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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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月の咆哮3※R15

おそらくR15?まではいかないとは思いまが、人によってはご不快になる表現が含まれております。念のためにつけています。

ご了承いただける方はどうぞお願いいたします。

ルーナ視点です。彼が20歳になる前くらいです。

 



 白金色の髪に蒼い瞳をした麗しき青年は、十歳年下の幼い婚約者の言動に困惑していた。


「家族……ですか?」


 今しがたルーナは、十歳年下のティエラ姫への魔術の講義を終えた。基本的に講義の際、ソルは席を外しており、彼と彼女の二人きりだ。

 終了したと思ったら、「ルーナの家族はどんな人達だったの?」と、幼い姫が尋ねてきた。

 ――また何か妙なことを聞いてきたな、このお姫様も。

 ルーナはそう思ったが、表情は変えずに対応した。


「私も姫様と同じように、幼少期に母を失くしております。あとは父が育ててくださいました。その父も最近亡くなりましたが……」


 ルーナが憂いを帯びた様子で微笑むと、ティエラが少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「先日、ルーナの実のお父様が亡くなったのは残念だったわね……。ルーナも、お母様が亡くなっていて、お父様だけ。そうして、私達はどちらも一人っ子だった。育った境遇が似ていたわね――」


「そうですね」


 にこやかに、ルーナは婚約者の姫に返した。

 ――だいぶ父親の質が違うけれど。

 ルーナは心の内で呟いた。

 ティエラ姫は、母親が亡くなった代わりに、父王からの愛情を一身に受けて育っている。

 ルーナはと言えば、父親からの暴力に、男娼紛いの事をさせられていた。

 そんな汚れた男が、姫の婚約者に選ばれるだなんて、誰も思わなかったに違いない。玉の一族をはじめ、別の有力貴族達も高みの見物を決め込んでいるのだろう。

 ルーナの父も最近、酒の飲み過ぎで死んでしまった。遺体を引き取ったルーナだったが、何の感慨も沸かなかった。残念な話だ。



「ねえ……ルーナは、子どもは何人ほしいのかしら?」



 ――また突拍子もない事を聞いてきたな。まだ十にもならない年だから仕方もない。

 思わず、「貴女様もまだ子供ですよね」とルーナは返しそうになった。だが、もう成人している彼はぐっと堪えた。


「姫様……貴女様に似た御子様なら、とても可愛らしいでしょうね。何人でも構いませんよ」


 自分で言って、ルーナはぞっとしてしまった。

 ――自分の血をひいた子どもなんてまっぴらごめんだ。一人たりとも欲しくはない。義務的には何人かもうけないとはいけないだろう。あと何年かして、他の女と同じように姫も扱えば、子どもの一人ぐらいは出来るに違いない。


「何人でも良いのね!」


 ルーナの目の前で、ティエラ姫がはしゃいだ。

 ――機嫌がとれたようで、まあ良かったとしよう。

 少しだけ話を逸らそうと思い、ルーナはティエラに話題を振った。


「家族とは、貴女様なら、例えばソルのような者になるのではないですか? 毎日、いつも一緒にいるでしょう」


「ソルが家族……? そう言われれば、そうかしら? 兄妹みたいな関係? でも……イリョスおじさまに、ローザおばさま、フラムさんに、オルドー、アーレスちゃん……ソルには家族がたくさんいるわ」


 姫は何か考え込み始める。

 彼女の護衛を勤めるソルという少年。彼は、両親と数人の姉がいたはずだ。家族仲も悪くはないという。

 ――幸せなことで何よりだ。

 なぜかルーナの中で、紅い髪をした少年への不愉快さが増してきた。

 ルーナは、そろそろ話を切り上げて退散する準備をしようとする。


「ねえ、ルーナはノワ様のお家に、養子に入ったのでしょう? ノワ様とは仲は良いの?」


 ――まだ続くのか、この質問は……。


「ええ。兄上は、私に良くしてくださっていますよ。一緒に過ごしたのは少ないですけれども」


 うんざりしたが、表情には努めて出さないルーナは、ティエラ姫に笑顔で答えた。

 ――正直、本家も、昔いた家と大差がなかった。まあ、義母親の求めが執拗な位で、身体的な暴力は受けなかったか。多少はマシだったかもしれない。


「じゃあ、今はルーナ城に住んでいるわけだから。貴方の家族は、私一人なのね!」


 ――どういう思考になったら、そうなるんだ。やはり、子供の扱いは疲れる。

 ティエラの思考を、ルーナは理解が出来なかった。


「そうですかね?」


 ルーナは、つい苦笑してしまった。少しだけ本音が出る。

 勢いづいたティエラは、さらにルーナに話しかけてきた。


「これまでは家族とは言えなかったかも。でも、これからはちゃんと貴方の家族になってみせるわ!」


「それは……姫様、ありがとうございます。貴女様が、十年近く早く、私の家族になってくださるなんて。とても嬉しく思います」


 ルーナは曖昧に笑って返した。

 そうして、ティエラ姫が笑っているのを確認して、彼は退室した。

 部屋の見張りに、姫の護衛に戻るようにソルに声をかけてくれと、ルーナは頼んだ。


 ルーナは歩きながら、先程の会話を反芻する。


 恋仲になりたい、好意を抱いてほしい、貴方が好きでしかたがない。姫様がいても構わない。私をそばに置いてほしい。結婚してほしい。体だけでもいい。愛してほしい。


 ルーナにそう言ってくる女は多くいた。

 姫の発言も、婚約者だからと言われればそれまでだ。

 子供の戯れ言でしかない。

 ルーナの婚約者は国の姫だ。他の女達も、言いたかったのに、遠慮して言えなかっただけかもしれない。


 けれども――。




「家族……か」




 二十年近く生きてきて、初めて誰かに言われたその言葉を、ルーナはぽつりと口にしたのだった。




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