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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第84話 記憶を失わせた者2

おはようございます♪

いつも皆様には感謝しきりです♪

最近は寒い日が続いておりますが、体調にはぜひおきをつけてお過ごしください♪



(私が城に帰ったら……またルーナに記憶を封印されるかもしれない……?)


 ティエラは困惑していた。


(じゃあ、私に記憶がないのは……)


 紅髪の護衛騎士ソルがため息をつく。

 糸目の男アルクダの代わりに、ソルはティエラに告げた。


「あんたには、ルーナの魔力と玉の神器の力が残ってる。さすがに居場所が分かる程の量ではないがな」


 ティエラは戸惑う。


「ルーナが……? なんで私の記憶を……?」


「理由はルーナしか知らない」


 真剣な眼差しをティエラへとソルが向けた。


「この国――いや、この世界で、記憶を封印する芸当なんざ、そもそもあいつ位にしか出来ない」


 ティエラの心は揺れる。

 「ティエラの事を好きだという嘘を、わざわざルーナはつかない」と、三人から言われはした。


 だが、彼の言うことに、一つでも嘘があるのなら――。


(そんな……ルーナ……)


 ――記憶を失ってからの何もかも全てが、嘘だったのではないかと思えてくる。


 ルーナはティエラのことを好きに見えるように、周囲には振る舞っていただけなのではないか。


(なんだかよく分からなくなってきた……)


 疑いだすと、止まらなくなる。

 彼に騙されていたのだと思うと悲しい。


(でも、ルーナではなくソルのことを好きだった私には……ルーナのことをとやかくいう必要は……)

 

 だけど、なぜだろう。

 ティエラから涙が溢れてくる。

 その場にいる三人に見られたくなくて、「ちょっと外に出てくる」と言い残し、ティエラは外に飛び出した。


「ティエラ!待て……!」


 ソルがティエラの後を追った。




※※※




 ティエラは、宿の裏にある池の方へと走った。

 外はもう暗くなっており、人はおらず、ひっそりとしていた。


「ティエラ……!」


 彼女の腕はソルに掴まれ引き止められる。

 彼に背を向け、ティエラは俯いたままだ。


「あんたに黙ってたのは悪かった」


 ソルがティエラに声をかける。

 彼女から反応はない。


「すまない」


 しばらく、どちらも口にしない。

 虫の声が聞こえる。

 池に月がゆらゆらと揺れている。

 水に浮かぶ睡蓮の香りが鼻をくすぐった。


「……私、もうよく分からないの……」


「分からない?」


 ソルに問われ、ティエラはこくりと頷いた。


「実は、ルーナの記憶だけあまり戻ってなくて……」


 ソルは黙って、彼女の話に耳を傾けている。


「記憶を封印してきたのがルーナなら、私に何か思い出されたら困るから……だから、彼は私の記憶を奪ったのよ……」


 池に、悲痛な声が反響する。

 ティエラは思い返す。


 ソルに口付けられると、ティエラの記憶が戻る。


 それでは、ルーナの場合は――。


「毎日部屋に来てたのも、私が記憶を戻さないようにしてたのかな……」


 ティエラの黄金の瞳から涙がこぼれる。


 ルーナはティエラに、毎夜甘い言葉を囁いてきた。

 その時、彼が彼女に口付けていた理由。


 それは――ティエラが記憶を取り戻さないようにしていたからだろう。


「国王様が亡くなる少し前、あんたはよく言っていた。『このまま時間が止まってほしい』、『やり直せるなら』と……」


 ティエラは顔を上げた。


「ルーナは、あんたの願いならなんでも叶えようとする。どうしてあんなに人に関心のない男が、お前にだけ執着するようになったのかなんて、理由は俺には分からない……だが、記憶に関しては、国王殺害直前のやり取りで何かあったんだと思う」


 背中越しに聞くソルの声音は、ひどく優しく感じる。


「それだって、ソルがルーナの事をそう思ってるだけかもしれない……」


 せっかくのソルの優しさに、意地の悪い返答をしてしまった。


(ダメだわ……私……)


 またティエラの瞳から涙が溢れる。

 ルーナに騙されていたのかもしれない。

 もちろんそれも気になっている。

 ただ、それと同時に、彼女の胸に重たい別の何かがある。


 二月の間、記憶を失っていたとは言え、ティエラはルーナに心を許し、惹かれてしまった。

 記憶を封印するためとは知らず、口付けも何度も交わしている。


(ソルもそれには気づいている)


 ルーナに騙されていたのかもしれない。

 だが、忘れていたとは言え、自分が選んだ行為だ。


 ソルへの想いを取り戻す度に、知らなかったとは言え、自分に対しての嫌悪感がどんどん募っていっていた。

 なぜこんなに好きな人がいたのに、それを忘れて、ソルを裏切るような真似をしたのかと。


 そもそも、婚約者だったルーナに対しての申し訳なさもある。


 とにかく心がぐちゃぐちゃだった。


 突然、ソルからティエラは腕をひかれる。

 気付けば、彼女は彼の腕の中にいた。


「俺は、あんたがどんなことになっても、そばにいたい。ルーナを好きな気持ちが残ったままでも構わない」


 そう言われて、ティエラの瞳からはますます涙が溢れて止まらなくなった。


「ソル――」


(私は……こんなにも大事なこの人がいるのに……なのに、私は――)


 しばらくソルニ抱き締められていたら、ティエラは少しだけ落ち着いてきた。

 少し彼から彼女が身体を離すと、頭を軽く撫でられる。


「ソル――私――」


 その時――。



 ――突然、二人の耳に大きな警鐘の音が鳴り響いた。


「何……!?」


 激しい鐘の音は鳴り止まない。


 少しだけ、何かの焦げる匂いがする。


「行くぞ!」


 ティエラはソルに手を引かれ、そのまま池を後にした。


 池の上では、月がまだ、朧気に揺れていた。




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