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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第96.5話 グレーテルとアルクダ




「あれ?アルクダさん、またどちらに行かれてたんですか?」


 ボヌスの街の中、グレーテルと途中ではぐれてしまっていたアルクダが、裏道から現れた。

 時間は夜。

 家に帰る人達で雑踏は溢れている。


「ああ、どうもすみませんね」


 糸目の男は、困ったような表情を浮かべる

 グレーテルは、アルクダをじっと見つめる。

 彼はいつもの調子で、彼女に話しかけた。


「国のあちこちで事件が起きているみたいですね~~」


 二人も一応追われている立場ではあるが、ティエラやソルのように目立つ容姿ではなく、知られている人間も少ない。

 そのため、ティエラ達の代わりに街で情報収集に勤しんでいた。

 グレーテルはソルに以前、髪の毛を染めてみたらどうか提案したことがあった。けれども彼の髪が堅くて染まらなかったという逸話がある。


「ルーナ様のせいですか~~? ノワ様が亡くなったぐらいからですよね」


「状況としては、可能性は高いかと~~」


 アルクダが間延びしながら話す。

 どちらからともなく、暗くなったから帰ろうという話になった。

 二人がいるのは、貧民街と平民街の境ぐらいのようなところだ。王都と比べると、あからさまな境界線はないが、貧富の差は目に見えて分かる。

 二人が歩いて帰っていると、たまたま娼館が目に入った。客寄せの男が色々な男性に声をかけている。部屋の奥には、色とりどりの衣装を着た女達の声が聞こえてくる。かすかに嬌声も聞こえてくる。

 グレーテルはそちらを観た後に、アルクダに話しかける。


「姫様にお城に迎え入れてもらってから、幸せでしたけど、まさかこんな展開になるなんて思わなかったです~~」


 彼女はいつもの調子で、にこにことしている。


「そうですね~~」


 アルクダが、わりとしんみりとした様子で返した。

 グレーテルは、そんな彼を見ていると楽しくなったようだ。


「あとは、まさか、またアルクダさんと一緒に働くとは思ってませんでした~~」


 グレーテルは、数年前に城に現れたアルクダに、非常に驚いたことを覚えている。


「一応、この国は女性が成り上がるには厳しいですが、男は力があれば、それなりには上り詰める事が出来ますからね」


 この国は、神器の加護を謳ってはいる。が、実際に開いた貧富の差を埋めることはかなり厳しい状況だ。

 女性であるグレーテルやヘンゼルが、娼館から姫様に拾われたのはとてつもなく幸運だった。

 ただ、男性ならば、才能さえあればある程度上に登ることが出来る。

 宰相補佐であるルーナの付き人であるウムブラもそうだ。彼は平民出身だが、魔力の才能が高く、宰相補佐のルーナの付き人と言う、名誉ある地位まで獲得している。わりと国では有名な話だ。

 グレーテルやヘンゼルが城に上がったときには、もうすでに頭角を現していたはずである。


 ちなみに、ソルは騎士のため、付き人を欲していなかった。しかしなぜか、ルーナが、アルクダとグレーテルをソルの付き人に選んだという話がある。理由が分からないそうだが、嫌がらせの一環ではないかと、ソルが嘆いていたのを思い出した。


「仕事しないだけですからね、アルクダさんは~~」


 グレーテルは、アルクダにそう告げた後、彼に近づく。上目使いで、彼に伝える。


「あと、城でまた会えた時、ちょっぴり嬉しかったです~~」


「え?」


 そんな話をグレーテルから今までに聞いたことがない。アルクダは、少し驚いていた。


「もちろん、ちょっとだけですけどね~~」


 そう言われて「なんだ」と、アルクダは返した。


 グレーテルが、アルクダより先を歩き始める。


「アルクダさん、早く帰りましょ~~」


 そう彼女が彼に声を掛けると、また前を向いて歩き始めた。

 その背を見つめ、アルクダはぽつりと言った。


「すみません、グレーテルさん」


 彼の声は、雑踏の中に消えていった。




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