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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第8話 月は甘く囁く

5/31文章の見直しをしました。

6/10再度見直し。




 部屋に入ってきたルーナが、ティエラのそばに歩み寄ってきた。ドレス姿の彼女は横向きにされ、彼に抱き上げられてしまう。


 細身のルーナだが、みかけによらず腕力がある。女性のように綺麗な顔をしているが、ルーナはやはり男性だと思い知らされる。


 彼に持ち上げられたティエラの鼓動は、どんどん速くなっていった。


「私が選んだドレスをお召しになってくださっているのですね。見立てた通り、とても似合っています」


 ルーナが嬉しそうに目をすがめ、ティエラに話しかけてくる。

 彼の顔は、彼女のほんの目と鼻の先にある。


(やっぱり、いつも顔が近いような……)


 ティエラの気恥ずかしさが増していく。

 

「貴女以上に可愛らしい女性を、私は見たことがありません」


 ルーナにそう言われ、ティエラの顔はまた真っ赤になった。

 息を吐くように、こういう恥ずかしくなる台詞を、彼は彼女に投げ掛けてくる。

 慣れないティエラには、やはり刺激が強すぎて苦しくなった。


「さ、さすがにそれは言い過ぎではないでしょうか? 私よりも可愛らしい女性は世の中にたくさんいると思うのですが……。その、ルーナは他の女性に言い寄られることも多そうですし……」


 ティエラがルーナの腕の中で縮こまりながら、そう訴えた。


「他の……女性、ですか?」


 不思議そうな表情をしたルーナが、ティエラを覗きこんでいる。

 少しだけ間があった後、彼は彼女に話し始めた。


「確かに、見目が麗しい女性は数多くおりますね」


 ルーナがそう言うので、ティエラはどきりとする。


(やっぱり、ルーナは女性に言い寄られることが多いのかしら?)


 女性に囲まれているルーナを想像してしまい、ティエラはしゅんとなってしまった。

 少しだけ寂しそうな声音の彼から、彼女は声をかけられる。

 

「幼い頃から、貴女はそのようなことばかり気にされていた」


 そう言われたティエラは、はっとしてルーナの顔を見る。今まで、彼女の過去の話をほとんどしなかった彼。彼の口から、彼女の話題が出てきた。


(記憶を失くす前の私も、今の私と同じような事を考えていたの?)


 ルーナが話を続ける。



「女性は星の数ほどいる。ですが、私が可愛らしいと思い、こうして抱いたままいたいと思うのは――」



 ルーナの蒼い瞳は真剣だ。

 ティエラは彼の視線から目をそらせない。



「――姫様だけです」



 彼女は息を呑んだ。

 ティエラの頬に、ルーナが頬をすり寄らせる。彼の絹のように滑らかな白金色の髪が、彼女の頬をくすぐる。

 触れ合う頬から、彼の熱が伝わる。


「ルーナ……」


 ティエラの心臓の音がうるさくて仕方がなかった。

 ルーナの熱が、ティエラの肌から離れた。


 彼女が少し寂しく思っていると――。 


 ふいに、ティエラの唇にルーナの唇が触れてきた。


 すぐに彼の唇が離れる。


 一瞬だけの軽い口づけ――。


 ティエラの心臓は、激しく脈を打ち始める。


 しばらく静寂に包まれていたが、それを破ったのはルーナだった。


「申し訳ございません。あまりに可愛らしかったので、つい……」


 ルーナは涼しげな表情を崩さない。


「これまでも我慢してきたから待てると、姫様に嘘をついたことになりました」


 神妙な顔をしてルーナに言われてしまい、ティエラは恥ずかしさが増してくる。


「そ、その! 元々婚約していたんですよね……。だから、その、あまり気になさらず……」


 ティエラにはそう返すことしか出来なかった。


 ルーナはこれまでも我慢してきたと言っていた。だから、記憶を失う前の二人は清い関係だと、ティエラは思っていた。


 けれども、涼しげなルーナを見ていると悩んでしまう。



(普段から、口づけをかわすような間柄だったの?)


(それとも、もっと深い関係だったの?)


(ルーナが女性慣れしているだけ?)



 考え込んでいるティエラに向かって、ルーナが話しかける。


「そういえば姫様、本題が遅くなってしまいました」


「本題……?」


 ティエラを横抱きにしたまま、ルーナが真剣な声音で語りかけてきた。


「――姫様の女王即位の儀の日取りが、決定致しました」


 そう言われて、ティエラはルーナの顔を見上げる。

 先程までの身体の火照りは、少しだけだが引いていった。


「……その、いつになるのでしょうか?」


 ティエラの問いに、ルーナが涼やかに答えた。


「姫様の成人の日――十七の誕生日となります」

 



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