10話
「黃島さん」
僕は意を決して言う。
「君が、犯人だったんだね」
僕がそう言い放つと、彼女は目をまんまるに見開いた。
「な、何を言っているんですか」
狼狽えたように、黃島さんは言った。
「青谷さんは、殺されていたよ。自分の部屋でね。プライベートジェット機の件だけど、青谷さんはトリックで密室を破った可能性を挙げていた。でもそれは違う。だとしたら、たまたま不時着したこの島に殺人鬼がいて、その殺人鬼がわざわざ密室トリックを用いて機内に侵入したことになる。そんなことをする理由はないはずだ。だから、僕たちの中に犯人がいるとしか考えられない。そして、青谷さんが殺された」
僕が犯人じゃないことは分かってる。だから、もう黃島さんしかいないんだ。
「じゃ、じゃあ、赤矢さんじゃないですか! 私が犯人じゃないことは、私がよく分かってるんです!」
「おい、いい加減にしてくれ! 一体何が目的だ! ここまできてしらばっくれる理由は何だ! まだ油断を誘って、僕まで殺す気か!」
僕が怒鳴ると、黃島は後ずさりをしながら、頭を抱えた。
「もう、こんなの嫌。あなたは。赤矢さんは何だか、特別だと思っていたのに」
黃島さんはそう言って泣き始めた。
特別。彼女にそう言われるのは、確かに特別のような気がしてくる。
そうだ。僕たちにはまだ、決定的に足りないものがある。それは、僕たちの記憶だ。結局のところ、僕たちは何者だったのだろうか。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
ズキンと、またも激しい頭痛がした。僕はあまりの苦しさに、頭を抱えて蹲る。
そしてまた、妙な光景が見えてくる。目の前には女性がいて、とても楽しそうに視界の主と話している。視界の主は、恐らく僕だ。そして相手は……。
――ねえ、聡。
僕の下の名前を呼んだのは、黃島さんだ。
いや、紗椰だ。
「また記憶喪失のフリですか」
紗椰の声がした。
「もういいです。殺人鬼となんか、一緒にいられません!」
そして足音が遠ざかっていく。
待ってくれ、紗椰。君は犯人じゃない。それは僕が一番良く知っている。君は殺人を犯す人じゃない。
そうだ。君が犯人なら、今無防備な僕を殺さないはずがない。
揺らぐ視界。その中心に捉える、彼女の後ろ姿。僕はそれに、必死に手を伸ばす。
そして僕は、意識を手放した。




