている。
(おいおい、まさか……)
そうこうしているうちに、どんどん人は流れてくる。
ソルは荷物よろしくティエラを肩に担ぐと、人が少ない場所がないか探した。
※※※
「だから失くすって言っただろうが……」
ソルは大げさにため息をついた。
二人は、あまり人が多くない路地裏まで来ていた。
目の前の少女はしゅんとしている。
「だって……ルーナに貰ったの、すごく嬉しかったんだもん……」
そう言う彼女の金色の瞳には涙が浮かんでいた。
ティエラは、部屋の中で、手にとって眺めていたガラスで出来た薔薇のコサージュを持ち出していた。そして、早速失くしてしまったらしい。話にならない。
『姫様が、将来婚礼の義でお召しになるドレスにも合うものを、買って参りました』
あのいけすかない男ルーナがティエラに手渡していたのを思い出した。
まだ給金をもらっていないソルには出来ない芸当だ。といっても騎士学校に入学したので、少しばかりはお金をもらってる。
だから、本当は自分も――。
ソルは、むしゃくしゃした気持ちまで蘇ってきた。
「……ごめんなさい」
しょんぼりするティエラに目をやる。
彼女が、あの贈り物をとても大事にしていたのも分かっている。
またソルはため息をついてから、ティエラを真っ直ぐに見つめた。
「あんたのあれが、見つかるかは分からないが……今から一緒に探すぞ」
「ソル、いいの?」
ティエラが、ソルを潤んだ目で見上げる。
「ああ。ただし、この人混みだ。見付からなかったら諦めろ」
そうソルが伝えると、彼女の顔がぱっと明るくなった。
なんで自分が、ルーナがティエラに渡した贈り物を探さないといけない。そう思わなくもなかったが――彼女が泣くのにソルは非常に弱いのだった。
さっそく探しに行こうとすると――。
「そこの二人」
突然、二人は、物影から呼び止められた。




