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戦士と自称しない鈴木たち

 殺村蟷螂は弟子と共に、たったの八人では処理しきれないはずの波状攻撃を仕掛けた。


殺村流(ころむらりゅう)殺人刀(せんにんとう)殺法(さっぽう)終弾(しゅうだん)輪血(りんち)!」


 勝ち方にこだわらないが、強さと勝利を求めている。

 それもまた強さであり流儀。


 彼女らは洗練された集団殺法をもって、一気に勝負を決めにかかった。


 最適解だと言っていい。これで勝てなかったのならあきらめるしかないという一手であった。


「ち……」


 対して八人は棒立ちしていた。

 常人の目に止まらぬ攻撃をしっかりと視認しつつ、迎撃が間に合わないと踏んで立っていた。


 なんで?


 彼女らはまだそう思わなかった。

 疑問を覚えたのは、その攻撃が当たったときである。


 彼女らはコロムラで配られている標準の軍用サーベルを使用している。

 それはヒロイン、あるいはスーパーヒロインが使っても折れない、刃こぼれしない脅威の強度を持つ刃物だ。


 サーベルはしっかりと当たった。

 皮膚を割き肉を切り、骨に当たった。

 そしてそれ以上進まなくなった。

 

 何人も人間を切ってきた彼女らだからこそ言い切れる。

 これは人間の肉や骨の硬さじゃない。


 小ぶりなナイフでマンモスを切ろうとするかのような、あきらかなミスマッチ。


 サンドバッグかと思って鉄の塊を殴ったプロボクサーのように、剣を振るった手首の方が悲鳴を上げる。


 だがそれより先に、彼女らの体に反撃の拳が突き刺さった。


 各々がそれぞれに、自分へ攻撃してきたコロムラたちへ、素手で殴り蹴る。


 蟷螂の弟子たちはそれだけで体が引き裂かれていく。悲鳴を上げる余裕もない。



「ユグドラシルアーツ……セーフティーバント!」



 そして蟷螂は胡瓜の持っていたバットのフルスイング(・・・・・・)が胴体に直撃した。

 肺の中の空気が抜けるどころではない。肺の下側がつぶされ、力任せに切断……ちぎられた。


 下半身と上半身が分かれて回転しながら地面に落下した。


「……!」


 息ができない。

 幸か不幸か思考はまわっている。


(こいつら……強い(・・)!)


 師匠として認められた彼女である。

 性根がどうであれ、状況を冷静に把握する能力を持っていた。

 何がどうなったのか理解し、戦慄する。


「いてててて……前の奴らより強かったな、ちょっと切れたぞ」

「服が破けてないかしら。私の服って、戦闘中に破れる想定なのに、本番前から破れてたら失礼じゃない?」

「俺なんて頭ぱっくり割れて血が結構出て、ユニフォームが汚れちまったんだけど。せっかく泥で汚してきたのに台無しだよ」

「しかしなんだってコロムラは俺たちのことをなめてかかるんだろうな。俺たちはこんなに強くてまじめで一生懸命なのに……」

「反社会勢力に属しているから仕方ねえだろ? それより見ろよ、こいつら再生している……ちゃんとリアクションしてやろうぜ?」


(筋力と防御力と素早さが高い! そのうえ戦うことにためらいがなさすぎる! 恰好がふざけているのに、シンプルに強い要素しかない!)


 ーーースーパーヒーロー李広。

 あらゆる状態異常をはねのけ、肉体と魔力が無尽蔵に回復し、小型の怪獣を四体使役する。

 世間はもてはやしているが、彼は自分を強いと思っていないらしい。

 肝心の身体能力が素の一般人と変わらないからだ。


 だがこの八人は違う。全員が単純に強い。

 コロムラの師匠として認められた蟷螂の攻撃に耐え、一撃で致命傷を負わせる力がある。


 当然だ。

 鈴木他称戦士隊は、全員が鈴木であり戦士(ウォーリア)でもあるのだから。


 それぞれわずかに型が違い装備こそ異なるものの、バランス型前衛職戦士のキャラクターメイク、スキルビルドを完成させている彼らは純粋に強い。


「やあみんな、お待たせ。可愛いネコちゃんにエサをやっていたら遅くなっちゃったよ。それでそこの人たちが、今日戦う予定だった相手かい?」


 ヴィジュアル系バンドのボーカルめいた姿の無花果は、ゆったりと歩きながら八人のもとに来た。

 出血している八人を心配する様子もなく、楽しそうに笑っている。


「そうだったんだけどさあ、試合前にぶつかっちまってな。ついうっかり全滅させちまった」

「再生能力があるみたいなんだけど、まだまだ再生しなくてさあ~~。全然意味ねえじゃん、なあ?」

「俺たちだって一応リアクションは取ったんだぜ? 『な、なに!? こいつら再生能力があるのか!? 確実に仕留めるにはもっとダメージを与えなければならないのか』ってよ」

「こいつら全員再生し始めたのかと思ったら、再生しきる前に死んじまってさあ。何とか生き返りそうなのひとりだけなんだぜ」

「その一人の再生待ち~~! すげえ暇。誰か携帯ゲーム持ってきてない?」

「さすがに失礼だから待とうぜ。もう少しで治りきるから、そこから仕切り直しって感じで」

「なあ姉ちゃんも暇だろ? 今のうちにバシッとセリフ考えておいてくれよ。こう……よくも仲間を殺してくれたな、仇は討つって感じで。あ、一度受けた攻撃に耐性があるとか、もう動きは見切ったとかあるとうれしいな!」

「それ仕切り直しか? もういっそ場所変えないか? 俺嫌だぜ、こんな雑魚の死体まみれの中で戦うの。なんか臭いし」

「じゃあ場所変えよっか。お姉さんもそれでいいですよね~~?」


 殺村蟷螂の再生は順調だった。

 動きやすいジャージ姿の美々とピエロ姿の奈乃香が下半身と上半身をくっつけてくれている。

 怪獣の細胞の力で再生しており、もうすぐ戦闘再開ができるだろう。

 鈴木たちはそれをのんびりと待っているのだ。


 反社会勢力コロムラに属し、自分の兄と弟を殺したことのある彼女は、人生で初めて異常者に囲まれる恐怖を味わっていた。


(こいつら全員がスーパーヒロイン級に強い! しかも今来た奴は、下手をしたら本気の現当主様にも匹敵する! 他のコロムラが来るまであと何分? それまで時間稼ぎができる? 交渉して一対一に持ち込む? できそう……だけども!)


 

 彼女は視線を動かした。

 自分の同志であり弟子であるコロムラの若手が死んで動かない。

 再生能力が蘇生に足りず、苦しんでから死んでいた。


 鈴木たちはそれを観てもなんとも思っていない。なんなら再生しないことに失望している。


(私は死ぬ……殺される!)


 少なくとも鈴木の半分は男子だった。

 彼女の嫌う優秀で実力のある男だ。


 兄や弟、あるいは今まで殺してきた無関係の一般人以上に憎い相手だ。

 殺したいほど憎い気持が確かにある。


 しかし死ぬほど憎いわけではない、刺し違えてでも殺したいわけではない。

 一方的に殺す立場だからいいのであって、立ち向かいたいわけではない。


「ころさないでください……おねがいします……」


 絞り出した言葉には本音だとわかるほどの響きがあった。


 これにはこの後の予定の打ち合わせをしようとしていた鈴木たちも言葉を失う。

 それ以上に興味を失っていた。


「この近所にファミレスあったっけ? この格好で大丈夫か?」

「血が出てるから拒否られるんじゃね?」

「この格好ならコスプレの一環だと思われるだろ、へーきだろ」

「テーブルとか椅子とか汚れるじゃない、気が利かないわねえ」

「それじゃあ銭湯とか寄る? そこでも拒否られそうだけど……」


 鈴木たちは蟷螂から離れて、挨拶することもなく背を向ける。

 もはや戦う意思がない。彼女もそれを感じて安堵の涙を流していた。



「無花果、帰ろうぜ」

「そうもいかないみたいだよ?」



 上空からすさまじい勢いで人間が落下してきた。

 隕石の衝突さながらの衝撃を伴って大地に着弾したが、その人間は直立不動であった。

 その足元に、苦悶の顔になった蟷螂がいる。


「申し訳ありません」


 コロムラの軍服を着ている淑女であった。

 彼女は蟷螂の胴体を踏みつけたまま、深々と頭を下げる。

 人体を踏みにじりつつ心からの謝罪をしていた。


「皆様が失望しお帰りになる気持ち、よくわかります。反社会勢力コロムラを代表して、皆様のお心を裏切ったことを謝罪いたしますわ」


 彼女はずいと、蟷螂の頭の上に足を置いた。


「やめて、ころさないで……」


 踏みつけている彼女は、その言葉に耳を貸さず、足に体重を込めて頭をつぶした。


「私の軽い頭を下げただけでは謝罪にならないかと思いますし、この女の頭をつぶしても謝罪にはなりません。行動で謝意を証明させていただきます」


 彼女に続く形で大勢のコロムラが着地してくる。

 その人数、およそ百人か。


「ここからがコロムラの本気の歓待です。お受けしてくださいますね?」


 百人の中には何人か、今の蟷螂より強い女傑が混じっている。だが鈴木たちはあくまでも、最初に降りてきた淑女に視線を集中させている。

 無花果以外の全員が表情を緊張させていた。


「無花果、わかってるな? あのお姉ちゃんが一番キャラが立ってそうだ。他の全員は俺たちが抑えるから、アイツはお前に任せる」

「そうだねえ、向こうも僕に熱視線をおくってくれているもんね」


 ヴィジュアル系バンドめいた服装の無花果は前に歩きながら手をかざす。

 現れたのはひたすらシンプルに美しい、鍔のない、白木の鞘の居合刀……らしき刃物。

 ゆっくりとそれを抜いた無花果は微笑みながら問いかけた。



「僕は鈴木他称戦士隊のメンバー、鈴木(すずき)無花果(いちじく)。そちらのお名前は?」

「コロムラの現代表……殺村全殺(こしあん)と申します。話の早い方で助かりました、それでは……一つ相手を願います」




 微笑みながら対峙する無花果と全殺。

 その二人の背後では鈴木とコロムラが真剣な表情で開戦に備えていた。


 真っ先にこの二人が衝突し、それを合図に戦いが始まるか、と思われた時である。



「お前は私が殺す」



 一人の女傑が飛び出し、無花果へ突っ込んできた。

 サーベルによる刺突を無花果はなんなく受けるが、止めきれずに押されて飛んでいく。



「ごめんみんな。この子は僕と戦いたいみたいなんだ、その人の相手はみんなでしてね~~」



 ウインクしながら謝って視界から消える無花果。

 鈴木もコロムラもしばしあっけにとられたが、仕方がないと空気を切り替えた。



「アイツも仕方ねえなあ。それじゃああのお姉ちゃんの相手は俺がする。早く助けに来てくれよ?」


 自分たちの中でも最強のコマをぶつけようとした相手がフリーのまま。

 誰かが抑えなければならない状況で、魚篭鳥(びくとり)は前に出る。

 一呼吸したのちにロールプレイに没入する。


「ふぅ……がはははは! 俺が相手とは運がねえなあ、お嬢ちゃん! クラス海賊(ヴァイキング)、英雄譚の魚篭鳥(びくとり)! ぶっ殺してやるぜぇ!」


 斧の二刀流が出現し、魚篭鳥が全殺へ突貫した。

 それを合図として、ようやく本格的に戦争が開始される。


 先ほどまでの和やかな雰囲気はなく、両者に大量の犠牲が出る血戦であった。

コロムラにも戦う理由はある。

そうでなければ命を懸けられない。


次回 一番になりたい、コロムラを守りたい。


 君はどんな理由で戦う?


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AI出力小説がカクヨムの一位になる時代ではあるが。 あるが、この小説はAIには絶対に書けない。 書いたとしても、凡百の作者なら投稿を拒否する。これが、スイボク先生並みの不条理を条理にする作者氏の空気感…
双方共に、バックボーンが分からん事には何とも評し難い連中やが、なんつーか『類が友を呼んだ』感のある組み合わせやな。
どこかで既視感があった。わかった、訓練されぬいたチンピラ集団みたいな集団。 いや、チンピラではなく、戦士だが
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