第86話 神剣と偽の宝玉
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「なんであのバカが、ここにいんだよ」
宰相ノワ・セレーネの姿を確認し、紅い髪の騎士ソルが毒づいた。
肩に抱えていたティエラを、ソルはゆっくりと地面に降ろす。
「あれ~~? ノワ様、魔術使ってませんか~~? ねえ、ソル様?」
黒髪ツインテールのメイド・グレーテルが、ソルに問いかける。
「例の石だな」
そう言うや否や――。
「グレーテル! ティエラは任せた!」
――ソルがノワの方へ駆け出した。
門の前。
ノワが手当たり次第に、人々に対して魔術を放っている。
術は、塔の上でルーナが使っていた雷の魔術に似ていた。
ソルが離れた後、ティエラは近くで倒れている人達の元へ向かうと、癒しの魔術を行使しはじめる。
遠くで閃光が走る。
ティエラの身体がぶるりと震えた。
(雷が怖い……でも、今はそんなことを言っている場合じゃない)
自身を奮い立たせながら、ティエラは負傷者に手をかざす。
まだ簡単な術しか取り戻せていないが、ほんの少しでも誰かの役に立てればと思い、彼女は術を発動し続けた。
怪我人達は、少しだけ痛みが和らいだのか笑顔になっていく。
癒しの魔術は、本人の回復力を促進するだけだ。促した後は、本人の体力に任せるしかない。
(よし、この人はもう大丈夫――! 次――!)
すぐに次の怪我人の元へと、ティエラは駆け出した。
※※※
一方、ソルはノワに対峙していた。
鈍い銀の髪を持つ青年ノワは、ソルを見つけて高らかに笑う。
「ちょうど良いところに来たな、赤毛! ティエラ姫も一緒みたいだな!」
ソルはノワを睨んだ。
ノワ放った光の魔術をソルは神剣ではじく。
光は地面に消える。
帯剣していたレイピアを、ノワはすらりと抜いた。
「ノワ! お前は一応、この国の宰相だろうが!? 民を守らずに、何をやっている!?」
「僕の国の民だからこそさ! 今まで僕を馬鹿にしてきたから、その報いを受けてもらうんだ!」
ソルが駆け、ノワに剣を振りかぶる。
「効かないな、赤毛……!」
光が弾ける。
ノワが魔術を連続で発動した。
ソルの剣は、なかなかノワ本人には届かずに、光を弾き続けた。
「神剣と言ってもそんなものか!?」
街の上では雷鳴が轟き、雨がざあざあと降り始める。
雨粒はソルとノワを濡らしていった。
斬激の音は、雨の音に消えて行く。
「悪いことは言わない! ノワ! その石だけは使うな!」
「はぁっ!? やっとで魔術が使えるようになったのに! やめるわけないだろぉっ!?」
ソルの忠告に、ノワは耳を貸さなかった。
魔術を繰り出しながら、ノワがソルに剣を打ち付ける。
「お前は! 自分が神器に選ばれたからって! 偉そうにするなぁぁっ!」
ソルが、ノワの剣を受ける。
ノワの攻撃の中で一番重い。
ソルの神剣を持つ手が痺れた。
「ちっ――!」
ソルが、剣の柄を握りなおした、その時――。
「――――やめよ!!!」
若い男の怒鳴り声が聞こえる。
同時に――。
轟音と共に地面が割けた。
ソルは体勢を整え、地割れを避ける。
一方ノワは、そのまま亀裂に飲み込まれてしまったのだった――。
※※※
ティエラはソル達の様子を確認しながら、傷病者の手当てをしていた。
突然聞こえた男の声と、地面の割れる音。
それらに驚き、彼女は声の主の方へと振り向いた。
そこには、先程すれ違った古書屋の男が立っていた。
男の髪色は、ルーナと同じ白金色。
夜闇の中――。
月に照らされた男の髪は、銀に輝いていた。




