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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第4部 竜の章

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月が昇る時




 黒髪をポニーテールにしたメイド・ヘンゼルが、王女ティエラの部屋を開ける。

 そこには、夕陽に照らされた宰相補佐ルーナの姿があった。

 彼の白金色の髪と蒼い瞳が、橙色に輝らされている。

 数日前に仕上がった真っ白なドレスの前に、ルーナは立っていた。純白に煌めくドレスは、ティエラが婚礼の儀の際に着用予定のものである。


「ルーナ様、今日もこちらにいらしたのですか?」


 不躾かとは思ったようだが、ヘンゼルはルーナに声を掛けた。

 彼女の声掛けには振り返らずに、ルーナは一心にドレスを眺めている。


「ノワ様がお亡くなりになったようです」


「そうか、義兄上が……」


 ルーナからは特に何の感情も伺えない。


「これで、ルーナ様が宰相の位を得ることになりますね」


 ヘンゼルは、ルーナの背中に向かって低頭する。

 彼は白いドレスに手を伸ばしながら、彼女に返答した。


「姫様との婚礼の儀の前に、一度国民達に、私の宰相就任について知らせないといけないだろうな」


 ヘンゼルは頭を上げ、ルーナに視線を向ける。

 ドレスの胸元についた薔薇のコサージュを、ルーナは愛おしそうに撫でていた。


「しばらくは城が混乱するだろう。姫様は城にいない方が安全だろうな……ただ、一目、ご無事を確認したい……」


 そう言って振り返ったルーナの口許は、少しだけ笑んでいた。だが、蒼い瞳は笑っていない。

 ヘンゼルの前を通り、彼はティエラ姫の部屋を退室した。ルーナの後に、ヘンゼルは続く。彼女はルーナが何を考えているのか戸惑いながら彼の背を追った。

 部屋の外に出て、後ろに続く部下を振り返ると、彼は声をかけた。


「ヘンゼル、今日は部屋に来ないでくれ」


 ルーナの命に、一瞬だけヘンゼルの顔が強ばる。彼は彼女の表情の変化に気づいてはいたが、さして気にした様子はなかった。

 前方に向きなおると、ルーナは考えこんだ。


(姫様……)


 婚約者である少女の憂い顔を思い出す。

 いつも彼女の横に立つ紅い髪の護衛騎士の姿も――。


「中途半端な真似が一番困るのだがな……」


 そうして彼は、自身の役割を全うするために、心を凍らせながら進むのだった。







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