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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第91話 石の暴走




「ノワの……石の力が暴走しているだと!?」


 ティエラの近くにいたセリニが、声を荒げる。

 銀色の髪を持つ彼は淡々と話す印象が強かった。そのため、ティエラは驚いてしまう。


「グレーテル、場所はどこだ?」


 セリニの代わりに、紅い髪の護衛騎士ソルが冷静に尋ねる。

 黒髪ツインテールのメイド・グレーテルは、いつもの調子で答える。


「アウェスの街からエスパシオの街を結ぶ街道みたいです~~」


 糸目の男アルクダが、話を続けた。


「ちょうど、ノワ様付きの、顔見知りの騎士に出くわしましてね。怪我なんかが酷かったので、どうしたのか話を聞きまして」


 ソルがため息をつき、アルクダに注意を促した。


「一応、俺達は追われてる身だ。顔見知りだからって、誰かと話すのには気を付けろ」


「はーーい、ソル様」


 アルクダが気のない返事をする。

 彼が本当に反省しているかは、ティエラには分からなかった。


「どうする、セリニ? ノワのところには行きたいが……俺はティエラからは離れられない」


「そうだろうな。剣の。お前は姫に付いておけ。私は、付き人二人を借りようか」


 ソルとセリニが相談し始める。

 グレーテルとアルクダから聞いた話によれば、街道沿いに騎士達が倒れて動けなくなっているらしい。

 アウェスの街は、昨日火災にあったばかりだ。まだ、どこかに救援を送るのは難しいだろう。

 エスパシオの街や都からも、それなりに距離がある位置である。

 ティエラは、隣にいるソルの袖を引っ張った。


「ソル、私達もセリニさん達と一緒に行かない?」


 ソルは、眉根を寄せる。


「あんた、昨日倒れたばっかりだろ。居場所もばれるかもしれない」


「私はだいぶ元気になったし……なにより、自分の国の民が困ってるのに、放ってはおけない」


 ソルが、今日何度目かのため息をつく。


「……無茶はするな」


 ティエラは、ソルの返事に目を輝かせた。


「また、仕事が増えますね……」


 アルクダは困った様子で呟いていた。




※※※




 アウェスの街からエスパシオの街へとつながる道。


 そこを街道沿いに進むと、情報通り、騎士達が倒れていた。

 最初はまばらに倒れていたのだが、どんどん数が増えていく。


(宰相ノワの居る場所が近い……)


 幸か不幸か、アウェスの街からそこまで離れた距離ではなかった。


 ティエラは全ての人々に、癒しの魔術をかけたい気持ちはあった。だが、急がないと、ノワがさらに犠牲者を増やしてしまう恐れがある。

 そのため、彼女は重傷者に限定して魔術をかけていった。

 時折、騎士や魔術師らとすれ違う。彼等は、ティエラを遠巻きにみて、ひそひそと話をしていた。


(姫だと気づかれたかもしれない……)


 ティエラ以外の四人に関しても同様だ。

 一応、ばれないように外套やローブを皆着ていたのだが……。


「まあ、魔術師によっては、我々が魔術を使えば、どうしてもそれに気付く者が出てくる。なあ、剣の」


 セリニはティエラに説明してくれた後、ソルに話を振る。


「ああ、気付くやつは気付くな。仕方ない」


 セリニは、ティエラとソルの魔術の師と言っていた。

 けれども、ソルとセリニは対立する一族同士だ。だが、特に諍いは起きていない。

 ティエラは、少しだけ疑問に感じていた。


「ソルとセリニさんは、仲は悪くないの?」


 思いきって尋ねると、二人は面食らったような表情をしていた。

 セリニは、ティエラに微笑を浮かべる。


「私は研究ばかりで、一族同士の争いの渦中にはいなかったので。それに、子どものこれに、魔術を教えたのは私だからな」


「ああ、おかげ様で、魔術と古典は苦手になったな」


 ソルの発言を、セリニは鼻で笑った。

 一族間が争っていると言っても、個人個人での関係性は違うようだ。


(セリニさんについても、少しだけでも記憶が戻れば良いのに……)


 ティエラは、セリニの事はまだ思い出せていない。

 少しだけそれがもどかしかった。




※※※




 次第に、何かが破裂する音や、人の悲鳴などが聞こえるようになってきた。

 ティエラは、ソルから抱き寄せられる。


「近いな」


「ああ、剣の。お前は姫様を守っておけ。神器の力が必要な時に頼む」


 セリニの赤い瞳に、光が宿る。




 ――目的の人物、宰相ノワはすぐそばまで迫っていたのだった。






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