第96.5話 グレーテルとアルクダ
「あれ?アルクダさん、またどちらに行かれてたんですか?」
ボヌスの街の中、グレーテルと途中ではぐれてしまっていたアルクダが、裏道から現れた。
時間は夜。
家に帰る人達で雑踏は溢れている。
「ああ、どうもすみませんね」
糸目の男は、困ったような表情を浮かべる
グレーテルは、アルクダをじっと見つめる。
彼はいつもの調子で、彼女に話しかけた。
「国のあちこちで事件が起きているみたいですね~~」
二人も一応追われている立場ではあるが、ティエラやソルのように目立つ容姿ではなく、知られている人間も少ない。
そのため、ティエラ達の代わりに街で情報収集に勤しんでいた。
グレーテルはソルに以前、髪の毛を染めてみたらどうか提案したことがあった。けれども彼の髪が堅くて染まらなかったという逸話がある。
「ルーナ様のせいですか~~? ノワ様が亡くなったぐらいからですよね」
「状況としては、可能性は高いかと~~」
アルクダが間延びしながら話す。
どちらからともなく、暗くなったから帰ろうという話になった。
二人がいるのは、貧民街と平民街の境ぐらいのようなところだ。王都と比べると、あからさまな境界線はないが、貧富の差は目に見えて分かる。
二人が歩いて帰っていると、たまたま娼館が目に入った。客寄せの男が色々な男性に声をかけている。部屋の奥には、色とりどりの衣装を着た女達の声が聞こえてくる。かすかに嬌声も聞こえてくる。
グレーテルはそちらを観た後に、アルクダに話しかける。
「姫様にお城に迎え入れてもらってから、幸せでしたけど、まさかこんな展開になるなんて思わなかったです~~」
彼女はいつもの調子で、にこにことしている。
「そうですね~~」
アルクダが、わりとしんみりとした様子で返した。
グレーテルは、そんな彼を見ていると楽しくなったようだ。
「あとは、まさか、またアルクダさんと一緒に働くとは思ってませんでした~~」
グレーテルは、数年前に城に現れたアルクダに、非常に驚いたことを覚えている。
「一応、この国は女性が成り上がるには厳しいですが、男は力があれば、それなりには上り詰める事が出来ますからね」
この国は、神器の加護を謳ってはいる。が、実際に開いた貧富の差を埋めることはかなり厳しい状況だ。
女性であるグレーテルやヘンゼルが、娼館から姫様に拾われたのはとてつもなく幸運だった。
ただ、男性ならば、才能さえあればある程度上に登ることが出来る。
宰相補佐であるルーナの付き人であるウムブラもそうだ。彼は平民出身だが、魔力の才能が高く、宰相補佐のルーナの付き人と言う、名誉ある地位まで獲得している。わりと国では有名な話だ。
グレーテルやヘンゼルが城に上がったときには、もうすでに頭角を現していたはずである。
ちなみに、ソルは騎士のため、付き人を欲していなかった。しかしなぜか、ルーナが、アルクダとグレーテルをソルの付き人に選んだという話がある。理由が分からないそうだが、嫌がらせの一環ではないかと、ソルが嘆いていたのを思い出した。
「仕事しないだけですからね、アルクダさんは~~」
グレーテルは、アルクダにそう告げた後、彼に近づく。上目使いで、彼に伝える。
「あと、城でまた会えた時、ちょっぴり嬉しかったです~~」
「え?」
そんな話をグレーテルから今までに聞いたことがない。アルクダは、少し驚いていた。
「もちろん、ちょっとだけですけどね~~」
そう言われて「なんだ」と、アルクダは返した。
グレーテルが、アルクダより先を歩き始める。
「アルクダさん、早く帰りましょ~~」
そう彼女が彼に声を掛けると、また前を向いて歩き始めた。
その背を見つめ、アルクダはぽつりと言った。
「すみません、グレーテルさん」
彼の声は、雑踏の中に消えていった。




