第108.5話 月が思ふは偽りの陽
月が隠れ、太陽が登ろうとしている。
白金色の髪が、日に照らされ、金のように煌めく。
ルーナは昨晩の事を考えていた。
『駄目だ……俺には、いくら中身が別でも……陛下を殺せない……!』
ソルの言葉を反芻した。
迷いを抱く、彼の碧の瞳。
ルーナの蒼い瞳に、白金色の睫毛の影が落ちる。
「殺せない、か」
弱い。
やはり、自分とは相容れないと思う。
「もう少し、ばか正直で気概がある男だと思っていたが」
姫を護るためなら、己の正義を貫くかと思っていたけれど。
「優しさで、自分を偽るようでは弱い」
ティエラとソルの二人が脳裏に甦る。
先日、屋敷に入った時も、そうだ。
彼女が記憶を喪う直前もそうだった。
いつも何かを諦めたように見えた。
何かを悟ってしまったかのように振る舞っていた。
昔の、あの正直さはどこにいったのだろう。
「もう日がない。このままでは剣も……」
彼は、大人のなり方を間違えて、陽の輝きを失ったのかもしれない。
何がそうさせたのか。
果たして戦だけだろうか。
姫も、自分も、原因かもしれない。
ルーナは自虐的な笑みが出てきて、自分でも意外に感じていた。
「邪魔になるようなら、要らないな……」
己を殺した決断では、私に刃は届かない。
ルーナは一人、朝陽を見つめていた。




