第83話 記憶を失わせた者1
四人はひとまず宿屋へ向かい、部屋を借りて休んだ。
ソルは指に顎を当てて、考え事をしていた。
先程本屋にいた魔術師が話していた噂について、グレーテルが切り出す。
「城では、姫様の即位の準備が進んでるみたいですね~~鏡の一族の男子は絶滅してるみたいですし、ティエラ様が次期女王なのは今のとこ確定ですもんね」
「グレーテルさん、絶滅って、もうちょっと言い方が……」
アルクダがグレーテルを諭す。
彼女は続けた。
「でも~~剣の一族が、鏡の一族の男子がいるかどうか探してるとか、そんな話じゃなかったですか~~? 遠縁でいいからって。女性が今まで王位に着いたことがない、災いが起きる~~とかなんとか」
それに、ソルが答えた。
「まあ、一応はな。玉の一族だけが発言権が強いのを嫌ったからってのもある。実際にいないか、色々と当たってみたが、そう言った人物はいなかったみたいだ」
ソルはそう言って、また考え事に戻る。
(鏡の一族の男子が見つかっていたら、もしかしたら私はソルと……)
ティエラはそこまで考えたが、それから先は考えるのをやめた。
「ルーナ様は国王様を殺してるわけですよね~~でしたら、ルーナ様はソル様のせいにしたいんですか? だから、今はソル様を捕まえたいってことですか~~?」
グレーテルの質問に、ソルが答える。
「まあ、大体合ってるな」
「え~~? それって、ソル様と一緒の方が、姫様は危ないですよね~?」
グレーテルが、今気づいたように話す。
実際、今分かったのかもしれないが……。
「大丈夫よ、グレーテル。それは分かってて、貴女達と一緒にいるから」
ティエラがそう言うと、グレーテルは笑って返す。
アルクダが、ぼそりと言った。
「まあ、バレたら、姫様とルーナ様との婚約は破棄でしょうね……普通に考えたら。国王殺しは重罪ですよ」
「――だからこそだろ? そんな危険を負うまでもなく、ルーナは国王に近い位置にいたんだ。だから、他に絶対に何か理由があるとは思う。それもティエラに関することだ」
ソルが答えた。
彼はルーナの事を嫌ってはいる。
だが、それなりに、ソルはルーナのことを評価しているようだ。
「ソル様が、濡れ衣着せられるのは可哀想ですけど~~でも、国民は知らないんですよね? 最初にソル様連れて、逃げなかった方が良かったですかね~~? 姫様が安全なら、もう全部ルーナ様に任せて、いっそ捕まりませんか~~?」
グレーテルが提案してきた。
ティエラは、すぐに返す。
「ダメよ。私に関する何かが理由なんだとしても、お父様を殺す必要や、ソルに罪を着せる理由にはならないわ。それに、人の命を吸う石の事だって……」
あまり考えたくはないが、ティエラは続ける。
「ルーナだって、私の事を好きなふりをしているだけかもしれない」
「「「それはない」」」
ティエラ以外の三人が即答した。
彼女の目が丸く光る。
(三人とも口を揃えるとは、一体どういうことだろう)
「でも――」
糸目の男アルクダがぽつりと呟いた。
「帰ったら……またルーナ様に、ティエラ様の記憶を封印されちゃうかもしれませんもんね」
彼の言葉を聞いて、ティエラは困惑する。
(え……?)
「アルクダ!」
ソルが、アルクダを怒鳴りつけた。
アルクダは、「すみません!」とソルに謝っている。
「……どういうこと?」
ティエラが、アルクダに尋ねた。彼は何も答えてくれない。
彼女を見ながら、ソルは大きなため息をついたのだった。




