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蟷螂の戦う理由

 西暦2000年。

 地球に怪異と総称される脅威が出現し、一部の女性に魔力と呼ばれる力が備わるようになった。


 その一部の女性はヒロインと呼ばれ、人々から尊敬の念を集めるようになった。

 彼女らは現役を引退した後には政界へ出るようになり、世界の政界の男女比は女性に傾くようになっていった。


 西暦2100年。

 世界はいまだに怪異が現れ続け、魔力を持った女性も生まれ続けている。

 もはや世界全体で女尊男卑の風潮が定着しつつあった。


 だがそれも一部の話である。


 男尊女卑の時代でも、全ての男性が幸福で満たされていたわけではない。

 ならば女尊男卑の時代でも同じようなもの。


 魔力を宿さない大多数の女性は恵まれることなく、わずかに才能を持つだけの者は羨望を受けることがない。

 おのずと群れ、反社会勢力をなす。


 そのうちの一つがコロムラであった。



 過疎化し廃村となった山奥の村。

 そこに建ったまま残っている学校の校舎に、コロムラの拠点の一つがあった。


 体育館の中ではコロムラの構成員たちが一心にサーベルを振るい、剣術の稽古にいそしんでいる。


 彼女らの多くは十代後半。中には十代前半や、十歳になっていない子供もいる。

 いずれも第二次大戦時の日本軍の軍服を思わせる服を着ており、ふるっているサーベルもそれに合った趣のものであった。


 だれもが真剣そのもの。より一層強くなりたいと願っていることがすぐにわかる。


 若さと熱さの満ちた空間に、一人の女性が入ってきた。


 年齢は二十代後半。すでにベテランの風格をもつ女傑であった。

 やはり軍服を着ており、サーベルを帯びている。

 実に自信満々な表情をしている彼女は、稽古をしている少女たちから注目を集めつつも一人の少女の前に立った。


「紫電ちゃんね?」

「ちゃんはいりません。呼び捨てで結構です」

「それは失礼」

「それで、どなたですか?」

殺村(ころむら)蟷螂(かまきり)


 蟷螂と名乗った女性は、紫電と呼ばれている少女へ親しげに話しかけていた。

 紫電は稽古の邪魔をされて不快そうであったが、同時に不思議そうでもあった。


 コロムラは仲良しサークルではない。

 師匠と弟子という枠はあるが、他所の弟子に話しかける師匠格はそういない。


「私はね、今度李広捕獲の任務に就くことになったわ。本人をいきなり捕獲するわけじゃないけどね」

「……それは、人工島で暴れたあげく、何の成果もあげられなかった私への皮肉でしょうか」

「まさか。それにそもそも、何の成果もなかった、の方がよっぽど謙遜よ」


 蟷螂は好意的で、それを隠そうとしない。

 一方で紫電は反発的で、それも隠れていない。


 双方ともに、シンパシーを抱いている。

 紫電は同族嫌悪をしているだけで、蟷螂は同類ゆえに親愛の情を向けているだけだ。


「結果として私が貴方のモチベーションである李広を捕獲するかもしれない。場合によっては痛めつける可能性もある。許してくれるかしら?」

「……そうですか」

「残念そうだけど嬉しそうでもあるわね。わかるわ……いつでも私の弟子になっていいわよ」


 内心を見透かされて同族嫌悪を強めた紫電は、もう何も言わなかった。

 満足した蟷螂は体育館を出ていく。


 そこには二十人ほどの、蟷螂の弟子たちがいた。


 彼女らは全員が同じ動機……モチベーションを共有する者たちである。


 この女尊男卑社会では珍しくない男嫌い、ミサンドリストであった。



 殺村蟷螂、本名小野(おの) (ともし)


 彼女は魔力を持って生まれなかった、ごく普通の女の子であった。


 彼女の両親はこの時代では普通の共稼ぎ夫婦であり、経済状況もそれなりによく、彼女を含めて三人の子をもうけていた。


 彼女は普通の女の子であったが、兄と弟は優秀だった。

 魔力を持って生まれたとかではなく、運動神経がよくて勉強ができて友達もいたのだ。


 男尊女卑の社会でも頭のいい女性がいたように、この時代にも優秀な男児はいる。その二人もそうだった。

 常識の範疇で優秀だっただけだが、それでも彼女の劣等感をあぶるには十分だった。


 ネットでは『女が偉い』とか『女には敵わない』とか『男は劣っている』とか『男なんて大したことがない』とか。

 彼女が喜ぶ情報がたくさん書かれている。

 テレビや新聞でも国会議員などの政治家や大会社の社長は、女性が大半を占めている。


 女が偉い時代。それは本当のはずだ。

 しかし自分はちっとも偉くないし、世間は弟や兄をほめるだけで自分をほめてくれない。


 理想と現実のギャップというよりも、一部の成功例を自分と同一視していただけだった。

 そんなことはわかっているが、認めるわけにはいかない。

 そんな時に、彼女の耳にスーパーヒロインとしてデビューした当時の女性の言葉が刺さってしまった。


『俺が偉いのであって、他の奴は関係ないだろ?』


 ーーー彼女はそのあと、兄と弟を衝動的に、普通に殺した。

 魔力を持っているわけでもない少女が、同居しているとはいえ男二人を殺すことに成功し、さらに警察に捕まることなくコロムラに接触できた。

 それは彼女が悪い意味で優秀であると証明された結果だった。


 殺村蟷螂はそのような背景を持つ人物である。


 だからこそ彼女にとって、スーパーヒーロー李広は不愉快の極みのような存在であった。

 男が魔力を持ち、あまつさえスーパーを冠している。世間や社会から認められていて、たたかれていない。

 コロムラの目的上、彼を殺すことはないが……彼女が捕まえたときには彼を過度に痛めつけるだろう。


 彼女にとって男は敵であり、男をかばう者もまた敵であった。

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