第99話 太陽が大地に想うこと
「姫様、ルーナ様のところは危ないですよ~~。何を考えてるのか分かりませんよ~~」
情報収集から帰ってきたグレーテルが、ティエラを説得していた。
アルクダは、ティエラに状況の説明を行う。
「地方では、小競り合いが多発してて、多くの方が亡くなってるみたいですよ~~。ルーナ様が首謀者の可能性は高いかと。後は、死刑執行予定者だった方たちの、実刑が早まっているらしいですね」
「大体、ルーナ様は、自分が追っ手を出してるくせに、なんで姫様を連れていかなかったんですか~~?」
今回のルーナ来訪と、ティエラが城に会いに行きたいと言ったこと。
それを受けて、グレーテルは珍しくティエラに抗議していた。
ソルもグレーテルも、ティエラのやることに基本的に口出ししたりしない。だが、今日のグレーテルは、珍しく反発していた。
対照的に、セリニは落ち着いた声で意見を述べる。
「明後日、城前の広場で、宰相就任の件を民達に話すようだ。それまでは忙しいのだろう。あるいは、姫様が戻ると今は都合が悪いのではないか……」
そのまま、セリニは言い淀む。
ソルが引き継ぎ、ティエラに話し掛ける。
「本人に聞くのが、確かに手っ取り早くはあるだろうが。本人が答えてくれるとは限らないぞ。会った後に逃げ切れるかも怪しい」
「そのまま捕まって終了ですよ~~」
グレーテルが、かなり気を揉んでいる。
ティエラにも彼女の考えが分かり、申し訳なさがある。
「それでも行きたいかなって。私が成人する日も近いし、それまでに知っておかなきゃいけないことはたくさんある」
ティエラの眼差しを受けて、グレーテルの瞳が揺れた。
「……まだ、大丈夫かもしれんな」
セリニが、独りごちる。
ソルは、ティエラの金の瞳を捉える。
「あんた、言い出したら聞かないからな……」
彼がまた、ため息をついた。そうして、続ける。
「じゃあ行くのは確定な。セリニ、何か良い案はないか?」
城に行くことに賛同してもらったティエラは、少しだけ安堵したのだった。
※※※
ティエラは、部屋の窓から空を見上げる。
先日は満月だったので、今は下弦の月がこちらを覗いていた。
ティエラが過ごす部屋の中には、廊下への出入口以外に、隣の部屋とつながる扉が存在する。
ソルがティエラを護りやすいようにと、セリニが、隣室と繋がっている部屋を選んでくれていた。
その室内にある扉を叩く音が聞こえる。
促すと、入室したのはもちろんソルだった。
彼は、窓際に立つティエラのそばまで歩いた。
「月、観てたのか?」
「ええ」
ソルは、ティエラの隣に立った。
月を見上げたまま、彼女は口を開く。
「ルーナから話を聞くことができたら、これからどうするか、決めないといけない」
ティエラは、最後の王族だ。
国の民達に対しての責任がある。
国王や、多くの国民らの命を奪うきっかけを作った可能性が高いルーナ。もし本当なら、彼をそのままにしておくわけにはいけない。
「そのためにもちゃんと確かめないと」
――実際に人々が亡くなっていく様を見た。
ティエラの心に、大きなわだかまりが残っている。
ソルは、彼女の横顔を見ながら語りかけた。
「あんたはさ、別に俺がいなくても一人で考えて、決定して、それで行動出来るよな」
ティエラは、ソルの方を見上げた。
彼は笑ってはいたが、少しだけ寂しそうだった。
――どうしたのだろうか。
ティエラはちょっとだけ戸惑う。
「色々あんたが最終的に決めたら、話したいことがある」
ティエラは、彼の碧の瞳に宿る光が、いつも以上に強い気がした。
「話?」
「少しあんた任せなところもあるが、俺も決めたんだ」
ティエラの頭に、ソルが手を軽く置いた。
彼女の胸に、暖かな火が灯るような感覚がある。
彼が話したいこととはなんだろうか。
「おやすみ」
そう言って去っていく彼の背から、ティエラは目を離せなかった。




