獣人族の宴!④
森からは、逃げるようにこちらへと飛んでくる鳥や動物の群々。
先ほどから森の奥の方からは鋭い轟音や殺気が飛び交っている。
これは、ネルトやルーナによる戦闘の痕跡だろう。族長さんが言っていたように、森を破壊し尽くす喧嘩っていうのも案外間違ってはないのかもしれない。
とはいえ、そんな状態でも落ち着いて「いつものことですよ~」と受け流す集落の皆さんも相当だ。
なお、あの二人にはどちらにしろ後の方に手厳しい説教が待ち受けているらしい。
残念ながら、当然と言えよう。
「まぁ、あの姉妹については放っておいても良いでしょう。さてさて、タツヤ様。用件を戻しましょうぞ」
族長の言葉で、一気に現実に戻されたのは俺だ。
そうだ、そういえばさっき、圧縮魔法で精製された水棲馬の肉と、ルーナが大好物だという圧縮魔法で香りを閉じ込めた団子を食べさせて貰ってたんだ。
ここの主食は、主にこの肉や団子であるらしい。
団子に関しては、いろんな香り、味が堪能できるように投入する木の実は替えてあるそうだが……。
「そのお米、別の方法で食べることも出来るんですよ。というかむしろ、俺のいた世界ではそっちの方が正攻法って言った方がいいのかな?」
俺が、ネインさんの用意してくれた米粒を片手で救った。
やはり、どの世界においても基本的な米の脱穀などの装置は似たようなものらしい。
江戸時代の頃に使われていた脱穀機など、教科書の写真でそれに酷似したものは全て置いてある。
米の収穫の際には、ここらへんを上手く使って団子の材料にしているようだ。
団子の材料にしているのは、荒さこそあるが、基本的には精米。
ここまでしてもらえていれば、俺もやりやすいってもんだ。
「団子の作り方は、確か水に浸した後に、これを挽いていくんですよね?」
俺の言葉に、ネインさんは「えぇ、そうですね」と頷いた。
「これを、米のままで……この、一粒ごとに食べられる方法があるんです」
「……?」
そりゃ、そうだよな。見たことのない製法は何言われても分からないもんだ。
俺もさっき、圧縮魔法製法なんてなんのこっちゃさっぱり分からなかったもんな。
ただ、あれを使えれば逃げていく香りや肉汁をまとめて押し込むことだって出来るんだ。
確か、ルーナも使えないし、俺なんて「んぁー」魔法の一つも使えないからなんとも言えないけどな……。
……あれ? 何かキッチンの下から声聞こえた気がする……けど、何もない。気のせいか……?
「っと、そんなことしてる場合じゃない」
俺は、気を取り直してネインさんに説明するべく、先ほどキッチン下から出しておいた器と、カップ、炊飯器を用意した。
「まずは、水で米を研いで、三十分浸したものがここにあります」
これは、実演販売みたいなものだろう。
まぁ、販売する直接的なブツはないが、炊きたてご飯の味を知るってことで。
「そういえば、先ほど……やっておられましたね」
「まぁ、三分クッキン○みたいなもんですね」
「……はぁ」
要領としては、炊飯器でやるよりかは飯盒炊飯を取った方がいいかもしれないな。
幸いにして、それに似た耐熱性のある容器は準備して貰っているし。
計量カップなどは、俺が今までで使っておいたものを使用する。
ひとすくいが一合だったりする分は、村の容器などに印、もしくは傷をつけて目印にする。
それは飯盒炊飯用に使う容器に関しても同じことが言える。
「さて……ええと、どのくらいにしますか?」
俺が計量カップを取り出すと同時に、族長は笑みを浮かべた。
「ルーナが心の底から信頼しておられるお方が作る料理……。そしてルーナへの謝罪、祭りも兼ねて多めに使いましょう。クセル」
族長が指で指示を出すと、「分かりました」と、ルーナの父親はでかい米俵を持ってきて、俺の前にドンと置いた。
その大きさ的に10キロはくだらない。おおよそ100合分の米を持ってきたクセルさんは、言った。
「我々村の者は何でも手伝いますよ。さ、タツヤ様。指示をお願いします」
俺の手元に浸した米と併せて、とんでもない量の米がその場に出される。
「……分かりました。ぱーっと行きましょう!」
俺はそこから、集落の人たちを呼び寄せてそれぞれにまとめて米の研ぎ方と作り方を指示した。
そこは獣人族、とても要領が良く、中には自身の水属性魔法を使用して浸す者も現れていた。
森での喧噪が一層激しさを増し、「さすがはクセルの娘だなぁ」と煽るようにからかっている村民と、
「申し訳ありません、申し訳ありません! 後でキツくお灸を……!」
――と、苦笑いを浮かべつつ謝るネインさんの姿。
どこか、皆嬉しそうだ。
なんだ、みんな、ルーナが大好きなんじゃないか。
まぁ、属性魔法が使えなくったって、ルーナはルーナだ。
これからの旅にもあいつは必要だし、俺もあいつといたら楽しいからな。
そんなことを考えながら、30分浸し終えた米を容器に入れ、火属性魔法の使用者が火を炊いていく。
森の中では、米のしっとりとした、どこか甘いような香りが広がっていく。
俺やルーナは一度、親子丼を作ったときに炊いてはいたが、やはり俺も日本人。
米の匂いってのは、どこか安心させてくれるものがあるのかもな。
「んぁー」
――と、そのとき。どこかから、再び聞こえた嬉しそうにも聞こえる声。
それは、キッチン下からのものだった。




