大地を統べし者2
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少しだけ気だるいティエラと、寝ぼけ眼のソル。
二人は、国王に謁見の間まで通された。
しばらくすると扉から、中性的な見た目をした青年が現れる。
彼は、白金色の髪に、蒼い瞳をしていた。
国の神話に出てくる月の化身によく似た男。
「紹介しよう、彼はルーナだ。……ルーナ」
ルーナと呼ばれた青年は、柔らかくティエラに笑いかけた。
「姫様、ルーナ・セレーネと申します。貴女様の教育係を命じられ、同時に婚約者としてご指名を受けております。これからどうぞよろしくお願いいたします」
ルーナが挨拶をすると、ティエラは頬を赤らめ喜ぶ。恥ずかしそうに答えた。
「ティエラ・オルビス・クラシオンです」
ティエラとルーナを見ていたソルは、面白くなさそうな顔をしていた。
※※※
夜、国王の私室。
彼とその弟のプラティエスの二人は、長椅子に腰かけて談笑していた。
プラティエスは大公の位を持ち、現在はウルブの都の統治をしている。その傍ら、魔術師として様々な研究を手掛けている。
今日は、妻のフロースをウルブの都に置いて、報告を兼ねて王都まで来ていた。わりかし彼は、普段から自由に動いている。
「ソルには悪いことをしただろうか?」
兄の問いかけに、弟のプラティエスは答えた。
「仕方ねえんじゃねえか? 一応、玉の一族のやつらの機嫌をとっとかねぇとな……」
プラティエスは、全く意に介した様子がない。
彼は粗野な物言いをし、魔術師というには引き締まった体格の持ち主だ。亜麻色の髪は短く刈り上げられ、金色の瞳には野性味を感じる。人によっては、彼を騎士だと判断してもおかしくはない見た目をしていた。
彼は、さらに兄に対して話を続ける。
「それに、俺の研究が間に合わなくて、ティエラがシルワみたいになっても……。あの狐の坊っちゃんなら、気にもしねぇだろ。そっちの方が剣の坊っちゃんにとっても、悲しくはないだろうさ」
明け透けない弟の言い分に、兄は苦笑した。
プラティエスは少しだけ口調を真面目なものにして、話を続ける。
「親父もシルワの一件が堪えて、さっさと死んじまったしなぁ。フロースは子どもが産める身体じゃねぇな。あれにあまり、気負わせたくもない」
兄は目を伏せる。
「どうにか、間に合うといいんだがね……」
自分達のやっていることは、人の道理からはずれてしまっている。
国王としても、決して良い行いだとは言えないだろう。
それでも。
どうしても、家族を守りたいという思いを捨てきれない気持ちも罪なのだろうか。
三日月が空にかかっている。
まるで、月が、自分達を嘲笑っているようだった。




