8話
「ああ、申し遅れました。白銀乃々です」
私は刑事の二人に挨拶をした。
私が残した青色のトラップに引っ掛かった、哀れな刑事たち。彼らに対して内心でほくそ笑みながら。
「ああ、あなたが乃々さん。お兄さんが亡くなられて、ご愁傷様です」
山田という刑事が、へらへらとした態度で言った。どうもこの女は、相手を慮る気持ちに欠けているようだ。
「それで白銀さん。今回のこの、美術サークルの旅行について教えて頂きたい。企画したのはあなただとか。しかし、あなたは参加されていない」
と小田切という名の刑事が言った。こちらはしっかりした印象だ。つまりは私にとって厄介な敵となる。
「はい。私も参加するつもりだったんですけど、当日に風邪を引いてしまって。なので兄に運転を代行してもらったんです」
「なるほどね。じゃあこの島には来る予定でしたか?」
「いえ。しかし通り道ではあったので、たまたまだと思います」
とそこで、また鑑識の方々がやってきた。
「青谷の頭部ですが、崖からの転落にしては破損が激しいと思い調べてみました。どうも鋭利な刃物を思いきりぶつけて破損した形跡が見受けられます」
と鑑識が言ったので、私は内心で舌打ちをした。
「鋭利な刃物……防火斧か」
と小田切。鑑識はそこまで分かってしまうのか。
「どういうことでしょう。自殺ではないですよね」
と山田。
「ああ、自分で自分の頭を防火斧でかち割るなんて出来ないからな」
そして私たちは青谷の死体を見に行った。崖を迂回して崖下に回ると、青谷の無惨な姿が波打ち際に落ちていた。
この死体は見つかる予定ではなかった。まさか海に捨てて、戻ってきてしまうとは。青谷まで防火斧で楽しく殺害してしまったのが悔やまれる。
「ちょっと、これ変じゃないですか?」
死体を観察していた山田が言った。
「ん、何がだ」
と小田切。
「だってほら、Tシャツですよ。サイズが合っていないじゃないですか」
山田は指を差した。青谷は青いTシャツを着ていて、しかし裾はへそよりも高い位置にしか届いていない。そりゃそうだ。私と青谷はサイズが違っていたから、交換していた。だから聡と黄島さんは私を青谷だと誤認したのだ。
「ふむ。因みに、今着ている青谷のTシャツのサイズが一番合いそうなのは?」
小田切の質問に、私は緊張感が増した。
「えーと。白銀乃々さん、一人だけですね」
山田が答え、小田切が私を睨む。ついに、私が疑われ始めたのだ。




