第104話 月と太陽の共闘
「じゃあ、行くとするか」
「ああ」
ソルに対して、ルーナが応える。
ティエラは、これまで二人が罵りあっている姿ばかり見ていたからか、少しだけ戸惑いを感じる。
ただ、言い様のない安堵も、胸に去来していた。
「宝玉の力じゃ効かないんだろ?」
「残念ながら」
ソルが、片手に持っていた神剣を両手で持ち直す。
「剣の神器じゃないといけないってことは、あれが封印されていた……」
「珍しく察したな」
ソルは、再生途中にある男の前へと走る。
「一応あいつのためにいるんだろう、俺達は!」
男は焼け焦げた指先から、燃える火の玉を、幾つもソルにぶつける。全て剣で凪ぎ払ったソルが、男に近付いて、そのまま剣で挑む。炎に拒まれる。
ルーナの詠唱が終わる。
以前、セリニが使っていた火を鳥のように形作る魔法だ。鳥が飛翔し、彼の頭上から消える。
直後、ティエラは冷気を感じると思えば、中空に伝承されている竜が氷により形成されていった。
王の姿を取り戻そうとする男を、鳥が嘴で刺すように襲いかかる。
隙が出来た瞬間に、ソルの神剣の刃が閃いた。
男の胸に傷が入る。
それまで、ある程度の速さで傷が回復していた。
だが、ソルの切り口は再生し始める様子がない。
いつもいがみ合っていたのは嘘のように、二人は連携が取れている。
どちらも神器の守護者なのだから、本来こういった姿が正しいのだろう。
「紛い物が!!」
焼けた男は、ルーナの頭上で凍える気を放つ竜に向かって叫んだ。
「この男の声……」
それを聞いたソルの手が、一瞬止まる。
その間に、男の胸ではなく、顔の再生が進んだ。
彼の顔を間近に見て、ソルの剣の切れが鈍る。
「陛下?!」
氷の竜が、国王を目掛けて喰いかかった。
ルーナがソルに叫ぶ。
「斬れ!」
だが、ソルは男を切りつけることに躊躇する。
それを見計らったかのように、男はソルから離れた。
「何をやっている?! それは身体を借りているだけだ!! もう陛下ではない!」
ルーナが叫ぶ。
襲いかかる王の攻撃を、ソルはかわす。
これまでとは違い、防戦一方になってしまっている。
ティエラはソルの様子をみた。
先程まで、明らかに彼らの勝利は目前だったのに。
ソルと一緒に、父の姿をした生き物も視界に入る。ティエラは言い知れない思いを抱いた。思わず、ペンダントを握りしめる。
「早くしろ!」
ルーナが叫ぶ。
だが、ソルは、相手の攻撃を防ぎながら、呻くようにルーナに返した。
「駄目だ……。俺には、いくら中身が別でも……。陛下を殺せない……!」
「この、馬鹿が……!」
焦げて腐敗臭を放つ男の身体は、じわじわと元の姿を取り戻しつつあった。




