12話
“ 青谷さんが殺されました。
僕は最初、残りの黄島さんが犯人だと思いました。
でも思い出したんです。僕と黄島さん、いえ、紗椰とは交際をしていました。だから彼女が殺人をするような人間じゃないことを知っています。
じゃあ、犯人は誰なのか。僕は、機内の座席表に違和感を感じました。白銀さんの死体が後方にあって、青谷さんが前方にいたのが気になっていました。
でもそれは、二人がTシャツを入れ替えていたら筋が通ります。
青谷さんは実は白銀さんだった。ならば白銀さんの死体が後方にあったのも納得できます。本当は青谷さんで、座席表の通りだったからです。
僕は青谷さんの死体を確認しました。具体的には、胸を揉みました。僕は青谷さん、本当は白銀さんの胸を揉んでいます。
間違いなく、彼女の胸の感触ではありません。これは別の死体の誰か。
それに青谷さんの服を着させた。だから青谷さんは生きている ”
「つまり犯人は、青谷さんに成り済ました、白銀さんだと思います」
山田のその一言に、全員が私に注目した。
「白銀さん。二人が記憶喪失に陥っていたことが立証されましたよ」
と小田切。まさか。記憶喪失が立証されるなんて。しかも、まさかあの時に胸を揉まれたことによってすり替えトリックがバレるとは。
私は挫けそうになる。いや、まだだ。まだ私は踏ん張れる。
「証拠を挙げてください。これは彼の憶測でしかない。私が犯人だという、物的証拠を」
私は言い放った。小田切含め、全員が押し黙る。
大丈夫。指紋は全て拭き取った。血だって本島に戻った時に洗い落とした。
証拠なんて、出るはずがない。
「ところで白銀さん。そのポケット、ほつれていますが、直さないんですか」
「えっ」
小田切に言われて、私は思わず尻ポケットを触った。たしかにほつれていた。でも、だから何だというのか。
「おい山田。赤矢はどうしてわざわざ、ハンカチの中心部分を避けるように染めたと思う? 白から青に染めるなら、例えば半分だけ浸すだけでも良いはずだ」
「え? それは、えーと……」
山田は考え込む。
「ヒント。染色は水に浸す必要があった。それが不都合だった」
小田切は言った。
「うーん、ハンカチの中心部分を濡らしたくなかった……?」
「それはなぜだと思う? 山田」
「ハンカチの中心部分に……証拠があるからっ!?」
山田が嬉しそうに言った。一方で私は、ゾワっとした感覚が全身を駆け巡る。
そうなのか。本当にそうなのか。ハンカチの中心部分に、証拠が残っているのか?
私たちは再度、101号室に入った。そして彼の押さえていたハンカチを回収し、中心部分を見る。
そこには、シミがついていた。
「そして、見ろよここを」
ハンカチの端を指さす。
「それ、は……」
私は絶望に打ちひしがれる。
そのハンカチは、大切な人からもらった、大切なハンカチ。
私の名前が刺繍された、世界で一つしかない、私のハンカチであった。




