第106話 大地は振り返る
もう夜更けは過ぎている。
屋敷に戻ってきたソルとティエラの二人は、アルクダとグレーテルに挨拶をして部屋に戻った。
セリニはまだ帰ってきていないらしい。それが、少し気がかりだった。
(あの空間に巻き込まれたりはしてないわよね……)
ルーナも、セリニについて言及していなかった。あの不思議な空間は、神器の使い手しか入れない場所だったのかもしれない。
ティエラは、セリニを心配しつつ、ルーナについて考えていた。
明日は、ルーナの宰相就任についての演説があるという。それを聞きに行かないといけない。
演説の際にルーナが偽の神器を使い、大衆の命を奪ったりはしないだろうか。とても心配だ。
ルーナは、竜に怯える国など要らないと話していた。あの言葉自体は、全てが偽りではなかったように思う。
父の姿をした竜の話では、成人したばかりの女性を喰いたいというように話していた。成人間際のシルワ姫が逃げた一件もある。大公も、ティエラが十七になる前にと話していたと言う。
(私も、十七歳を迎えたら、竜に捧げられ喰われる)
(そうなると女王になる前に死ぬ?)
(でも、もし私が何もせずに喰われてさえいれば、鏡の神器の守護者は途絶えて、そこで竜の封印は解けて……そもそも国は滅びていたはず)
だから、ルーナが国を文字通り滅ぼしたいのは違う気がする。
そうならば、偽の神器の作成は要らなかったはずだ。
数多くの命を犠牲にして産み出された偽の神器。
(玉は、竜に対抗する手段のはず……)
だけど、玉の神器では抑えるだけで、竜を殺すには剣の神器を必要だと言っていた。そこはソル頼みなのだろうか?
(まだ、何かが隠されている気がする。でも、わからない)
異空間にいる際も、ルーナはほとんど話してはくれなかった。
おそらく、あれ以上本人から聞き出すのは困難だろう。
(セリニさんが知ってる事はないかしら?)
彼が帰ってきたら話を聞いてみようと思う。
ルーナはいつ迎えに来るとは断言はしていなかったが、演説が終わって以降に迎えに来るはずだ。つまり、明日を過ぎれば、いつ来てもおかしくはない。
それまでに、もう少し、判断材料がほしい。
そう考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。




