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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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太陽の追憶2

ソル視点の過去回想


ティエラ→9~10歳

ルーナ→19~20歳

ソル→14~15歳





「なぁなあソル、あのアリスって子、可愛いと思わないか?」


 青銅色の髪をした――青年に近い――少年が、ソルに声を掛けてきた。

 騎士学校で出会って以来、やたらと自分に絡んでくるようになった。

 その少年が言う少女の方をソルは見る。彼女は猫みたいな瞳に、短く切った金の髪をしている。いつも姉達やティエラの長い髪型に見慣れている。

 彼は、少年にこう答えた。


「男みたいじゃないか?」


 少年は、「はあ?」と言って、ソルを怪訝な目で見てくる。


「ソルは、なんかこう男としてさぁ……」


「で? お前、名前は何だったけか?」


 がっかりしている少年に、ソルはさらに追い討ちをかけた。


「まだ覚えてくれてなかったわけぇ? ネロだよ~~。ネロ・ヒュドール」


 ソルは話し掛けられて、「ああ悪ぃ」と話した。


「それで? ソルは今日の祭りはどうするんだ?」


「は? ああ、祭りがあんのか?」


 ソルは気のない返事をしたが、ネロは食い付いた。


「予定がないなら、俺と一緒に行かないか? お前が居たら、女の子もたくさん寄ってきそうだしさ。もうすぐ成人だろ、その前に……」


 垂れ気味の、煉瓦色の瞳を爛々と輝かせて喋り続けている。

 ソルは、そんなネロを一瞥するとため息をついた。


「俺は、ティ……姫様のとこに、いないといけない。だから行けない」


 姫様という単語を聞いて、しぶしぶと言った様子でネロは引き下がった。




※※※




 騎士学校と言っても、城の一角にある。

 ソルはルーナと交代するために、ティエラの住む小城に向かった。

 扉を叩いた後に、部屋の中に入る。

 すぐに亜麻色の髪をした少女が目に入った。

 少女は窓際で、薔薇の形をしたコサージュ――ガラスで出来ているからブローチに近いが――を手にし、うっとりとした表情を浮かべている。

 ソルはそんな顔をするティエラが、今までの彼女とは違うようなもどかしさを感じた。

 ふと立ち止まってしまったが、気を取り直してティエラに話し掛ける事にする。



「おいティエラ、あんた、またそれ見てんのか?」



 ソルが声をかけると、彼女はびくりと反応した。彼の方を勢いよく振り返った。



「ソル! もう! 驚かさないで!」


 ティエラは、ソルに気づいていなかったようで、頬を膨らませている。


「そんな顔してたら、ルーナに嫌われるぞ」


「ルーナにはしませんし、彼はそんな人じゃありません!」


 腹を立てたティエラが、ソルにそっぽを向いた。

 確かに、当初のルーナのティエラへの対応は、とても表面的なものだった。だが、何があったのかはソルには分からないが、ルーナはティエラに真実優しく接するようになった。


(俺から離れて二人でどこか行って、親父がどこかに迎えに行ったぐらいか?)


 ソルは、漠然とルーナの態度に関してそう思っていた。


「まあ、でもあんまり持ってたら失くすぞ」


「大事なものだから、失くさないもん」


「絶対失くすって」


 二人はぎゃあぎゃあ言い合いになる。


「また喧嘩ですか? 姫様達~~」


 そんな二人の近くに、黒髪を二つに結った少女が近付いてきた。


「グレーテル、どうしたの?」


 現れたのは、ティエラのお世話係のグレーテルだった。


「今日は、城下街でお祭りがあるんですよ~~。ちょっとグレーテル、お約束があって~~。もう仕事終わりの時間だから、上がらせていただこうかと~~」


「お祭りがあるの?」


 ティエラは、グレーテルの話に目をきらきらさせている。


「そうなんですよ~~。姫様も、ソル様とルーナ様の三人で行かれてはどうですか~~?」


 そう提案されたティエラは、しゅんとなった。


「それが、ルーナは今日も忙しいみたいなの、プラティエス叔父様のところに行かないとって」


 グレーテルも残念そうに、ティエラに声をかけた後に退室した。

 部屋に残されたソルとティエラ。

 彼は彼女の方を見る。

 ティエラは当然落ち込んでいるかと思ったのだが……。

 彼女はにこにこしながら、ソルを見上げてきた。


(嫌な予感がする)


 だがしかし、ソルはティエラの頼み事には弱かったのだった。





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