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異世界は幸せ(テンプレ)に満ち溢れている  作者: うっちー(羽智 遊紀)


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42話 姫様登場 -姫様の勢いが止まりませんね-

偶然、冒険者が完全装備でいて助かりました。

「それまでです!」


 スラム街の一角には似つかわしくない声が辺りに響き渡り、小屋の中に居る全ての者達がその声に引っ張られるかの様に視線を玄関に向けた。視線の先では1人の少女が鋭い眼光で居るもの全てを眺めると中に勢い良く入ってきた。


「いつまで、くだらない話をしているのです。私の白雪はどこですか!」


 亮二は一歩前出ると少女に対して部屋の一角を指さした。少女が目線を指先の方に向けると、そこには一心不乱に肉をかじっている白い大型犬がおり、少女を見ると嬉しそうに「わん!」と一言吠えると少女に向かって飛びかかるようにじゃれついていった。そんな大型犬を愛おしそうに撫でている少女と一緒に入ってきた若い騎士が亮二に向かって声をかけてきた。


「貴様が姫様の白雪を救出したのか?もちろん怪我一つなく無事に助けたで…「だまりなさい!」」


 亮二に対して高圧的な詰問口調で話しかけてきた若い騎士を遮る様に叱責すると、少女は亮二に向き直り、上から下まで眺めた後で話しかけてきた。


「貴方が白雪を救ってくださったのですか?」


「はい。私が姫様の白雪様を救出させて頂きました。ただ、白雪様が姫様のご友人とは知らずに勝手に食事を与えてしまったことに関しては謝罪を申し上げます」


 若い騎士から姫様と言われた少女に対して亮二は言葉を選びながら事実の説明及び、勝手に餌を与えたことに対する謝罪を行った。


 - 姫様が飼っている犬だもんな。こういった高貴な人が飼っている動物って愛玩動物扱いすると怒るらしいからな。これだけ人間と同じ様に扱っていたら問題ないだろう。スキルの「礼節 7」が発動してくれているから助かるわ -


「そう言えば、名前を聞いておりませんでした。その方の名は?」


「はっ!私の名はリョージ・ウチノと申します。”試練の洞窟”で牛人を打ち取り、ユーハン伯より名誉騎士の称号を授かっております」


「貴方が”ドリュグルの英雄”のリョージ様ですか!会いたかったんです!私の憧れの英雄様が白雪を助けて下さったなんて、まさにイオルス神のお導きなんでしょうね!やはり私達は会うべくして会う運命だったのですよ!」


 凛とした声で少女から名前を聞かれたのでスキル「礼節 7」がフル稼働して亮二が答えた瞬間に凛とした姿は鳴りを潜め、年相応の少女の顔になると頬を染めながら勢い良く亮二の手を握ってきた。


「エレナ姫!周りの目をお考え下さい!牛人を討ち取った”ドリュグルの英雄”であるリョージさんに会えて嬉しいのは分かりますが、もう少し落ち着いて下さい。リョージさんも固まってますよ」


「ごめんなさい、カレナの言うとおりね。失礼致しましたリョージ。今回の貴方の献身に何か褒美を取らさないといけませんね。後日、色々と話しを聞きたいので使者を立てます。その時を楽しみにしておきなさい」


 さりげに2人の間に入って少女を正気に戻して握っていた手を離す事に成功したカレナリエンは「もちろん、姫様の名前を知らないですよね。彼女の名前はエレナ=サンドストレムよ。念の為に王位継承順位は8位ですよ」と亮二の耳元で囁くのだった。


 ◇□◇□◇□


 亮二とエレナの話し合いが一段落したことを確認したカレナリエンの指示の下、囚われていた動物たちの開放と拘束されている5名の尋問を行っていた。ロープ自体は外されて亮二に返却されたが、何のためにストレージの中に入っているのか分からないイオルスから持たされていたロープだった為に、かなりの強度を誇っていた様で冒険者から「どこで手に入れた?」と質問攻めを受ける結果となってしまった。


「ドリュグルの街の露天商で買ったので出処は分かりません!」


 取り敢えず、亮二はロープについては入手方法を曖昧にして追求を逃れると尋問を始めた、姫が現れた事で観念したのかエーランドは自身の保身に走るためか、こちらが確認していない情報までドンドンと話し始めた。


結果、今回の黒幕はエーランド自身でエレナ姫の飼い犬を誘拐して警備に対する失点をユーハンに付けてドリュグルの街から追い出し、自分の従兄弟である前領主を復帰させようと企んだとの事であった。ただ、誘拐を依頼された素行の悪い冒険者達は1匹だけでは危険に対しての価値が見合わないと、他からも動物を誘拐して別の場所で実験動物として売りさばいて少しでも資金を稼ごうとしていた。お陰で亮二を呼びこむ事になったのでまさに藪蛇だったようだが。


「そんな事のために私の白雪だけでなく、他の動物も誘拐していたと言うのですか!」


 一連の流れを聞いていたエレナの怒りはかなりのもので、今回の騒動に関しては反逆罪を視野に入れて調査を行い、他にも賛同者が居るのかの尋問も行う為に王都に連行されるとの事だった。息子であるマークも事情は知らなかった様だが、日頃の素行が悪い事もあり、誰からも擁護されることが無かった為に親子共々判決を待つ身となった。


「それにしても、リョージ様は素晴らしい肉をお持ちなんですね。白雪がこんなに勢い良く食事をするのを見たことが有りません」


「そうなんですか?特別な所から頂いた肉ですので、美味しい事は間違いないと思いますよ」


「特別な所から頂いたお肉なんですか?リョージ様はお肉の話の他にも話題が尽きない位の冒険譚がありそうですね。今度の食事をする時でも色々お話をお聞かせ頂けませんか?」


 エレナからの言葉に気分を良くした亮二はストレージから追加の肉を取り出すと白雪に手渡した。白雪は先ほどとは違って、すぐに食べ出さずにエレナの顔をちらりと見ると「お座り」状態で声が掛かるのを待った。


「いい子ですね白雪。食べて良いですよ」


 エレナの声を聞くと白雪は嬉しそうに肉を食べ始めるのだった。

日頃の行いは大事ですね。

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