半月は想う
セリニの回想になります。
こちらはとばしていただいても、本編には差し支えはないかと思います♪
「じゃあ、あの絵って?」
ティエラ姫に問われ、銀の魔術師セリニは答えた。
「玉の一族である私、ノワ、それにルーナだ。従兄弟が揃った時に描いてもらった作品だ」
セリニは過去を思い出していた。
※※※
ノワ・セレーネ。
ルーナ・セレーネ。
どちらも、セリニ・セレーネの従兄弟だ。
生まれた順は、セリニ、ノワ、ルーナの順だった。
玉の一族は、宝玉を守護する一族である。
玉の一族であるセレーネ家には、本家以外に、分家が二つ存在する。
本家にはノワが、分家にはそれぞれセリニとルーナが一人ずつ生まれた。
「セリニ兄さん、僕はどれだけ勉強しても魔術が使えないんだ」
ノワは、本家に生まれ、玉の守護者になる使命があった。
だが、ノワには魔力がほとんどなく、魔術の才能がなかった。
セリニ自身は、宝玉の加護を受け、非常に高い魔力を持っている。
魔術というのは、そもそも生まれもった魔力の高さが影響してくる。その後、理論を学ぶことで行使ができる。
ノワは、魔術理論をいつも学習していたが、魔力がないから意味がなかった。それでも、もしかしたらある日、神器の加護があるかもしれない。そうやって日々、愚直に頑張っていた。
「ノワ、お前に魔力はないが、諦めずに取り組めるところが才能だ」
セリニが、ノワにそう伝えたことがある。
ノワは顔をくしゃくしゃに歪めた。そして寂しげに「そうでしょうか」と呟いていた。
※※※
一方、もう一人の従兄弟ルーナ・セレーネ。
彼は、魔力に満ち溢れ、さらに魔術理論もなんなく理解できる才能を持って産まれた。
月の化身と言われている、初代・玉の守護者の生まれ変わりとも評された。
実際は生まれ変わりではない。いわゆる先祖返りだろうと、セリニが師事する大公プラティエス様が仰っていた。
ルーナは才能には恵まれたが、愛情には恵まれることがなかった。
大人達にいつも利用されていた。
セリニはルーナと時折会話を交わすことがあったが、いつも見えない壁があるように感じていた。
セリニ自身も、ルーナが哀れで、かける言葉を見つけることが出来はしなかった。
※※※
次第に、ノワはルーナと比較されるようになっていった。セリニが比較されなかったのは、年長者だったのもあるかもしれない。
あまりにも、年下であるルーナの才能が秀ですぎていたのだ。
ノワは、頑張っても、頑張っても認められなかった。
彼の母親までも、ルーナに傾倒していた。
セリニはノワを心配し、声をかけた事がある。
「ノワ、大丈夫か?」
「セリニ兄さん、僕は大丈夫だよ」
今思えば、ノワは全く大丈夫ではなかった。彼なりに自分を守っていたのだ。
※※※
最後に会った時、セリニはノワからこう言われた。
「セリニ兄さんには、僕の気持ちなんか分からない」
ノワは、セリニを次第に避けるようになっていった。
セリニは、ルーナには劣るが、宝玉の加護を受け、高い魔力と才能を持って産まれている。一応、国ではルーナの次に強い魔術師とされる。世間にもそれなりに有名だった。
長じるに連れ、そんなセリニと一緒にいるのも、ノワにとっては苦痛だったのかもしれない。
セリニは、ノワに対し、それ以上介入出来なくなった。
時折、ノワが女と酒に溺れている話を耳にするようになっていった。
セリニは、誰よりも努力が出来るノワの才能が枯れていくのが悲しかった。
※※※
「この中では、私が一番年長者でな……」
お飾り宰相として有名になってしまったノワ。
理由が分からないが、国王暗殺に手を染めてしまったルーナ。
年長者だったが、セリニは二人に何もしてやれなかった事を悔いている。
今からでも遅くないだろうかーー?
二人から逃げてきた自分に――ただ傍観していた自分に――。
セリニはそう問いかけたのだった。




