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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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月に想いを馳せし者6※R15

いつもお読みいただき、ありがとうございます♪


作者の力量不足で6まであります。ごめんなさい……。


読者様によってはご不快な表現や、辛い記憶を想起させる内容となっておりますので、ご注意下さい。ご了承いただけるかただけ、お読みになってください。大変ご迷惑をおかけ致します。

この話を読めずとも、本編はお楽しみいただけます(^^)


 それからは、話が早かった。

 ヘンゼルとグレーテルの二人は、男爵家に養子に入ることになった。

 養父母達は少しだけ年を取っており、二人を子どもというより、孫のように可愛がってくれた。彼等は、自分達が娼館上がりだと言うことも知ってはいたが、それについてもあまり気にしてはなさそうだった。


(貴族の中にも、こういう人が居るのね)


 ここに来て、はや一月。ヘンゼルは、満ち足りていた。

 今までの自分の考えは偏っていたのかもしれない。

 グレーテルは少しだけ寂しそうにする事もあったが、概ね幸せそうにしていた。

 大金をはたいて、自分達を穏やかな生活へと導いてくれた青年。彼に、ヘンゼルは感謝の気持ちしかなかった。

 ただ、当の本人に感謝が出来ていなかったのが気になってはいる。




※※※




 数日後。

 ヘンゼルは、養父である男爵から、重要な人物が屋敷を訪ねてくることを告げられた。


(まさか――)


 待ち望んでいた、あの青年かもしれない。


 高まる気持ちを抑えつつ、妹を連れ、客間へと向かった。

 扉を開く。

 部屋の中にいたのは、待ちに待った青年本人だった。


 彼のそばには、以前平民街の近くで見た少女がいた。隣に、赤い髪に碧の瞳をした少年も居る。


 少女が笑顔で、ヘンゼルに声を掛けてきた。


「ヘンゼルさん、お久しぶりです。グレーテルも久しぶりね」


 今日も彼女は清らかだ。

 ヘンゼルは以前、彼女が言っていたことは綺麗事だと思っていた。だが、今は少しだけ、生まれを気にしない人達も存在するのだと思っている。


「ティエラ!」


 グレーテルが、ティエラという名の少女に飛び付いた。

 二人は、喜び合っている。


「突然ごめんなさい。今日は二人に、お願いがあってこちらにうかがいました」


 ティエラがヘンゼルにそう言った。

 そして慌てて、自己紹介がまだだったと付け加えた。


「私はティエラ。こちらはソル。そして――」


 青年の方を振り返った。


「この人は、知ってるかもしれませんが、ルーナと言います」


 三人の名前を聞いて、ヘンゼルは衝撃を受けた。

 グレーテルは、きょとんとしている。

 この国で、ティエラ、ソル、ルーナと言えば、誰もが知っている。


「もしかして、貴女は……」


 ヘンゼルは、少女に向かって言葉を紡ごうとしたが出来なかった。

 そして、この部屋に来て初めて、青年が口を開いた。


「彼女は、ティエラ・オルビス・クラシオン様。この国の王女になります」


 そう彼に紹介されたこの国の王女は、こちらを見て笑っていた。

 衝撃と同時に、言いようのない感情がヘンゼルを襲ってきた。

 ティエラにルーナ、それはつまり――。


「最近、私のお世話係が出産のために里に帰ったんです。良かったら二人に、城に来てくれないかなって。ただ、入城には貴族である必要があって……」


 ティエラがルーナを見た。


「ルーナに、どうにか出来ないかお願いしたんです」


 この国の王女は、とても嬉しそうにルーナに笑いかけていた。

 ヘンゼルは、彼を見た。


『彼女のことは、もう家族だと思っている』


『今は、妻や恋人はいない』


 ルーナの言葉を思い出す。


(確かに彼は嘘はついていない……)



 だが――。



――婚約者はいたのだ。



 ヘンゼルの瞳に映る青年は、こちらを見てはいなかった。

 王女に向かって穏やかに微笑むルーナを、ヘンゼルは黙って見つめていた。




※※※




 そうして、ヘンゼルとグレーテルは城に入り、ティエラ姫の世話係となった。


 姫様のそばにいると、自分がとても汚れた存在に感じて苦しかった。


 グレーテルが姫の世話を一人で出来るようになってからは、ヘンゼルはルーナの世話係となった。


 ルーナがどういう人間か、よく理解した今、ヘンゼルは当時を振り返る。

 彼は婚約者の願いを聞いて、姉妹を入城させたいと考えたのだろう。

 恐らく娼館を尋ねて来ていたのは、ヘンゼルを信用させて、自身の考え通りに事を運ぶためだったのだ。



 ルーナは、姫のためになることなら、何でもやる。

 それが、国に背く結果になったとしても。


 ただ、最近のルーナの様子はおかしい。


 もしかしたら、本当にティエラのことを利用しようとしていたのだろうか。


 彼の考えがよく分からなくなってきている。


 それでも、彼から離れることが出来ない。


 自分でも馬鹿な女だとは思う。


 それでも彼の願いなら、私も叶えたい。


 ヘンゼルは真っ直ぐに前だけを見据え、歩を進めた。




お付き合いいただき、ありがとうございます♪

次からは本編に戻ります♪

引き続き、よろしくお願いいたします♪

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