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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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第93話 別れと再開


 ノワが亡くなってから、数日が経っていた。

 ティエラ達は、アウェスの街から東の方角にあるボヌスの都に来ていた。

 ボヌスの都は、玉の一族の分家であるセリニの父が統治している都だ。そして、偽の神器の研究が再開された施設がある場所でもある。

 研究者であるルーナと出くわす危険性が高い場所だと言える。


 なぜ、ティエラ達がそこに来たのかと言えばーー。



 宰相ノワが息絶えた日の事を、彼女は思い出しはじめた。




※※※




「石を壊したのに、どうして……?」



 偽の神器――玉は壊れていたにも関わらず、ノワは微動だにしなくなった。

 絶命した彼を見て、ティエラは悲痛な声を上げる。


(少しだけノワ様の事を思い出したのに……)


 ルーナと婚約した頃の記憶は曖昧なままではある彼女だが、恐らくはその婚約前後の頃のノワのことが脳裏に浮かんだ。

 ティエラの記憶の中では、ノワはとても勤勉そうな男性だった。記憶と先程までの彼では、印象が別人のように違う。

 ノワのそばにいたセリニは、眉根を寄せた。セリニはノワの近くに落ちていた玉の欠片を拾い上げる。


「私が作っていた時は、壊せば、もう力はなかった」


「じゃあ、ルーナのやつが何かしたのか?」


 紅い髪の護衛騎士ソルが、銀の魔術師セリニに尋ねた。


「……壊れても、命を吸うように改良していたのだろう」


 明確な答えはなかった。

 だが、セリニの反応は、ルーナが玉を作り直した事を暗示している――。


「どうして、ルーナはこんな……」


 ティエラの問いに答える者はなかった。

 セリニは、欠片を自身の懐にしまう。そうして、見開いたままのノワの瞼をそっと閉じた。


「ノワ。お前が、自分の良きところに目を向けていたならば……魔力など関係なく、良い宰相になれていただろうに……」


 セリニがそう言ってからどれぐらい経っただろうか――。

 全員がその場から動けずにいた。

 しばらくすると、雲がかかり、雨が降り始める。

 そして、雨と共に別の音が聴こえた。



 ――馬の蹄と嘶く声。



 ソルが一番最初に動いた。


 皆がたたずむ場に、第三者の低い声が響く。



「間に合わなかったようだな」



 声の主は、馬に騎乗した男だった。

 壮年と思しき彼は、鍛えぬいた長身痩躯の身体に、騎士団の服を身に纏っている。

 雨と逆行で、ティエラには彼の顔がよく見えない。だが、なんとなく聞き覚えがあった。彼女は目を凝らす。


 その髪、その瞳は――。


 ソルが口を開いた。



「親父……」



 ――白髪が混じるが紅い髪、碧の眼をしていたのだった。






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