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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第99話 太陽が大地に想うこと


「姫様、ルーナ様のところは危ないですよ~~。何を考えてるのか分かりませんよ~~」


 情報収集から帰ってきたグレーテルが、ティエラを説得していた。

 アルクダは、ティエラに状況の説明を行う。


「地方では、小競り合いが多発してて、多くの方が亡くなってるみたいですよ~~。ルーナ様が首謀者の可能性は高いかと。後は、死刑執行予定者だった方たちの、実刑が早まっているらしいですね」


「大体、ルーナ様は、自分が追っ手を出してるくせに、なんで姫様を連れていかなかったんですか~~?」


 今回のルーナ来訪と、ティエラが城に会いに行きたいと言ったこと。

 それを受けて、グレーテルは珍しくティエラに抗議していた。

 ソルもグレーテルも、ティエラのやることに基本的に口出ししたりしない。だが、今日のグレーテルは、珍しく反発していた。

 対照的に、セリニは落ち着いた声で意見を述べる。


「明後日、城前の広場で、宰相就任の件を民達に話すようだ。それまでは忙しいのだろう。あるいは、姫様が戻ると今は都合が悪いのではないか……」


 そのまま、セリニは言い淀む。

 ソルが引き継ぎ、ティエラに話し掛ける。


「本人に聞くのが、確かに手っ取り早くはあるだろうが。本人が答えてくれるとは限らないぞ。会った後に逃げ切れるかも怪しい」


「そのまま捕まって終了ですよ~~」


 グレーテルが、かなり気を揉んでいる。

 ティエラにも彼女の考えが分かり、申し訳なさがある。


「それでも行きたいかなって。私が成人する日も近いし、それまでに知っておかなきゃいけないことはたくさんある」


 ティエラの眼差しを受けて、グレーテルの瞳が揺れた。


「……まだ、大丈夫かもしれんな」


 セリニが、独りごちる。


 ソルは、ティエラの金の瞳を捉える。


「あんた、言い出したら聞かないからな……」


 彼がまた、ため息をついた。そうして、続ける。


「じゃあ行くのは確定な。セリニ、何か良い案はないか?」


 城に行くことに賛同してもらったティエラは、少しだけ安堵したのだった。




※※※




 ティエラは、部屋の窓から空を見上げる。

 先日は満月だったので、今は下弦の月がこちらを覗いていた。

 ティエラが過ごす部屋の中には、廊下への出入口以外に、隣の部屋とつながる扉が存在する。

 ソルがティエラを護りやすいようにと、セリニが、隣室と繋がっている部屋を選んでくれていた。

 その室内にある扉を叩く音が聞こえる。

 促すと、入室したのはもちろんソルだった。

 彼は、窓際に立つティエラのそばまで歩いた。


「月、観てたのか?」


「ええ」


 ソルは、ティエラの隣に立った。

 月を見上げたまま、彼女は口を開く。


「ルーナから話を聞くことができたら、これからどうするか、決めないといけない」


 ティエラは、最後の王族だ。

 国の民達に対しての責任がある。

 国王や、多くの国民らの命を奪うきっかけを作った可能性が高いルーナ。もし本当なら、彼をそのままにしておくわけにはいけない。


「そのためにもちゃんと確かめないと」


 ――実際に人々が亡くなっていく様を見た。

 ティエラの心に、大きなわだかまりが残っている。

 ソルは、彼女の横顔を見ながら語りかけた。


「あんたはさ、別に俺がいなくても一人で考えて、決定して、それで行動出来るよな」


 ティエラは、ソルの方を見上げた。

 彼は笑ってはいたが、少しだけ寂しそうだった。

 ――どうしたのだろうか。

 ティエラはちょっとだけ戸惑う。


「色々あんたが最終的に決めたら、話したいことがある」


 ティエラは、彼の碧の瞳に宿る光が、いつも以上に強い気がした。


「話?」


「少しあんた任せなところもあるが、俺も決めたんだ」


 ティエラの頭に、ソルが手を軽く置いた。

 彼女の胸に、暖かな火が灯るような感覚がある。


 彼が話したいこととはなんだろうか。


「おやすみ」


 そう言って去っていく彼の背から、ティエラは目を離せなかった。





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