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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第113話 夜闇の侵入者



 ティエラはセリニと別れてすぐ、ソルの元に帰る予定だった。途中アルクダと遭遇したが、彼女は彼と、予想より話し込んでいたようだ。

 辺りは、いつの間にか暗くなっていた。

 そろそろ夕飯時である。

 セリニとの訓練前に、日が暮れたら孤児院の食堂に来るよう、モニカに言われていたのを思い出す。


「遅いから、ちょうどあんたを迎えに行こうと思ってた」


 部屋に戻る途中、ソルと出くわした。

 食堂に誘い、隣を並んで歩く。離れにあるため、少しだけ外を歩かないといけない。

 ティエラは先程まで、彼の事を聞いたり考えたりしていたのもあって、少しだけいつもより距離感が近いような遠いような。そんな錯覚があった。

 不思議だ。

 近すぎると見えないこともある。少し遠くなると見える事もある。


 暗闇に乗じて、ティエラはソルに少しだけ近付いた。彼女の手がソルの手に触れる。

 彼の剣を扱う節だった指が、ティエラは好きだなと思った。


「あんた、最近積極的だな……」


 少しだけ困ったようにソルは笑う。

 それを見て、ティエラも微笑んだ。

 もう少し、彼とこうして過ごせたら良いのに。


 二人が玄関を出る。

 すると――。




「ひ、姫様~~!! ソル様~~!」




 声がして振り返ると、グレーテルが走ってくるのが見える。

 彼女は二人の前まで来る。息をきらしながら、ティエラとソルを見上げた。


「どうしたの、グレーテル?」


 ティエラが問うと、グレーテルは息を整える。そうして、二人に話し掛けた。


「グレーテル、ちょっと人探しに、行って、まいります~~」


 ティエラが問い返した。


「人探し?」


「それが、孤児院の子どもさんが三人ほど帰ってきてないみたいなんですよ~~。お世話になる身ですから、お手伝いはしとこうかと~~」


 もう陽は沈んで、辺りは暗い。

 どのぐらいの年齢の子達かは分からないが、子どもが帰るには遅い時間だ。


「探すにも特徴が分からないだろ?」


 ソルが、グレーテルに問うた。


「一人は知ってます。ニニョくんにペディちゃん、それにエガタくん」


(エガタくんは、この間見た……)


 ティエラの隣にいるソルの表情が、急に険しくなった。


「ソル?」


 何かあったのか問い掛けようとしたら、突然セリニが三人の前に現れた。高位の魔術師しか使えないという転移の術を使ったようだ。

 セリニは声を荒げた。


「姫様! ソル! ここから退避するぞ!」



 セリニが三人に近付き、詠唱を始める。四人で翔ぶつもりのようだ。



「どうし――」


 ティエラが尋ねようとした瞬間。





「ちょっと待った!」




 教会の扉が飛ぶ。

 男の声だ。

 ティエラ達を囲む魔術陣に別の陣が重なる。

 セリニが舌打ちする。

 教会の奥に人影が現れた。その後ろには、さらに人影が見える。

 ソルが神剣に手をかけ、そのまま引き抜いて構えた。



「って、あれ~~?」



 場にそぐわない明るい声が聞こえる。

 先頭に立つ男だ。




「やっぱりソルじゃん」




 男は砕けた調子で話してきた。

 その口調に反し、射抜くような視線をティエラ達に向ける。

 ソルがため息をつきながら、彼女達を守るように前に出た。




「手間が省けて、本当俺ってツイてんな~~」




 現れた男は、そう言って長槍の切っ先をソルに向けた。

 彼は、青銅色の髪をしている。



「ルーナから直接、俺の捕縛の命でも出たか? ……ネロ」



 ソルがいつもよりも低い声で告げた。

 それに対し、ネロと呼ばれた青年も先程までの声とは打って変わって真剣な声になる。彼は、ソルに返答した。



「半分、当たりかな」



 そうして青年は不敵な笑みを浮かべて、ティエラ達を見据えたのだった。






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