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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第103話 死して大地に巣くう者




「お父様……亡くなったんじゃ…?」


 ティエラは衝撃を受けていた。

 彼女の父は、ルーナに殺された可能性が高かったはずだ。

 なのに、今ティエラの目の前に立っている男は、生前の父と何ら変わらない姿をしている。


「ティエラ、どうしたんだい?そんなに大きな声を出して」


 男は、彼女の名を呼んだ。

 ――亡くなったと思っていた父がそこにいる。

 ティエラの瞳から、涙が溢れた。

 そばに行こうと彼のいる方へ、彼女が足を踏み出そうとしたその時――。


「駄目です、姫様!」


 彼女の後ろから、駆けつけてきたルーナの声が聞こえる。彼が叫ぶのは珍しかった。切望した声に、ティエラも驚く。


「ルーナ、だって……!」


 ティエラが叫ぶ。


「聞いてください、姫様。あれは……」


 彼女は、父の方へと腕を伸ばした。

 ティエラの父が口を開く。



「その銀の髪。忘れもしない」


 ――どういう事だろうか。父とルーナは知り合いのはずだ。なのに――。

 彼の言い方に、ティエラは違和感を感じる。


「あと数日立てば、もっと美味いだろうけど、もう良いだろう」


「お父……様?」


 父の口から到底出るとは思えない発言が出てきた。

 ティエラは、不信感が強くなっていく。


「あの男は、貴女のお父上ではありません。あれは……!」


 ティエラに説明しようと、ルーナが声を上げる。

 遮るように国王は告げた。


「その女、知らないでここに来たのか?」


 ティエラの父とは思えない程の低い声で、二人は問われる。


「何も知らない……」


 ティエラは絞り出すようにして告げる。

 それを聞いて、国王の姿をした男は高笑いした。

 決して父ならしないその姿に、彼女はさらに動揺してしまう。


「女を喰うのは、何十年ぶりかな――ブルームとフィオーレとかいう、花の名前の姉妹以来か――妹には逃げられたが、姉はとても美味かった」


 彼が悠然と笑んだかと思うと、風が吹きすさび始める。


「風が……」


 ルーナが手をかざした。

 ティエラと彼を囲むように方円が現れる。

 彼女の視界に薄い膜のようなものが出来たと思った瞬間、強風がその膜を襲ってきた。視界が揺れる。

 ルーナが、かばうようにしてティエラを後ろに追いやった。


「姫様は後ろにいらして下さい」


 ルーナから静かに告げられた後、彼が詠唱に入った。


 すぐに言葉は切れ、国王の足元の岩が崩れる。


 ルーナが次の詠唱に入るや否や、国王はそのまま宙へと落下した――。


 ――かのように見えたが――彼は落ちない。


「落ちるところ、だったろう?」


 国王の姿をした男は、その場に浮いていた。


「貴方は誰なの!? どうしてお父様と似ているの!?」


 ティエラが、魔術陣の中から叫ぶ。

 それを冷めた目で見る国王姿の男は、こう告げた。


「それは、この身体がお前の父の物だからだよ」


 彼女は、その男の言葉に、さらなる衝撃を受けた。


「ちょうど良いところに落ちていたから拾ってやった。死んだ後だから、本来の力が出せないのが残念だがな」


 そう言った男の身体が、激しい炎に包まれた。

 男は断末魔を上げている。


(お父様の身体が……!)


 苦しそうな父の声に、ティエラは陣から外に飛び出てしまう。知らない誰かとは言え、身体は父の物だ。

 それを確認した瞬間――。

 焼けていた男の口が、三日月の形に笑んだ。

 風の刃が、ティエラを襲う。


「姫様!」


 ルーナが叫ぶと同時に、ティエラの身体が引き寄せられる。

 風と相殺するように、風が彼女の頭上を駆け抜けた。


 気づけば――。


 ――ルーナが、ティエラの身体を覆うようにして庇ってくれているではないか――。


「姫様が無事で良かった」


 ルーナはティエラに微笑む。

 彼女を庇うように、彼は立ち上がった。

 彼の肩を見て、ティエラは驚く。


「ルーナ、怪我して……」


 左肩から背にかけて、彼の体には血が滲んでいた。


(私が陣から出なければ……)


 後悔がティエラを襲う。


 ルーナの魔術は、相手よりも格段に強かった。


 だが、父の姿をした者は何度も炎に焼かれ倒れるが、その度に復活する。

 ティエラは父の身体が何度も滅びるのを眼にし、途中からその姿を直視することが出来なくなっていた。

 それでも相手はまだ死なない。


 ――何回、父は死んだだろうか。


「申し訳ありません、姫様……。剣の神器でなければ、あれは……」


 ティエラが見上げると、ルーナの呼吸が上がってきているのが分かった。

 いつも平然としている彼が疲れてきている。


「ソルじゃないと、いけないの?」


「ええ……」


 遠くで雷が煌めくのが見える。

 ティエラの瞳が不安に揺れる。

 ルーナは、涼やかな声でティエラに語りかけた。


「あの男は貴方のためなら、どんな状況でも、絶対に帰ってきます」


 ――そう言われたのが、意外だったのかもしれない。


(ルーナ……?)


 ティエラは、ルーナを見つめた。


 彼は感情的に続ける。



「早く来い――」



 ルーナは静かな声で、唯一彼と対等なる存在を呼んだ。



「――ソル!」




 ルーナが叫ぶ。




 刹那――――。




 ティエラ達の背後から炎がたなびき、国王まで飛ぶ。



「――やっと見つけた」



 ルーナでも父でもない男の声が聞こえた。



「珍しいな、ルーナ、お前が苦戦してるなんて――」



 ルーナが安堵の息を吐く。


「馬鹿が――来るのが遅い……」


 彼の視線の先にいる、紅い髪の青年は――。



「ソル!」



 感極まって、ティエラが彼の名を呼んだ。


「ティエラ、遅くなって悪い」


 そう声をかけた後、ソルはルーナの方に向かって歩く。


「で? あれが今の敵か?」


 焼けた身体を再生しようとしている男。

 彼を指差し、ソルがルーナに問い掛ける。



「……ああ」


「じゃあ、一時休戦だな」



 そうソルが伝え、ルーナの隣に並ぶ。

 二人はティエラを護るように立った。

 

 ルーナはソルに答える。


「姫様を守るためだ。今は――仕方がないだろうな」


 再生しかけた男を、二人は捉えた。



「じゃあ、行くとするか――ルーナ」


「ああ――ソル」





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