第91話 石の暴走
「ノワの……石の力が暴走しているだと!?」
ティエラの近くにいたセリニが、声を荒げる。
銀色の髪を持つ彼は淡々と話す印象が強かった。そのため、ティエラは驚いてしまう。
「グレーテル、場所はどこだ?」
セリニの代わりに、紅い髪の護衛騎士ソルが冷静に尋ねる。
黒髪ツインテールのメイド・グレーテルは、いつもの調子で答える。
「アウェスの街からエスパシオの街を結ぶ街道みたいです~~」
糸目の男アルクダが、話を続けた。
「ちょうど、ノワ様付きの、顔見知りの騎士に出くわしましてね。怪我なんかが酷かったので、どうしたのか話を聞きまして」
ソルがため息をつき、アルクダに注意を促した。
「一応、俺達は追われてる身だ。顔見知りだからって、誰かと話すのには気を付けろ」
「はーーい、ソル様」
アルクダが気のない返事をする。
彼が本当に反省しているかは、ティエラには分からなかった。
「どうする、セリニ? ノワのところには行きたいが……俺はティエラからは離れられない」
「そうだろうな。剣の。お前は姫に付いておけ。私は、付き人二人を借りようか」
ソルとセリニが相談し始める。
グレーテルとアルクダから聞いた話によれば、街道沿いに騎士達が倒れて動けなくなっているらしい。
アウェスの街は、昨日火災にあったばかりだ。まだ、どこかに救援を送るのは難しいだろう。
エスパシオの街や都からも、それなりに距離がある位置である。
ティエラは、隣にいるソルの袖を引っ張った。
「ソル、私達もセリニさん達と一緒に行かない?」
ソルは、眉根を寄せる。
「あんた、昨日倒れたばっかりだろ。居場所もばれるかもしれない」
「私はだいぶ元気になったし……なにより、自分の国の民が困ってるのに、放ってはおけない」
ソルが、今日何度目かのため息をつく。
「……無茶はするな」
ティエラは、ソルの返事に目を輝かせた。
「また、仕事が増えますね……」
アルクダは困った様子で呟いていた。
※※※
アウェスの街からエスパシオの街へとつながる道。
そこを街道沿いに進むと、情報通り、騎士達が倒れていた。
最初はまばらに倒れていたのだが、どんどん数が増えていく。
(宰相ノワの居る場所が近い……)
幸か不幸か、アウェスの街からそこまで離れた距離ではなかった。
ティエラは全ての人々に、癒しの魔術をかけたい気持ちはあった。だが、急がないと、ノワがさらに犠牲者を増やしてしまう恐れがある。
そのため、彼女は重傷者に限定して魔術をかけていった。
時折、騎士や魔術師らとすれ違う。彼等は、ティエラを遠巻きにみて、ひそひそと話をしていた。
(姫だと気づかれたかもしれない……)
ティエラ以外の四人に関しても同様だ。
一応、ばれないように外套やローブを皆着ていたのだが……。
「まあ、魔術師によっては、我々が魔術を使えば、どうしてもそれに気付く者が出てくる。なあ、剣の」
セリニはティエラに説明してくれた後、ソルに話を振る。
「ああ、気付くやつは気付くな。仕方ない」
セリニは、ティエラとソルの魔術の師と言っていた。
けれども、ソルとセリニは対立する一族同士だ。だが、特に諍いは起きていない。
ティエラは、少しだけ疑問に感じていた。
「ソルとセリニさんは、仲は悪くないの?」
思いきって尋ねると、二人は面食らったような表情をしていた。
セリニは、ティエラに微笑を浮かべる。
「私は研究ばかりで、一族同士の争いの渦中にはいなかったので。それに、子どものこれに、魔術を教えたのは私だからな」
「ああ、おかげ様で、魔術と古典は苦手になったな」
ソルの発言を、セリニは鼻で笑った。
一族間が争っていると言っても、個人個人での関係性は違うようだ。
(セリニさんについても、少しだけでも記憶が戻れば良いのに……)
ティエラは、セリニの事はまだ思い出せていない。
少しだけそれがもどかしかった。
※※※
次第に、何かが破裂する音や、人の悲鳴などが聞こえるようになってきた。
ティエラは、ソルから抱き寄せられる。
「近いな」
「ああ、剣の。お前は姫様を守っておけ。神器の力が必要な時に頼む」
セリニの赤い瞳に、光が宿る。
――目的の人物、宰相ノワはすぐそばまで迫っていたのだった。
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