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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第88話 隠された洞窟




「大公様の石についてだ」




 セリニ・セレーネは、ティエラ達にだけ聞こえるように伝えた。

 ティエラは、玉の一族である彼に着いていっても良いものか逡巡する。

 悩んでいると、彼女は視線に気づく。

 街の入り口付近にいる騎士や、街の人々から、自分たちはじろじろと見られていたのだ。


(目立ってしまっている……)


 ノワとソルとの戦闘や、セリニの派手な登場。

 しかも、ソルの紅い髪に、セリニの銀の髪。

 紅い髪は剣の一族、銀の髪は玉の一族の象徴だ。


(確かに一族以外にも、紅や銀の髪の持ち主はいるけれど……二人が揃うと、関連付けてくる人達がいてもおかしくない……)


 とにかく、一向は目立っていた。


「悪いようにはせん」


 セリニに念押しされる。

 ティエラ、ソル、グレーテルの三人は、セリニについていく事にした。




※※※




 セリニに着いていく途中――。


 蔵書が多かったことも原因だろう。道沿いに並んでいた家々は、ほとんど燃え尽きていた。煤が時折舞い、煙が消えた後の臭いがする。瓦礫が崩れる音も、時折遠くから聞こえてきた。


 重苦しい表情で歩く人々や、夥しい数の傷病人達が地面に横たわっている。

 街の守りのために存在している騎士達は、傷病者を運んでいた。

 魔術師らは、怪我人らに癒しの魔術をかけたりしている。

 街の人達も、動ける者達は誰かの助けをしたりしていた。


「私達も、手伝わなくて良いの?」


 ティエラが、セリニに尋ねた。


「有事の際の初期対応については、常駐の騎士や魔術師らに、常々言い付けてある。それに、我々が外にいた方が目立つ。却って救助の邪魔だ」


 後ろ髪をひかれるような想いをしながら、ティエラはセリニの後を着いていった。




※※※




「研究施設跡の近くに、こんなとこがあるんですね」


 途中で合流したアルクダが、感嘆の声をあげている。


 研究施設跡は、ノワによって燃やし尽くされていた。


 施設跡の入口付近で、セリニが魔術陣を展開する。すると、隠されていた入り口が現れた。入口は洞窟に続いており、そのまま進むと、開けた空間に着いた。

 ぼんやりと灯りに照らされたその場所は、様々な蔵書や実験器具達で埋め尽くされている。


「まあ、適当に座ってほしい」


 セリニに促された。ティエラ達は、各々で椅子を探しだし、それぞれに落ち着く。

 ティエラは、セリニを観察した。

(少年から青年の間ぐらいの年頃に見える)


 セリニは、銀色の髪に紅い眼を持っている。

 先程歩いていた時に気づいたのだが、身長はそこまで高くなく、ティエラ位の高さだった。身にまとう雰囲気で、もっと大きいと錯覚していた。


 セリニは、ティエラに向き直り声をかけてくる。


「姫様、お忘れかもしれないが、私はセリニ・セレーネと言う」


 ティエラはどきりとする。


(セリニさんは、私の記憶がないことに気づいている……)


 セリニはティエラの視線に気づいたようだ。


「貴女様には、『あれ』の魔力の残滓がある」


 そう言われ、ティエラは驚く。

 ソルが補足した。


「セリニは一応、国ではルーナの次に強い魔術師だと言われている人物だ」


 そうして、ソルはセリニに向き直る。


「さっき雨が降りだしたが、あれはあんたの仕業だろう?」


 セリニが鼻を鳴らして言う。


「一応は余計だ、剣の。火が拡大しては困るからな」


「相変わらず化け物ですね……」


 アルクダの呟きに、セリニが答えた。


「『あれ』ほどではないがな」


 そう言って、セリニはティエラに話しかけなおす。


「それで……姫様達は、シルワ姫達のように城から逃げ出したのか? 剣の……こやつが一方的に好いとるのは知っていたが、姫様もとは知らなかった」


「――セリニさん、そんなんじゃないんです!」


 ティエラが顔を赤くして否定する。

 セリニは少しだけ笑んだ後、ソルの方に視線を向ける。


「剣の、意外とやるな。『あれ』を出し抜くとは」


「出し抜けてはない。たまたまなんだ」


 セリニが『あれ』と呼んでいるのは、ルーナの事だろう。

 ソルが、自分達が置かれている状況を、ティエラに代わり説明してくれていた。


 なんだか、彼らの会話が、遠くから聞こえているような感覚になる。


(あれ――?)


 ティエラは、視界がぼんやりしてきた事に気付いた。


(身体に力が入らない)


 ティエラの身体が、椅子の上でぐらつく。


「大丈夫か?!」


 ティエラの身体を、誰かが支える。


 恐らくソルだ。


 そう考えた後――。


 ――ティエラは意識を失った。





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