第107話 演説前日・これから
「姫様は起きているか?」
部屋に入ってきたのはセリニだった。
ティエラは、ちょうど考えていたセリニが現れたので、少しだけ驚くとともに安堵する。
「このような夜更けにすまない。姫様に話がある」
セリニは、ティエラに確認をとる。
「セリニさん、ご無事だったんですね。私も話したいことがありました」
ティエラは隣室のソルに声をかける。
彼と合流してから、三人は階下へ向かった。
途中、グレーテルの部屋に声を掛けたが、もう眠ってしまっているのか反応がなかった。アルクダにも声を掛けたが、「取り込み中です」と断られ、「明日、グレーテルさんと一緒に聞かせてください」と返事があった。
そのため、ティエラ、ソル、セリニの三人で応接室へと向かった。
※※※
「竜に会ったのか」
セリニは、さして驚いたような表情を浮かべることはない。余程の事がないと動じないのだろう。
「セリニさんはご存じでしたか?」
「神器の使い手らが、連綿と血を成しているのだから、竜が封印されているのは真実だとは思っていた。だが、誰かを乗っ取るとは……。異形の化け物だと、私も思っていたよ」
「本体は別にあるって、あいつが言ってぞ」
そうかと、セリニはソルに返した。
「生け贄の代わりに、竜の封印を強固にするため、偽の神器を使うのだろうと思っていた……。ルーナの滅ぼしたいという言い分とは、矛盾するが」
セリニは続ける。
「話を聞く限り、竜は男である王に憑いている。鏡の一族は何かに憑かれやすい。そして竜は女を喰う……。前はシルワ姫の予定だった。次は姫様。どちらも王族の血筋……」
誰かに話しかけるというよりも、独り言に近い。
「これまでも、歴代の姫達の成人前後での死は多かった。流行り病や不慮の事故と言われていたが、竜に喰われていたのだろう」
「セリニ、だがもう鏡の一族はティエラ一人だろ。竜は外に出たいのか? 鏡の一族でなくても、女を喰えさえすればそれで良いのか?」
ソルの問いかけに、セリニはうつむいたまま答えた。
「それなら、わざわざ王族を差し出す意味はないだろう……」
そう言った後、セリニは一瞬はっとした様子になる。だが、すぐに元の無表情に戻る。
「だから、ルーナは急いでいるのか……?」
セリニは独りごちる。
「何か、気づいたんですか?」
ティエラが不思議そうに、セリニを覗きこんだ。
「姫様、一度お会いした方が良いと思われる人物がいます」
「だが、フロース様の確認はとりたい」
「フロース叔母様の?」
ティエラは、フロースの話が出てきたので驚いた。
セリニは、大公プラティエスの愛弟子だった。
フロースは、大公の妻だ。
セリニとフロースに接点があってもおかしくはない。
「姫様の成人も近い。ルーナの演説を聞き次第、ウルブに戻りたいのだが、良いだろうか?」
そう言われて、ティエラは頷いた。
ソルは、そんな彼女を黙って見ている。
「それと道中、姫様に魔術を教え直しますゆえ」
「いいんですか? ありがとうございます」
ティエラが微笑むと、セリニも微笑み返した。
「青い本を以前購入されていただろう? あちらが魔術書です。あれを、使いましょう」
ティエラは、てっきり、ただの古典文学だと思っていた。
「それでは、話は一旦これで」
そうセリニに言われ、ソルとティエラは応接室を後にした。




