11話
だが、まだだ。まだ誤魔化せる。
「ふふふ。小田切さん。何を言っているんですか? 一体どうやって、私が青谷さんになり済ますことが出来るんです? Tシャツを変えた? それで人を間違えることがあります? サークルのメンバーだったんですよ? 顔はしっかりと覚えているんです。 記憶喪失にでもなっていない限り、不可能でしょう」
小田切は私の言葉に、押し黙った。
はは。そうだ。そうだとも。私が成り済ましていたなんて、あり得ないのだ。それこそ、記憶喪失にでもなっていない限り。しかし今、この状況で、一体どうやって記憶喪失が起きていたことを証明する。
無理だろう。だって当の本人たちが死んでしまったのだ。
「あのですね。まだ続きがあるんですよ」
と鑑識の人が口を挟んだ。
「見てください、これ」
全員が鑑識に注目する。鑑識は、ゆっくりとハンカチを捲った。
「……っ!?」
私は言葉を失う。全身に鳥肌が立つ。
「見てください。104号室のカードキーです」
鑑識が言った。それは紛れもなく、104号室のカードキーだ。カードだから薄い。なのでハンカチの下に紛れていても気が付かない。しかも彼の右手のひらが覆い被さっていた状態だ。私が気がつくはずもない。
そうか。黄島を探すときに、104号室の鍵が閉まっていたのは、聡が原因だったのか。カードキーがなかったのは、ここにあったからか。
「ふむ。では行ってみるか。104号室に」
私たちは104号室のドアの前に立った。カードキーを差し込むときちんとロックが解除される。
「山田。手分けをして調べるぞ」
「はいっ!」
しかしそれを見つけるまで数分と掛からなかった。机の引き出しから、見覚えのないノートが出てきたのだ。
「読み上げます」
山田がノートを開いて、その内容を音読した。
“ どうも。赤也聡です。いえ、本当に赤矢聡かどうかは分かりません。ただ自分が赤いTシャツを着ていて、パンフレットに赤矢という名前があったので、自分は赤矢聡なんだと思いました。
変だと思いましたか? 実は僕と青谷さんと黄島さんは、どうやら記憶喪失になってしまったみたいです。
これを見ている方はもう、ジェット機にある死体を見たことでしょう。僕たちが目覚めた時、機内は密室でした。なのでこの三人の中に犯人がいることは分かりました ”
「えーと、1ページ目はここで終わっていますね。2ページ目は……ああ、書いてあります」
山田は続きを読み上げた。




