3話
101号室には赤矢の遺体があった。ここもまだ鑑識が終わっていないが、覗いて部屋の様子を見ることは許可された。
部屋の床に、その遺体はあった。近くには小さな容器があって、青い絵の具が水に溶けていた。絵を描く途中だったのか、画材が散乱している。
一方で遺体は、床に這いつくばるようにうつ伏せで倒れており、右手のひらで青いハンカチを床で押さえている状態であった。
「なんで青いハンカチを握っているんだ?」
「さあ、なんででしょう?」
山田の間抜けな声で返事をされると、妙にやる気が削がれる。
「じゃあ次は、黄島の部屋だな」
「えー。良いですけど、すっごい臭いですよ」
「おいおい、何年刑事やってると思ってるんだ」
そう言いながら、205号室の部屋のドアを開ける。
首吊にしろ絞殺にしろ、そういった死に方をすると、尿や便が漏れてしまう。黄島もその例外ではなく、やはりそういった体液が下腹部から垂れていた。そして部屋には強烈なアンモニアの匂いが充満している。
「あ、小田切さん」
と鑑識の一人が俺に声を掛けた。俺たちは一旦部屋の外に出て、話を聞く。
「縄と首の付近に、抵抗痕がありました」
「なんだと」
俺は鑑識に聞き返した。絞殺の場合は、被害者が自身の首に食い込む縄を解こうとして、首に爪の跡が残ったりする。
それが黄島の首にあった。ということは、黄島は殺されたということだ。
「おおー、急展開! 来ましたねぇー!」
嬉しそうにはしゃぐ山田。喧しい女だ。
「それと、機内で亡くなっていた桃瀬優衣の遺体ですが、機内から一度この館に運ばれた後、再度機内に運ばれた形跡があります」
「はあ? なんだそりゃ」
「さあ。しかし機内から館まで彼女の血痕が垂れています。血痕は2ルート分あり、往復しているのは間違いありません」
俺は考え込む。
「その桃瀬の遺体は、たしか首から上が切断されていたんだよな」
「はい。桃瀬の遺体がそうです。他二名は、一応頭部は残っています。損傷は激しいですが」
と山田が言った。
首のない死体。色分けされたTシャツ。赤矢が握っていた青いハンカチ。
「犯人は、青谷か」
俺は呟いた。




