太陽の追憶1
過去編ばかりで申し訳ございません。
ソル視点です。12歳ぐらいの頃。
「明日、城にいるルーナに会いに行こうと思います」
ティエラが、セリニに向かってそう言った。
(また何か、無茶な事を言い出した……)
隣にいたソルは、大きくため息をついた。
ティエラは大概大人しくしているが、何か思い付いたら行動的なところがある。
一応昔から、ソルはティエラの護衛に着いている。だから、振り回されるのには慣れていた。
まあ、今は彼が追われてるところを、彼女に着いてきてもらっている状態に近いのだが。
こういう無茶な事は以前からあったなと、彼は振り返った。
※※※
「おい、ティエラ、おい」
紅い髪の少年は、倒れた少女の頬を叩く。
亜麻色の髪が、草っ原の上に拡がっている。その髪や着ている着衣は水でずぶ濡れだ。彼女の顔に、濡れた髪の毛が張り付いている。
少女は、なかなか目覚めない。
息はしているから良いが、意識が戻らなくてイライラしてくる。
ソルは、諦めずに頬を続けて叩いた。
しばらくしたら、少女は目を覚まし、円い金色の瞳でソルを見た。
「ソル……身体が動かない……」
「はあ、ったく、またかよ……おぶって連れてくよ」
――今日も全くついてない。
そんな風に少年は思った。
彼自身も水浸しだ。
ソルはティエラを背に乗せ、歩き始めた。
※※※
五歳下の少女は、この国の王女ティエラ姫だ。
ソルが十二になるから、彼女は確か七つになる。
ソルはこの姫の専属の護衛騎士になる予定だ。だから、この娘が生まれた時から、彼はずっとそばで過ごしている。
一応、彼の姉がこの姫のお世話係に任じられていた。
だから、少年も一緒にティエラ姫の世話をしていた。そのせいか、この娘の世話をするのが板についている。
「この子と一緒に過ごしてくれますか?」
生まれたばかりの頃、長い亜麻色の髪を持つ女性にソルはお願いされた。
しばらくして亡くなったが、ティエラの母親だ。
ちなみに国王様と親父からも、とにかく四六時中一緒に過ごせと言われていた。
その理由の一つ。今のような状況がとてもわかりやすい。
鏡の一族の特徴らしいのだが、彼女はいわゆる霊魂等に憑依されやすい体質をしている。
城から少しだけ離れた場所にある池。
そこに沈んだ指輪を探している途中で死んだとかいう女の霊魂。それが先程まで、ティエラの身体に憑依していた。
「指輪を探しております」
わりと浅い池だが、まだ八歳の少女には深かった。指輪を探し出した後に、そのまま溺れた。
そうして、彼女を助けた結果が今だ。
ちなみに、女の霊魂は指輪がみつかって満足し、いなくなったようだ。
ちなみにティエラが溺れたのは、今回が初めてではない。
おかげさまで、水を吐かせたり、人工呼吸をしたりといった初期対応がソルは得意になった。
ただこうなると、彼が父親に叱られる。
「事前にどうにか出来ないのか? お前は護衛が出来ていない、隙がありすぎる」
そもそも城から出ていた事を注意されるだろう。
騎士団長であるソルの父イリョスは、怒らせると怖い。
決まり事を守らない人間にも厳しい。
子ども相手だからと容赦のない父親だ。
ソルはティエラを抱えながら、またため息をついたのだった。
彼女が生まれてしばらくの間、五歳下の少女と過ごすのは、ソルとしても遊び相手になってちょうど良かった。
けれども、ソルももう十二である。
同年代の男子たちとも遊びたい。歳が近い男達の中では、同年代の女子で誰が可愛いだの、体型がどうのと話し出す者も出てきている。
(それが俺は……まだ七歳の女の、子守りかよ……)
ソルもティエラ姫のことを、気に入ってはいる。
ずっと一緒に過ごして来た。
妹のようには、思ってもいる。
でも、やはり自分も人間だ。
(面倒だな……)
最近時折、彼女の護衛を負担に感じる時があった。
まあ、でも――。
「俺がいないとダメだからな……」
ソルは複雑な感情を胸にし、ティエラをおぶって城に帰った。そうして父親達に叱られたのだった。




