第93話 別れと再開
ノワが亡くなってから、数日が経っていた。
ティエラ達は、アウェスの街から東の方角にあるボヌスの都に来ていた。
ボヌスの都は、玉の一族の分家であるセリニの父が統治している都だ。そして、偽の神器の研究が再開された施設がある場所でもある。
研究者であるルーナと出くわす危険性が高い場所だと言える。
なぜ、ティエラ達がそこに来たのかと言えばーー。
宰相ノワが息絶えた日の事を、彼女は思い出しはじめた。
※※※
「石を壊したのに、どうして……?」
偽の神器――玉は壊れていたにも関わらず、ノワは微動だにしなくなった。
絶命した彼を見て、ティエラは悲痛な声を上げる。
(少しだけノワ様の事を思い出したのに……)
ルーナと婚約した頃の記憶は曖昧なままではある彼女だが、恐らくはその婚約前後の頃のノワのことが脳裏に浮かんだ。
ティエラの記憶の中では、ノワはとても勤勉そうな男性だった。記憶と先程までの彼では、印象が別人のように違う。
ノワのそばにいたセリニは、眉根を寄せた。セリニはノワの近くに落ちていた玉の欠片を拾い上げる。
「私が作っていた時は、壊せば、もう力はなかった」
「じゃあ、ルーナのやつが何かしたのか?」
紅い髪の護衛騎士ソルが、銀の魔術師セリニに尋ねた。
「……壊れても、命を吸うように改良していたのだろう」
明確な答えはなかった。
だが、セリニの反応は、ルーナが玉を作り直した事を暗示している――。
「どうして、ルーナはこんな……」
ティエラの問いに答える者はなかった。
セリニは、欠片を自身の懐にしまう。そうして、見開いたままのノワの瞼をそっと閉じた。
「ノワ。お前が、自分の良きところに目を向けていたならば……魔力など関係なく、良い宰相になれていただろうに……」
セリニがそう言ってからどれぐらい経っただろうか――。
全員がその場から動けずにいた。
しばらくすると、雲がかかり、雨が降り始める。
そして、雨と共に別の音が聴こえた。
――馬の蹄と嘶く声。
ソルが一番最初に動いた。
皆がたたずむ場に、第三者の低い声が響く。
「間に合わなかったようだな」
声の主は、馬に騎乗した男だった。
壮年と思しき彼は、鍛えぬいた長身痩躯の身体に、騎士団の服を身に纏っている。
雨と逆行で、ティエラには彼の顔がよく見えない。だが、なんとなく聞き覚えがあった。彼女は目を凝らす。
その髪、その瞳は――。
ソルが口を開いた。
「親父……」
――白髪が混じるが紅い髪、碧の眼をしていたのだった。




