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異世界は幸せ(テンプレ)に満ち溢れている  作者: うっちー(羽智 遊紀)


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80話 最深部での攻防開始 -油断禁物ですね-

一瞬の油断が命取りです。

「4班は探索チームを護衛して撤退!探索チームはさっさと気持ちを持ち直せ!拠点に戻ったら2班、5班に救援要請ですぐに来るように伝えろ!リョージは牛人2体の足留め、可能なら討伐!1班と3班は半月円状で牛人以外の魔物を討伐しろ!カレナリエンは回復に専念、場合によっては撤退の指揮を任す!皆、決して無茶をするなよ!生きて帰るぞ!」


「私たちは残りますよ!軍曹を見捨てて撤退は絶対にしません!」


 部隊長の号令にライナルトから返事が返ってきた。舌打ちをしながら再度説得しようとした部隊長だったが、ライナルト達の目を見て諦めると「好きにしろ!」と叫ぶのだった。


「牛人2体の相手はするけど、離れた所にいるあの1体はどうするの!」


 亮二は魔物の群れに魔法を連続して打ち込むと大きく叫んだ。各自が部隊長の指示に従う為に動く中、亮二は”ミスリルの剣”に【雷】属性を付与しながら質問すると部隊長は決死の表情で答えた。


「今のところは動きが無い様だから放置するが、動き出したら俺が相手をする」


「部隊長では荷が重いと思うよ。言っちゃ悪いけど俺に任せてよ!」


「代わりに牛人2体を相手にしろって?残念ながら2体同時に相手にするほど体力が無いんだよ。少しは年寄りを労われよ」


 亮二の指摘に部隊長としては珍しく冗談で返すと亮二から借りた”コージモの剣”を握りしめて広場の奥で動かずにこちらを眺めているひときわ大きな牛人を睨みつけた。


「28才の若人が何言ってんだよ!必ず2体とも倒してそっちに行くから絶対無茶して戦うんじゃねえぞ!」


「分かってる!まだミルコの子供に名前を付けてやる約束もしているからな」


 亮二は牛人に向かいながら部隊長に無謀な行動を慎むようにもう一度声をかけるのだった。


 □◇□◇□◇


 -戦闘開始10分前-


「今のところは順調に探索が進んでいるな。順調すぎて引き際が難しいぞ」


 部隊長は冗談を言う余裕が出来ていることに安堵し、休憩の指示を出そうとした時に亮二から小声で部隊長だけに聞こえるように報告を行った。


「部隊長、この先に広場が有るんだけど」


「なぜ小声なんだ?」


「魔物の数が多いからだよ。撤退するなら今だと思って、ちなみに魔物の数は30匹くらいかな」


 亮二からの報告に部隊長は悩みながら全体を招集すると状況の説明を行い、最大限に警戒しながら先に進むことを伝えた。


「取り敢えず先に進むが、危険そうならすぐに撤退だ。学者達最優先で行動する事を忘れないように」


「カレナリエンさんの魔法で先の広場に居る魔物の種類は分からない?」


 亮二の問い掛けにカレナリエンは目線を奥に向けて、小さく呟いていたが小さく被りを振ると無理である事を伝えた。


「上手く精霊が動いてくれないの。この奥に魔物が多い事は分かるんだけどね」


「仕方ないな。では物音には十分に用心して進むように」


 部隊長の号令の下、5分ほど進むと暗闇であるはずなのに前方から光が漏れてきている事に気付いた。光の奥からは騒がしい音が漏れてきており、多少の音も大丈夫と判断し、部隊長は全員に音を立てない事と魔法をすぐに撃てるように伝えると光の元に向かって進んでいった。


「こ、これは!」


 広場らしき場所に居た魔物の数は確かに30くらいだったが部隊長は光の奥に存在する魔物の正体を見て愕然としてしまった。牛人が3匹居たからである。その内の1体は他の2体とは違い体格もひと回り大きく、佇まいも威風堂々としており貴族のようでもあった。見た目と醸し出すオーラ、何より牛人が3体居る事に危機感を覚え撤退の合図を出そうとした時に体格のいい牛人が立ち上がると亮二達が居る方を向いて手に持っていたメイス状の武器を振りかざして大きく叫んだ。


「まずい!こっちに気付いている!どうする部隊長?」


 亮二の問い掛けに部隊長が悩んでいると体格のいい牛人はさらに何かを叫び始めた。牛人の叫び声に呼応するように牛人の背後に設置されていた魔法陣のようなものが光り始め、魔法陣から魔物が溢れんばかりに出現し始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


 魔法陣から魔物が次々と出現してくる事がインタフェースの索敵モードで確認できた亮二は部隊長に向かって「敵の数は30追加!まだ召喚される可能性あり!」と叫んだ。部隊長は亮二からの報告を聞くと各人に号令を出し始めた。亮二は”コージモの剣”を部隊長に”ミスリルの腕輪”をカレナリエンに渡すと自らはストレージから”杖”を取り出し、迫り来る魔物に向かって”ライトニングボール””ファイアボール””アイスボール””ウィンドボール””アースボール”と密かに練習していた魔法を無詠唱で連続で叩き込むと”杖”をストレージに仕舞い、”ミスリルの剣”を取り出して握り直すと、牛人に向かって全力で向かって行くのだった。


 亮二は牛人の1体に向かって一気に間合いを詰めると牛人の武器を持っている右手を狙って袈裟斬りを行った。牛人は油断していたのであろう、亮二が間合いに入った状態でも武器である斧を構える事なく己の肉体で防御しようと腕を上げて亮二の剣筋を受けようとした。


「ごぉぉぉ!」


 大きな叫び声が広場に響き渡った。【雷】属性を二重で付与されている”ミスリルの剣”はその性能を思う存分に発揮し、牛人の右腕を切り落とすと返す刀で左足にも致命傷になりうる傷を与えた。右腕と左足に致命的な傷を負った牛人は地面に倒れ伏し暴れていたが、亮二はそれに目をくれる事も無く2体目の牛人に向かって”ミスリルの剣”を下から掬い上げるように切り上げた。


「ちっ!お前も油断しとけよ!」


 言葉は理解できないとは思いながらも、牛人に対して悪態をつきながら下から掬い上げられた一撃を受け止められた亮二は一旦間合いを取り、すぐさま右にステップを踏んで右払いの一撃を出してみたが、軽く受け払われてしまい、体勢を崩したところを上段からの一撃を逆に受ける事になってしまった。


「リョージ様!」


 カレナリエンの目には1体目の牛人を一瞬で倒した亮二が2体目の牛人に苦戦をしているのが映しだされていた。初撃を躱された亮二が体勢を崩したと同時に牛人の上段から鋭い一撃が打ち込まれ、斧が亮二の身体に吸い込まれるように見えた。カレナリエンの膝が崩れ落ちそうになった時に牛人の影から亮二の声がすると、牛人の背中から”ミスリルの剣”が生えているのが目に入った。


「あっぶねぇ、死ぬかと思った!」


 牛人の下から出て来た亮二はカレナリエンの姿を見かけると親指を立てて無事な事を伝え、未だ動かず戦況を眺めている最後の牛人に向かって走って行くのだった。

まだまだこれからー!

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