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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第82話 アウェスの街



 エスパシオの街を出て数日後、ティエラ達はアウェスの街に着いた。

 道中、アウェスの街に関する情報について、ティエラはソル達から教わっていた。

 亡くなった大公プラティエスが、元々研究施設を構えていた場所だったこともあり、以前は学術発展の場として有名だったそうだ。大公生存当時は、知識人達の交流により盛えた場所だったと――。

 現在、施設自体は別の都に移り、魔術師らの多くもそちらに引っ越したのだそうだ。そのため、以前よりアウェスの街の人口は減ってきている。

 だが、昔の名残で、大きな図書館や古書屋などが多く軒先に並んでおり、街は古紙の香りに包まれていた。


「姫様~~、本がいっぱいでしょう?」


「本当ね」


 グレーテルとティエラは、きゃっきゃっと喋りあっている。

 実は、グレーテルと出会った頃の事をティエラは思い出した。

 前後の出来事の記憶が抜け落ちてはいるのだが、グレーテルは大層喜んでくれている。


 ちなみに、心配していた街の入り口だが、偽造した通行証のおかげで、なんなく通る事が出来た。作成者は、糸目の男アルクダだそうだ。彼は文書偽造が得意らしい。

 旅のおかげか、グレーテルとアルクダの二人ともティエラは打ち解けてきていた。


 街では、商人達が本を売りさばいている。


「お嬢さんがた、古書を一冊どうだろう? 安くしておこう」


 ローブを着こんだ、いかにも魔術師と言った男性が、ティエラ達に声を掛けてきた。


(見た目は若そうだったが、わりと古風な口調ね)


 ティエラは、ソルをちらりと見上げた。


(追われている身の上だから、本を買っても良いものかしら――?)


 これ見よがしに、ソルはため息をついた。


「欲しいんなら一冊買って良いぞ」


 そう言われ、嬉しくなったティエラは本を選び始めた。

 書籍の大きさや厚さ、内容等は様々だ。

 悩んでいると、たまたま古典文学と思われる本に目が引き寄せられた。両手の平位の大きさで、深い青色の落ち着いた装丁をしている。


(この本……!)


 ティエラはその書籍を選び、ソルにねだった。

 グレーテルも便乗して絵本を選んでいた。彼女は難しい字が読めないらしく、簡単な本で良いのだそうだ。


「ソルとアルクダさんは?」


「俺は良い。頭が痛くなる」


 そう言えば、ソルは昔からそうだった。本を読んだりするのが苦手だ。昔は、そんなソルを見たルーナが、よく笑っていたような。あまり良い笑いではなかった気もする。


「僕は字が読めないので~~」


 アルクダはさらりと言った。

 字が読めないのは初耳だ。


「字が読めないんですか?」


「はい、習える環境で育たなかったんで」


 アルクダは、簡単な魔術を使える。どう覚えたのだろうか。しかも、文書偽造が得意ではなかったのか。


「あ、サインは出来ますし、見たままなにかを覚えたり、聞いたことはしっかり分かりますよ~~。そのまま書くのも得意です。だから、そんなに困ってません」


 アルクダがティエラに説明した。

 ひょいっと、グレーテルがティエラの方へと乗り出してきた。


「アルクダさんには、グレーテルが本を読んであげてるんですよ~~」


「そうなんですよ~~、昔から助かってます」


(グレーテルがアルクダさんに何かしてあげていたなんて…少し意外)


 以前、グレーテルがティエラに話してくれた時。彼女はアルクダの事を「仕事をしない、自分のために色々してくれるからまあ良い」と評価していたからだ。


(私が思うよりも、グレーテルとアルクダさんは仲が良いのかもしれない)



「お客様、そう言えばご存知ですか?」


 本を購入する際、ローブを着た商人から声をかけられた。


「国王様が急死されたそうな。葬儀が終わって、王女様の誕生日に女王の即位と、玉の守護者様とのご婚礼もあるという」


 たくさん話してくる男に、ティエラは曖昧に笑った。


 即位と婚礼までの期日は、もう二月は切っている。

 ティエラ達は、急いで真実にたどり着かないといけない。




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