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商人からレシピを所望される。

 紹介状をもらったので、涙目に強い目医者さんに行ってきます。

 これで視界のかすみが改善されるといいなぁ。

 ついでに反対側の目のドライアイと花粉症による両目のかゆみも相談してこよう……。





 私からの希望はジャポニカ種の種籾と稲。

 あまりの熱望っぷりに戦くアランバルリは、さて私に何を望むのだろう。


「……ジャポニカ種ですと、特に雀人じゃくじんが上手く育てると言われています。希少種族ですが、そちらも手配いたしましょうか?」


「……奴隷になるのかしら?」


「ええ。ですがホルツリッヒ村の環境を一度でも見れば、奴隷ではなく専門の業者を呼び寄せるという形も可能かと思いますが」


 米を作るのに妥協はしたくない。

 雀は向こうでもお米が大好きだったので、こちらでも上手に育ててくれそうな気もしている。

 気難しい職人気質が過ぎないのであれば、専門業者を勧誘したい。


「できれば勧誘でお願いしたいかな」


「承りました。穀物ダンジョンの近くに多く住んでおりますので、事情を話して勧誘いたしましょう」


「一般的な相場より条件は良くしてください。技術の高さよりは人となりの良さを優先でお願いしますね」


「農業系の専門家は、専門家の中では冷遇されているのでとても喜ぶでしょう。また、人となりの優先も確かに承りました」


 これで遠くない将来、安心してお米が食べられるようになるだろう。

 想定していたよりは早くて嬉しいが、いざここまで話が詰められるとお米に対しての郷愁が募るのだから不思議だ。


「他にも労働力としての奴隷は御希望でしょうか?」


 正直、スライムとトレントで手は十分に足りている。

 どちらも大変働き者だ。

 だがやはり、もふもふには憧れがある。

 苦労しているもふもふがいるのなら、手を差し伸べるのも吝かではない。


「労働力は足りているんだけど……私が住んでいた所には獣人がいなくてね? 性質の良い獣人がいるのなら、共同生活もしたいかなぁという考えはあるの」


「種族の特色として、獣人は弱者を見下す傾向にあります。実力のある者であれば、フォルス様のお力を理解し、良き隣人であれるでしょう。しかしそれ以外はフォルス様のお力を理解できずに、見下す愚かな態度を取ることでしょう。まずは奴隷を購入し、獣人という種族を理解されてからの方がよろしいかと存じます」


 アランバルリは随分と獣人を警戒しているようだ。

 話の流れからして、商人という戦闘職ではない職業を見下し、称号ゆえに不遇だったアランバルリを過剰なほど邪険にしたのかもしれない。

 

「では戦闘よりも農耕に向く獣人を何人かお願いしようかしら。あとは……家族単位でも、一族単位でもいいわ。あぁ欠損していても大丈夫。欠損を治癒するといえば絶対服従を、契約なしでも誓ってくれそうじゃない?」


 ラノベのテンプレだ。

 そもそもスライムたちが過保護すぎて私は怪我をしないから、治癒系の魔法やスキルは弱いけれど、奴隷購入をきっかけにして充実させてもいい。

 ソーマやエリクサー的な欠損治癒薬も、気合い一つで簡単にできそうだしね。


「そういった、手段をお持ちでしょうか?」


 ごくりとアランバルリが生唾を飲み込む。

 私を手に負えないと言っておきながら、好奇心には勝てないのだろう。

 私と取り引きする覚悟も完了したようなので、嘘偽りもなく告げておく。


「今はできないけど、希望すればできるようになるんじゃないかしら。あとはきっと、この子たちはすぐにでもできそうね?」


 テーブルの上に鎮座して、私たちのやり取りを静かに見守るリリーとサクラを交互に撫ぜる。

 二人は勢いよくぷるるん! とその絶妙な感触の体を大きく揺らした。

 アランバルリには、当然できるから! という意思表示に見えているだろう。


「そう、で。ございますか。フォルス様のおっしゃるとおり、心身ともに病んだ奴隷が快癒した場合、服従というよりは忠誠を誓うケースが多いようですね。フォルス様の秘密を隠し通すためにも、処分対象の奴隷にも注意を配ることといたします」


「ありがとう。貴方の目を信じて一任します。よろしくお願いしますね? 人数は、そうですね。十人前後で手配くださいな」


「はっ!」


 完璧に優美なお辞儀がされる。

 彼が商人を引退する日、残りの余生を執事として生きる心積もりがあるなら雇ってもいいかな? と思うくらいには見事なものだった。


「アランバルリさんは、レシピが欲しいのよね?」


「野菜も大変良質なものですし、どうやらポーションなどもお取り引きいただける御様子……迷いはいたしましたが、最初のお取り引きは是非レシピにしていただければと思う次第でございます」


「……では、今回出したサバイバル料理の五点でどうかしら?」


「そ、そんなによろしいのですか!」


「ええ。どれも貧民に渡るようにしたいのでしょう?」


「はい! 信用できる高位の教会関係者がおりますので、そちらから広めていただく心積もりでございます!」


 高位の教会関係者、か。

 王族の血を持つ聡明な人物で、実権を握っている上に広める伝手も充実している……といったところだろうか。

 もし王族関係者なのだとしたら、王族からの国認定レシピとして、御機嫌取りに使わなくても大丈夫かもしれない。

 アランバルリはきっとその辺りも考えているのだから杞憂だろうか。


「……その人物は、元王族、とか?」


「現王族でございます。王、王太子に続き、王位継承権第三位を持っております」

 

 それは随分と珍しいパターンだ。

 教会のトップに近しい人物が王族だというのならば、王族はかなりの力を持っている。

 権力の分散はした方がいい気もするのだが、良質な絶対王政なら権力一点集中型もありかもしれない。

 滅びた盗賊村の村長は『元ジャクロット国第五王子』の肩書きを持っていた。

 放逐ですませていたのが王族としての情だったのだとしたら、不安を覚えてしまう。


「……この国の名前はジャクロット国で、間違いないかしら?」


「はい。間違いございません」


「……王族の不祥事は基本、どう裁かれるのか御存じ?」


「幽閉が多いようでございますね。幽閉の価値がないと放逐になるようです」


「放逐、ねぇ?」


 幽閉はわかる。

 万が一の種馬扱いなのだろう。

 で、利用価値がなくなった時点で病死といったところか。


「私の存じ上げている神父様曰く、どんなに駄目な王族でも最低限の浄化作用があるのだそうです。よって殺すよりは放逐するのだと」


 浄化作用。

 駄目な王族を持ち上げようとする屑を纏めて一掃するっていう、あれかしら。

 それにしては、あの詐欺師。

 巻き込める屑が少なかったようにも思う。

 私が早まった殲滅をしちゃったとか?

 あー、屑すら集められない能なしちゃんだった説もあるか。

 まぁトリアが大切にしていた村人たちを酷い目に遭わせた報いは、放逐決定した人間にも受けていただきたいところだが。


「放逐された王族の末路を御存じなのですか?」


「ええ……機会があったら、教えるわ」


 今回は普通の取り引きだけで十分だろう。

 さすがに元王子の罪石まで預けてしまっては、荷が重かろう。

 しかし灯台もと暗し。

 国内で潜伏を続けるには随分な罪だったようだが、なぜ国内に留まったのだろう。

 国外に出るだけの気概や才能がなかったということか。

 村の運営が私の手から離れて、トリアたちが望むのならば。

 その辺を探ってみるのもありかもしれない。

 死んでしまった者への復讐は限られている。

 罪を贖うべき者が生きているならば、存分に贖ってもらわねばなるまい。


「ではレシピを書くわね」


「よろしければ、こちらに書いていただけますでしょうか」


 すかさずアランバルリからB5サイズほどの冊子を渡される。

 手に取ってみると、一枚一枚剥がれるタイプのメモ帳のようだ。


「基本登録書は持ち主と、レシピを書き記した人間にしか読むことができません。剥がれた時点でレシピが普通に読めるようになるのです。また剥がしたものを管理する権利は、王族、教会、商人ギルドのみが保有しております。原本の閲覧は管理者のみ。複製されたレシピの販売がされることもありますが、そちらにもかなりの制限がかけられております」


 メモ帳は登録書、というらしい。

 手に入るなら数冊欲しいところだ。

 自ら登録するより信頼できる商人を通して、書き込むだけ書いた登録書を順次制御しつつ公開させた方が、問題は少ないだろう。

 それだけの負担をかけてしまうが、その覚悟をアランバルリは持ったようなので、その点も安心している。


「今回は教会を通しますので、複製されたレシピは安価で広く配布されることとなるでしょう。また教会で配布されたレシピは民の生活に役立つ物が多いため、違反者が少ないのも特徴となっておりますね」


 なるほど。

 結構な利点だ。

 苦労を重ねたにも拘わらず報われることが少なかった底辺人間としては、教会そのものが肥え太らないのであれば、教会にレシピを配布するのが一番良い気がする。


「それなら、回復薬系のレシピも教会を通すのが良さそうね?」


「欠損薬などの高価なものは王族管理が最適と思われます。また普通の食材を使うような料理のレシピは商人ギルドが最適ではないかと」


 さすがに全部が全部教会に丸投げとはいかないらしい。

 その点はアランバルリに請われたレシピを預ける都度に、相談した方がいいだろう。

 お米に関するレシピは基本教会を通してもらって、安価で広くお願いしたいところだけどね。


「レシピ関係はアランバルリさんを通してしか取り引きするつもりはないので、その都度相談することにしますのでお願いします。私はこれからレシピの書き込みを始めますので、のんびりと村の散策をしていてください」


「それなら僕とリリーで案内するよ。サクラはアイリーンを手伝ってあげて」


「頑張るのねー」


「任せてくださいなのです!」


 よろしくお願いしますと、丁寧に頭を下げるアランバルリを連れて、トリアとリリーが部屋を出て行く。

 サクラはスライム収納から、ニードルビーの蜂蜜をたっぷり入れたレッドベリーティーを出して私に勧めると、自分はテーブルの上、登録書の隣に陣取って、私が書き連ねる文章に、大変有り難い校正を加えてくれた。

 うなり声を上げながら書き連ねる私の気分転換をさせようとする発言の中に、サバイバル料理のレベルが上がったのですー! という報告がある。

料理人レベルは上がらなかったけれど、この調子で料理はずっと作り続けていきたいと握り拳を作ってから、再び登録書作成作業に勤しんだ。





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 心身ともに良好 


 料理人 LV 4 


 スキル サバイバル料理 LV 5 new!!

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV∞ 愛専用

     命止魔法 LV3 愛専用


     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)



 節分時に調子が思わしくなかったので、ひな祭りは頑張るぞ! と勢い込んでいたら、その辺りの体調も不安な気がしてきました……。

 ちらし寿司ぐらい作りたいんですけどね。


 次回は『村を整備しましょう。家造り編。(仮)』の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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