38話 それぞれの場所で -あちこちに行きましたね-
色々と動くと大変です
イオルスから貰ったポーションを飲んでコージモの腕は今まで仕事を奪っていた鈍痛が嘘のように無くなっており、亮二から依頼された武器開発のために一心不乱に鎚を振るっていた。
「それにしてもリョージ君は面白い事を考えつくな。剣と魔法の発動具が一緒になった武器か。形状は剣が基本との事だったけど、両方を両立させようとすると切れ味だけでなくて耐久力も必要だよな。後なんだっけ?『右手で剣を持って左で短いワンドを持って戦う”魔法剣士”って格好良くない?』だったよな。そうか!発動具を着脱式にして取り外せるようにすればいいのか。よし!大分と考えがまとまってきたぞ!」
自分が欲しい武器について熱く語る”ドリュグルの英雄”とは思えない本来の子供っぽらしさを出していた亮二の事を思い出してコージモは微笑みながら鎚を振るうのであった。
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「それにしてもリョージさんが”ドリュグルの英雄”ですか。私にとっては英雄どころではなく神様ですけどね」
お茶を飲みながら目の前で素材の確認をしている亮二に目を向けるとアウレリオは楽しそうに笑った。初めて亮二が彼の商会に訪れた時には投資しがいの有る人物だと直感的に思った。話をしたら今までの商売人では考えつかないような斬新な意見が戸惑う程に出てきた。貰った意見を元に店舗の大改造を行っていたら”試練の洞窟”で牛人を倒したとの連絡があり、恩賞として住居付きで名誉騎士としてユーハン伯に仕えることになっていた。亮二に会ってから1週間も経っていない出来事である。
「リョージさん、これからもカルカーノ商会をよろしくお願いします。ちなみにそんなに多くの材料を集めてどうされるんですか?必要な物がありましたらすぐに用意をさせますが」
「ポーションを作ってみようと思ってね。アウレリオさん作ったら買ってくれる?」
余りにさっくりと話をしだした亮二にアウレリオは一瞬固まると「ポーションを作る?」と呟いて手を顎に当ててそのまま考えだした。
- リョージさんの出で立ちを見ている限りは戦士にしか見えない。だが今の話し方ならリョージさんはポーションを作れる知識があるって事だよな。この国では魔術師ギルドが一括して製造販売をしていて製造方法は秘匿されていて門外不出のはず。もし、リョージさんが作れるなら、今まで固定金額で購入していたポーションの値段交渉が今後可能になるかもしれない。最大のメリットは欲しい時に納品をお願い出来るから在庫を減らせる。ポーションは消費期限が短いから廃棄している事を考えると、この取引に損はない -
「アウレリオさん?」
亮二が心配そうに覗きこんで居ることに気づいたアウレリオは考えを一旦中断して笑顔で答えた。
「すいません。ポーションを卸して頂けるとの事ですよね。ちょっと利益がどれだけ出るか考えてしまいました。ちなみにポーションは魔術師ギルドが一括して製造販売をしていますが、リョージさんは魔術師ギルドに加入されているんですか?」
「え?魔術師ギルドに入る必要があるんですか?」
アウレリオは小さく頷いてポーションについての現状を説明した。
・ポーションは魔術師ギルドが一括して製造卸を行っている
・法律で製造が禁止されている訳ではない
その説明の後で「作れるとしたなら相談があります」と話し始めた。
「納品できる数はどの位ですか?消費期限はいつまでか?卸金額はどの位を考えてますか?頼んでからの納品期間はどうですか?」
アウレリオの素晴らしいまでの食いつきっぷりに亮二は慌てて答えた。
「おぉ、ごめんなさいアウレリオさん。実家でポーションを作っていたので作り方は知ってるんだけど、一回実際に作ってみないと聞かれた内容を答えられないよ」
「利益が上がりそうな案件でしたので焦ってしまいました。それほど急ぎません。私もユーハン伯に間に入ってもらおうと考えていますので少し時間が欲しいところです」
その後の話し合いで、亮二が試作品を作ってアウレリオに見せることで話がまとまり、試作品の品評会は3日後に行うこととなった。
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「ちょっと!カレナ!ズルいじゃないのよ!リョージさんは私も目を付けてたのに!」
「仕方がないじゃない!ユーハンがあんな場所で宣言したんだから!確かに私も狙ってたけどさ」
「ズルい!カレナはそうやっていつも良い所を持って行くのよね」
カレナリエンとメルタはギルドの受付辺りで睨み合うように言い合いをしていた。周りでは冒険者達が「どっちが勝つか」賭け事を始めたり、悲しそうな顔をして2人を眺める者などがいた。
「やっぱり、男は金と名誉だよな。いくら顔が良くてもダメなんだよ」
「まるで顔は良いみたいじゃないか」
「殴るぞ!」
「何かあったんですか?」
「あぁ?カレナリエンとメルタがリョージを巡って言い争いをしてるんだよ。いいよな、金持っている男は」
「金だけじゃなくて顔と性格も良いけどね」
「顔ってお前、あいつはまだ子供だろ。金持っているのはギルドに来た日の宴会で知ってるけど、ああいったやつは性格が悪いって決まってんだよ」
「本人を目の前に性格が悪いとか言われるとさすがに傷つくわ」
喋っていた冒険者と周りにいた冒険者達は一斉にギョッとして亮二の顔を見つめた。突然静かになった冒険者達に違和感を感じたカレナリエンとメルタは言い合いを止めると、自分達の視線の先に亮二とシーヴが居る事に気が付いた。
「ちょっとカレナ。そう言えばもう1人居たわね」
「そうね。私は第一夫人を確実にするから、メルタは第二夫人を目指すなら協力するわよ。リョージさんは子爵なんだから2人まで伴侶を得られるから」
「でも、それってこの国の法よね?リョージさんの国ではどうかしら?」
「そんなのこの国の名誉騎士だからって強引に行けばいいのよ!」
「なるほど!」
カレナリエンとメルタはガシッと腕を組み合わすと同盟を結んだような顔で頷き合い、亮二の方を向くと笑顔で「「こんにちは、リョージさん」」と声を揃えて迎い入れるのであった。
おぉ!モテ期到来




