第112.5話 アルクダが太陽に思うこと
ティエラと離れた後、アルクダは孤児院から離れた。彼は、街に向かいながら、少しだけ考えていた。
それは、自分の仕えるソルについてである。
彼は、剣の一族の中で、唯一産まれた男児だった。そのために、彼には強制されていることがいくつもある。
代表は、ティエラのそばにいることを強制されている事だろう。
彼が、幼い頃から一緒に過ごしたティエラの事を好きな事は、しばらく近くで見ていたら分かる。
大人達もそのぐらい分かっていただろう。
けれども実際に、ティエラの婚約者に選ばれたのはルーナだ。
ティエラとルーナが、、予定通り結婚したとしても、ソルは彼女の近くにいなければならない。同じ状況になったとして、他の人達なら、結ばれない相手とは離れ、自分の心を癒すことが出来るのに。ソルは、彼女が他の人と添い遂げるのを、間近で見続けないといけない。
「考えたら、僕には無理だな」
アルクダは呟いた。
次はやはり、有り余る力を持ちすぎる事だろう。
アルクダは、ソルは見た目は良いが、性格はわりとよくいる普通の青年にだと思っている。
剣技自体は、ソルも好きなのだろう。わりと真面目に鍛練を積む彼を、アルクダは間近で見てきた。
けれども、剣の守護者という事で、誰よりも強い力を持ち、誰よりも強いことを強制されている。
神器の力を差し引いたら、ソルとルーナでは、ルーナの方が剣技においても勝っている可能性がある。
それを分かっているので、ソルはこれまで、相当な努力を重ねてきている。
「頑張り続けるのも、きついよな」
そして、剣の守護者であることが原因で、ソルは戦場には必然的に駆り出される。
成人したばかりに戦争へ行った彼だが、帰ってきてから、他の騎士らと同様に悪夢に苛まれた。むしろ殺した数が多すぎて、他の騎士達よりも、その苦悩は深かったように思う。
ルーナのように、誰かを殺めるのに躊躇いのない人物であったなら、そんなにも苦しまなかっただろう。
戦後はしばらく、ティエラ姫がソルと一緒に過ごしたおかげで徐々に心の傷を癒していった。
恐らくその過程で、二人は恋仲になったのだろう。
周囲の大人達も気付いていたが、ソルを憐れんだのか、何も言わなかった。逆に残酷な結果になったのではないかと、アルクダは思っている。
肝心の姫様からは、大事な時期の記憶を忘れ去られている。
他にも、ソルは嫡子を残さないといけない。が、これはわりと他の貴族にもいる。
ただ、国の神器の継承者でもあるから、貴族たちよりも、その圧は大きい。
一方で、ティエラ姫が結婚するまでは、自分も妻は娶らないと話した息子を、父親も容認してはいる。
結果的に、ティエラと結ばれることはなく、苦しみが先伸ばしになっているだけだが。
「大人の考えることは、怖い」
この間ソルがうなされていたのは、また戦争の話が出たからに違いない。
数年、穏やかに過ごせたのが不思議な位だ。ソルの考えが甘いのも、アルクダにも分かっている。
正直、追われる立場になってまで、無理に姫様の面倒を見る必要はないとアルクダは思っている。
かといって姫様が好きなら、もっと行動に出れば良さそうだ。だが、ソルには行動が出来ない。
「立場とか、全部捨てれば良いのに……」
考えながら歩いていると、ちょうど路地裏に目的の人物がいて話しかける。
自分のように、彼が好きに動けないのは分かっている。
アルクダは、不自由なソルを、少しだけ憐れんでいた。




